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第19話 ヒヨリの服【イラスト付き】

 教会の騒動から数日後、水の都アクアリアの午後は、眩しいほどの蒼に包まれていた。

 

 相変わらず昼間の空には巨大で幻想的な赤と青の『リング』が浮かんでいた。

 

 俺と、剣を立てかけながらサバ入りサンドイッチを食べるサラと、あの時助けた銀髪の女子生徒、エリーは、広場の中心にある巨大な噴水の縁に腰を下ろしていた。

 

 背中まで届く艶やかなロングの銀髪を海風になびかせ、彼女は魔法学校の制服の上から、俺の白いパーカーに身を包んでいる。

 その上から羽織った、校章の刻まれた黒い小さなマントが、どこかお嬢様のような気品を感じさせていた。

 短くカットされたスカートの制服姿は、この水の都の開放的な空気に驚くほど似合っている。

 

 彼女の艶めかしい太ももを見ると、あの時の膝枕の柔らかさを思い出す。

 



「カイト様、聞いてますか?」

「……はっ! 悪い悪い。」

「見てください。これが『魔法貝』です」

 


 エリーが掌に乗せて見せてくれたのは、淡いピンク色に輝く小さな二枚貝だった。

 

「貝を割ると炎が出るんですよ。貝の中に特定の詠唱を書き込んで、魔力を込めながら養殖させるんです。数年かけて一つの魔法を作るんですよ。一度きりの使い捨てアイテムです……まあ、カイトさんにはいらないかもしれませんけど」

 

 エリーはクスクスと笑う。魔法学校の制服から覗く彼女の白い指先が、貝の表面を愛おしそうになぞる。


「数年かけて一つの魔法を作る、か……そういうの嫌いじゃないな」

「高価なものだと中の真珠を結婚指輪にして、プレゼントする人も居るんですよ」

「まぁ……素敵」


 サラがサバ入りサンドイッチを頬張りながら会話に参加する。


「それから、もう一つ……」


 エリーはそう言って、パーカーの萌え袖の手で、制服のポケットから別の貝を取り出した。今度は透き通るような深い青色をした、まるでサファイアの欠片のような美しい貝だ。


「これは『安息の外套(レスト・ベール)』という聖魔法を封じ込めたものです。割ると精神を安定させる柔らかな青い光が溢れ出して、混乱した意識を鎮めてくれるんですよ」


 エリーが指先でその青い貝を軽く叩くと、殻の隙間から、湖の底を思わせる静謐な光が漏れ出した。

 その場にいたカイトたちの肩の力が、ふっと抜けるような心地よさがある。


「へえ、便利そうだな。……なあエリー、それ、予備も含めていくつか売ってくれないか?」


 カイトがそう切り出すと、エリーは不思議そうに首を傾げた。


「ええ、構いませんけど……カイトさん、何か不安なことでもあるんですか?」

「いや、俺じゃない。……サラが怒った時に使えば、少しは話が通じるようになるかと思ってさ」


 カイトが冗談めかして隣を見やると、そこには案の定、氷点下まで温度が下がったような冷ややかな視線があった。


「……カイト。今、なんて言ったの?」


 サンドイッチをもぐもぐ頬張っているサラが、割って入った。

 静かに、しかし逃げ場のない威圧感を込めて睨みつける。


 エリーは「あちゃ……」という顔をして口元を抑え、カイトは慌てて「冗談だって!」と手を振った。





「まあ、手軽だけど、ちょっとした魔法しか撃てないんだな」

 

 怒りを鎮めたサラが補足した。


「そうね。でも、私みたいに魔力を持たない一般人や、魔力回路が未弱な者にとっては貴重な道具なのよ」

 

 エリーが隣で相槌を打つ。

 彼女の銀髪の髪が海風に揺れ、愛らしい瞳が噴水の水面を見つめていた。俺はふと思いついて、エリーに尋ねてみる。



 

「なあ、これって強化魔法の貝ってないのか?」

 

 ――強化魔法。

 

 この魔法を対象にかけることによって、筋力や魔力、特定の耐性などを強化することができる。



 

「強化魔法は……ありませんね」

 

 エリーが不思議そうに首を傾げた。サラがサンドイッチを飲み込んで、怪訝そうな顔で俺を見る。

 

「どうしてそんなこと聞くの?」

「……俺、自分に強化魔法使えないんだ」

「え」

 

 サラの手が止まり、エリーの瞳が点になった。

 

「……なぁ、サラ。俺のこの欠点、どうにかならないかな」

「自分へのバフ(強化魔法)が使えないこと?」

 



 俺は溜息をついた。

 

 原理は、自分に聖魔法(治療)がかけられないのと同じだ。

 俺の《二重回路》は、魔法と物理を完全に分離している。

 脳内で並列処理ができる代償として、俺自身の『魔力回路』から出た魔力は、俺自身の『肉体(駆力回路)』を異物として弾いてしまう。

 他人には最強の回復や強化をかけられるのに、自分だけは「素」のままだ。

 

「カイト様は今のままでも十分すぎるほどお強いですが……確かに、さらに上の領域を目指すなら、自分を強化する手段は欲しいですね」

「たしかにな……」

「そうだ! 魔法学校の図書館に行きませんか?」


 エリーが両手でパンと手に叩いてそれを提案した。


「魔法学校の図書館?」

「はい! その図書館には魔法に関する魔導書がたくさんあるんです! それを見れば何かヒントがあるかもしれませんよ」

「なるほど……ちょっと行ってみるか……そうだ! 俺の影について調べれば何か分かるのかもしれない!」

「なるほど! それはいいですね」


 俺の提案にエリーは同調した。


 まだ未解決の問題、頭部のない影問題だった。

 正直、気味が悪くてしかたがない。


 この前、エリーに影のことをカミングアウトしたら大層驚かれた。

 そのあと「ちょっとまっててください!」と言って、どこかへ消えたあと、大量の塩を持ってやってきた。

「それは呪いに違いありません! この盛り塩を使えば呪いが解けますよ!」と言われた時はどうしようかと思った。


「そうね……それはもしかしたら闇魔法……の類かもしれないわ」


 サラは俺の提案に同調した。


 

 



 そんな話をしていた時、一人の犬の獣人の冒険者が俺たちの目の前を横切った。

 ゴールデンレトリバーを思わせる、ふさふさとした金褐色の毛並み。

 ピンと立った大きな耳が風を切り、背負った大斧が歩くたびに重厚な金属音を立てている。

 使い込まれた革鎧はあちこちが傷ついているが、それがかえって修羅場を潜り抜けてきた風格を漂わせていた。

 

 

 

 そして、

 

 彼は迷いなく噴水の中へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

「えっ!? おい、危な――」

 

 俺が叫ぶより速く、男の体は水飛沫を上げることなく、吸い込まれるように消えていった。

 

「驚いた? あそこはギルドが管理しているダンジョンの入り口になってるのよ。その名も――『水のダンジョン』。文字通り水に溢れた迷宮よ」

「噴水が入り口……。お洒落だけど、心臓に悪いな」

 

 俺が苦笑いしていると、背後から聞き慣れた、でもどこか落ち着かない足音が聞こえてきた。

 カツン、カツンと、石畳を叩く規則正しい足音が背後から近づいてくる。







 その音は、俺たちが座る噴水の前で止まった。

 

「……お待たせ。カイト」

 

 涼やかな、それでいてどこか体温を感じさせる甘い声。

 振り返った瞬間、俺の思考回路は完全に焼き切れた。

 

「ヒ、ヒヨリ……?」

 

 そこにいたのは、いつもの厳格な修道服を纏った聖女――ではなかった。

 

 


挿絵(By みてみん)




 まずは羽織っているのは緑のフード付きのマント。

 普段はゆったりと体を包んでいたはずの黒い布地が、今は悲鳴を上げるほどパツパツに張り詰め、彼女の豊かな肢体をこれでもかと強調していた。

 

 特に胸元。

 服が裂けないのが不思議なくらい、その暴力的なまでの膨らみが修道服を内側から押し広げている。

 




 だが、本当の衝撃はその下にあった。

 サラもエリーも目を丸くした。

 

「その格好……どうしたんだよ」

 

 腰から下、あるはずの長い裾が消えていた。

 

 

 代わりに翻っているのは、夜の闇を切り取ったような黒いプリーツスカート。

 それも、立っているだけで太ももの付け根が見え隠れするほどの、超絶的なミニ丈だ。

 




「……サラがこの前言ってた」

 

 ヒヨリはいつもの無機質な、アーモンド形の瞳を俺に向けながら、淡々と口を開く。

 

「『カイトは私の足ばっかり見てくる』って。……だから、ミニスカにしてみた」

「ちょ、ちょっとヒヨリ!?」

 

 隣でサラが顔を真っ赤にして叫ぶが、ヒヨリは気にした風もない。

 彼女は自分の銀髪をさらりと払い、あろうことか、その短いスカートの両端を指先でつまんだ。

 

「これなら、見えやすい?」

 

 ふわり、と。


 ヒヨリがスカートの裾を横に広げ、お辞儀をするような仕草を見せる。




 ……眩しい。

 

 午後の強い陽光を浴びて、彼女の剥き出しの脚が発光しているかのように白い。

 

 膝から上、柔らかそうな肉感を持つ太ももが、黒いスカートとのコントラストでより一層瑞々しく強調されている。



 

「……おお」

 

 抗えなかった。

 

 男として、この暴力的なまでの「脚」の誘惑に、俺の理性を繋ぎ止める鎖は一瞬で弾け飛んだ。

 

 


 正直、今の俺の顔は相当だらしなくなっている自覚がある。

 

「……カイト……嬉しい?」

 

 ヒヨリが微かに、本当に微かに、満足げに口角を上げた。

 その無垢な可愛さとエロさの暴力に、俺が魂を抜かれそうになった――その時。

 

 

 



 ガツンッ!

 

「――ッ!?」

 

 右足の甲に、殺意すら感じる重みが叩きつけられた。

 


 

 サラの、騎士としての駆力と嫉妬がフルに込められた踏みつけだ。

 

「な、何すんだよサラ!」

「うるさい! 鼻の下伸ばしすぎなのよ!」

「仕方ないだろ! ヒヨリは『確信犯シスター』なんだ!」

「なによその概念!? 大体、ヒヨリもヒヨリよ! 何その格好! 聖女の欠片もないじゃない!」

 

 サラは湯気が立ちそうなくらい顔を赤くして、俺とヒヨリを交互に指差しながら地団駄を踏んでいる。

 

「サラ。……嫉妬? 醜い。……でも、カイトが喜んだから、私の勝ち」

「なっ……! 勝負してないわよ!」

 

 ヒヨリは淡々と、しかしどこか誇らしげに胸を張る。

 その拍子に、パツパツの修道服の中で巨大な膨らみがぷるんと震え、俺の視線はまたしても吸い寄せられる。

 

「サラ……そんなこと言っても無駄だ……ヒヨリは『確信犯シスター』なんだ!」

「なによその概念……」

「カイト様……あの、私も脚、もっと出そうと思えば出せますけど……」

 

 エリーがピンクのセーターの裾を少し気にしながら、上目遣いで俺の袖を引いてくる。

 彼女の銀髪が肩から滑り落ち、恥ずかしそうに頬を染める姿もまた、破壊力抜群だ。

 

「え、いや、エリーは今のままで十分可愛いから大丈夫だぞ!?」

「あ、カイト様、今『今のままでも可愛い』って言いました!? それって、脚を出したらもっと可愛いってことですか……?」

「いや、そういう意味じゃなくて……!」

 

 噴水の前で展開される、美少女三人の修羅場(?)とミニスカの誘惑。

 周囲を歩く冒険者たちが、羨ましそうに――あるいは哀れみを持って――俺を見ているのが分かる。

 



 (……魔王を倒す前に、俺の心臓が持たないかもしれないな)



 

 俺は右足の痛みと、目の前に広がる桃源郷のような光景の板挟みになりながら、深く、幸せな溜息をついた。

 

「もういいわ! ほら、さっさと図書館に行くわよ! あんたの強化魔法のヒント、探しに行くんだからね!」

 

 サラに強引に腕を引かれ、俺たちは賑やかな広場を後にした。

 

 

 ――ヒヨリのプリーツスカートが、歩くたびに軽やかに揺れているのを、俺は最後まで見逃さないように網膜に焼き付けていた。







最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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