3話 友人と唐揚げ
友人の“教職やめようかな”相談に振り回される回」
昼休み、学食の隅。
僕は唐揚げ定食の唐揚げをひとつだけ残し、食べるタイミングをずっと見計らっていた。最後のひとつを食べた瞬間に会話が途切れると気まずいし、かといって早く食べすぎると後半ずっと白米しか残らない。
そのあたりのバランス調整が、僕の日常にはけっこう重要だ。
誰に褒められるでもないけど。
そこへ、友人の駒井が椅子を引きずりながら座ってきた。
すでに顔に「相談あります」と書いてある。ほぼ筆ペンで。
「湊〜……俺、教職……やめようかなって思ってて」
きた。
僕の唐揚げバランス戦略が一瞬で崩壊した。
「……え、どうしたの急に」
「いや、なんていうか……教育心理の授業で“子どもはちゃんと見てる”って話あったじゃん?」
「あったね」
「俺、見られるの苦手なんだよな〜って、急に思い出したんだよ」
いや、それはもう教師向いてないとかじゃなくて、
ただの性格では? と思ったけれど言わない。
こういう相談で本当のことを言うと相談がさらに長引く。
「うん……まぁ、でも見られ続けるのが苦手でもやってる先生はいるんじゃない?」
「いや〜〜〜……でも俺、こないだレッスンで先生にじっと見られたとき、心拍数めっちゃ上がったし……」
「それたぶん普通の反応だよ」
「でもさぁ〜〜〜……」
“でも”が連続するタイプは危険だ。
このままでは僕の残りの唐揚げが完全に冷えて固くなる。
「そもそもさ、俺、教育実習で、絶対、黒板のチョーク折る自信あんだよね」
「自信って言う方向がおかしいよ」
「いや、そういう未来が見えるっていうか……」
駒井は少し天井を見る。
僕もつられて天井を見る。
何もない。ただの天井。
「あとさ、俺、先生になったら“提出物の締切守ってくれない生徒”にめっちゃイライラしそうなんだよ。いや、生徒じゃなくて俺自身がそうだからこそ……」
「そこは気持ちがわかるから逆に優しくなれるのでは?」
「いや〜〜〜……」
また“いや〜〜〜”が始まった。
このテンションの“いや〜〜〜”は最低5分は続く。
僕は唐揚げにかすかに残った熱を指先で確かめる。
もうギリギリ。ほぼ室温。
「さっきからずっと悩んでるけど、そもそも駒井、教職を取りたい理由って何なんだっけ?」
「……就活で、あったほうが無難かなって……」
薄い。
ウーロン茶より薄い。
ほぼ“水”の理由。
「でもさ、親が喜ぶかな〜って思ったりもして……」
急に濃くなった。
味噌ラーメン並みに。
結局、悩みポイントが散らかりすぎてて、
“教職やめたい”の本質がどれなのかまったく分からない。
「まぁ……やめるのも自由だし、続けるのも自由だし……一回、履修相談の先生に聞いてみたら?」
「いや〜〜〜、先生に相談とか緊張するし……」
「じゃあ俺に相談しても意味ないじゃん」
言ってしまった。
自分でも珍しいくらいの鋭さだった。
「たしかに……」
駒井があっさり納得したので、
僕はようやく最後の唐揚げを口に入れた。
完全に冷えていたけど、相談が終わった解放感で、妙においしく感じた。
「……まぁもうちょい考えてみるわ。サンキュー湊」
「うん」
結局、僕は何も解決していない。
ただ、冷めた唐揚げを食べただけだ。
——でも、大学生活ってわりとそういうものだと思う。
意味のあるような、ないような相談を、昼休みにする。
冷めた唐揚げを食べる。
その繰り返し。
そんな取り柄のない日常を、なぜか僕は少しだけ好きだった。




