第62話『再会と警告』
前回のあらすじ
セレスティアの家族救出作戦を終え、王都に戻ったアキラたち。束の間の平和を楽しんでいたが、ゼクスの存在が心に引っかかっていた。そんな中、ギルドマスターからAランク昇格の話が――!
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王都のギルド本部。
重厚な扉が開き、アキラたち五人がギルドマスターの執務室へと通された。
「よく来たな」
ギルドマスターが席から立ち上がる。厳格な顔立ちの中年男性だが、今日は珍しく穏やかな表情を浮かべていた。
「今回の任務、見事だった。セレスティア嬢の家族救出、そして三十人以上の囚人救出……これは十分にAランク相当の功績だ」
「マジですか!」
アキラが目を輝かせる。
ギルドマスターが頷く。
「ああ。よって、パーティランクをBランクからAランクへ昇格させる」
「やった!」
全員が喜びの声を上げた。
「そして――」
ギルドマスターが一人一人に視線を向ける。
「リーナ、お前はBランクからAランクへ昇格だ」
「はい!」
リーナが嬉しそうに頷く。
「ガルド、お前は元々Aランクだが……功績を評価し、Aランク上位として記録する」
「ガハハ!ありがとうございます!」
ガルドが豪快に笑う。
「エリン、お前はCランクからBランクへ昇格だ」
「はい!ありがとうございます!」
エリンが満面の笑みで頭を下げる。
「セレスティア、お前もCランクからBランクへ昇格だ」
「ありがとうございます……」
セレスティアが上品に一礼する。
「よっしゃ! みんな昇格だ!」
アキラが喜ぶ。
だが――
ギルドマスターの視線が、アキラに注がれた。
「……で、アキラ」
「はい!」
「お前は……」
ギルドマスターが咳払いをする。
「試験を受けてもらう」
「……え?」
アキラが固まる。
「いや、だって……パーティランク上がったんですよね?」
「ああ、パーティとしてはAランクだ」
「じゃあ、俺も――」
「個人としては、試験必須だ」
ギルドマスターがきっぱりと言った。
「特に、筆記試験をな」
「ひ、筆記……?」
アキラの顔が青ざめる。
「前回のBランク昇格試験でも、お前の筆記は……ギリギリだった」
「う……」
「実技は文句なしだ。だが、Aランクともなれば、知識も必要だ。魔物の生態、地理、歴史、薬学、魔法学……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
アキラが慌てて手を挙げる。
「俺、そういうの苦手なんですけど!」
「知っている」
即答だった。
「だからこそ、試験を受けろと言っている」
「ええええ!?」
アキラが絶望的な声を上げる。
リーナが肩を震わせて笑いを堪えている。
「ぷっ……あはは……」
「笑うな!」
「だ、だって……あんた、戦闘は強いのに、勉強はダメだものね……」
「うるさい!」
ガルドも笑っている。
「ガハハ! アキラ、頑張れよ!」
「ガルドまで!」
エリンが困ったように笑った。
「アキラさん……頑張ってください……」
「エリンまで他人事!?」
セレスティアが上品に微笑む。
「ふふっ。でも、アキラさんなら大丈夫ですわ」
「セレスティアだけが天使だ……」
アキラが涙目になる。
ギルドマスターが咳払いをした。
「試験は三日後だ。しっかり勉強しておけ」
「三日!?」
「短いか? なら一週間後にしようか?」
「いえ、三日で結構です……」
アキラががっくりと肩を落とす。
「では、解散。各自、準備を進めるように」
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ギルドを出ると、アキラは項垂れていた。
「筆記試験……筆記試験かよ……」
「まあまあ」
リーナが肩を叩く。
「私が教えてあげるから」
「マジで!?」
アキラが顔を上げる。
「ええ。一応、私も頭はいい方だから」
「リーナ! お前、天使か!」
「さっきまでセレスティアが天使だったのに、もう私が天使なのね」
「えっ」
「どっちでもいいわよ」
リーナがクスクス笑う。
「とにかく、今日から特訓よ。覚悟しなさい」
「は、はい……」
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その日の午後。
アキラは図書館で、大量の本に囲まれていた。
「うう……頭痛い……」
「まだ始めて一時間よ」
リーナが呆れる。
「魔物の生態について、第一章から読み直して」
「もう三回読んだんだけど……」
「じゃあ、問題。ゴブリンの弱点は?」
「えっと……」
アキラが必死に思い出そうとする。
「光……?」
「音よ」
「あっ」
「次。オーガの特徴は?」
「でかい……?」
「もっと具体的に」
「え……力が強い……?」
「再生能力が高いのよ」
「あああ、そうだった!」
アキラが頭を抱える。
リーナがため息をつく。
「あんた、戦ってるのに覚えてないの?」
「いや、戦ってる時は無我夢中だから……」
「もう……」
リーナが額に手を当てる。
「これは、想像以上に大変かも……」
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夕方。
宿屋の部屋で、ガルドとエリンも勉強を手伝っていた。
「じゃあ、この地図で……」
ガルドが大陸の地図を広げる。
「この山脈の名前は?」
「えっと……」
アキラが地図を凝視する。
「北の……山脈……?」
「そのまんまじゃねえか!」
「だって、そうとしか見えないんだもん!」
「正式名称は『エルデガルド北部山脈』だ」
「長い!」
「覚えろ!」
エリンが薬学の本を開く。
「では、この薬草の効果は?」
「えっと……回復……?」
「具体的に、どんな症状に効くかです」
「え……風邪……?」
「毒消しです」
「あああ!」
アキラが机に突っ伏す。
「もうダメだ……」
「諦めるな、アキラ」
ガルドが肩を叩く。
「お前なら、できる」
「でも……」
「大丈夫です、アキラさん!」
エリンが励ます。
「私たちが全力でサポートしますから!」
セレスティアも微笑んだ。
「私も、魔法学の部分をお教えしますわ」
「みんな……」
アキラの目に、涙が浮かぶ。
「ありがとう……頑張る!」
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だが、その夜――
アキラは勉強に疲れ果て、机で眠り込んでいた。
「すー……すー……」
リーナが呆れて見ている。
「もう……本当に、子供ね……」
彼女は毛布をアキラにかけてあげた。
「でも……」
リーナが小さく笑う。
「頑張ってるわよね、あんた」
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翌日。
「よし、今日も頑張るぞ!」
アキラが気合を入れる。
だが、その時――
「アキラ」
低い声が響いた。
全員が振り返ると、そこにはクロウが立っていた。
「クロウ!」
「久しぶりだな」
クロウがゆっくりと近づいてくる。
「お前たち、よくやった。セレスティアの家族を救出したそうだな」
「ああ!」
アキラが頷く。
「でも……」
クロウの表情が、厳しくなる。
「お前は、ゼクスと出会ったな」
「!」
アキラの顔が強張る。
「知ってたのか……」
「ああ。あの男は……かつて、俺の仲間だった」
「え……?」
全員が驚きで目を見開く。
「仲間……って……」
「昔の話だ」
クロウが遠い目をする。
「だが、今は敵だ。そして――」
彼がアキラを真っ直ぐ見つめる。
「お前を狙っている」
「俺を……」
「マイナスレベルの力を奪うためにな」
クロウが腕を組む。
「お前は、今まで三つの試練をクリアした」
「ああ……」
アキラが両腕を見る。そこには、第一の証、第二の証、そして第三の証――三つの紋章が刻まれていた。
「第一の試練――力の試練。逆転空間で、弱さを受け入れた」
「うん……あの時は大変だった」
「第二の試練――心の試練。感情逆転空間で、素直に本音を言えるようになった」
「ああ、あれも……」
アキラが苦笑する。
「そして第三の試練――未来視の試練。自分の未来を見て、それを受け入れた」
「……うん」
アキラが真剣な表情になる。
「あの時見た未来……まだ鮮明に覚えてる」
クロウが頷く。
「お前は、三つの試練を乗り越え、三つの証を得た。だが――」
彼の目が鋭くなる。
「残る試練は、あと二つだ」
「まだ……あるのか」
「ああ。第四の試練――それは、背中の紋章を得るための試練だ」
「背中の……」
「エンシェントドラゴンを倒すことだ」
「エンシェント……ドラゴン!?」
ガルドが息を呑む。
「伝説の龍を……倒せと……!?」
「ああ。その先にある第五の試練――」
クロウが静かに言った。
「最後の証、胸の紋章を得るための試練。それは――」
彼が間を置く。
「ゼクスとの決戦だ」
「!」
全員が息を呑む。
「五つ全ての証を得た時、お前は真の逆転者となる」
クロウがアキラの肩に手を置く。
「そして、レベル0を超えてマイナスになった時――全てが逆転する」
「全てが……逆転……」
「ああ。攻撃が回復になり、回復が攻撃になる。強さが弱さになり、弱さが強さになる。全てが……な」
リーナが不安そうに呟く。
「そんな……」
「だが、それがお前の真の力だ」
クロウが言う。
「マイナスレベル-999で、お前は究極の逆転者となる」
「-999……」
アキラが呟く。
「だが、焦るな」
クロウが静かに言った。
「お前には、仲間がいる。一人で戦う必要はない」
その言葉に、アキラは仲間たちを見た。
リーナ、ガルド、エリン、セレスティア――みんなが、力強くアキラを見つめている。
「……ああ」
アキラが笑った。
「俺、一人じゃないもんな」
「そうだ」
クロウが頷く。
「第四の試練の場所は、お前がもっと強くなってから教える。それまで、しっかり準備しておけ」
「わかった」
「それと――」
クロウが少し笑った。
「Aランク試験、頑張れよ」
「え、それも知ってんの!?」
「お前の噂は、よく耳に入る」
「うわ、恥ずかしい……」
アキラが顔を赤くする。
クロウは手を振ると、影の中に消えていった。
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残されたアキラたちは、しばらく沈黙していた。
「エンシェントドラゴン……」
ガルドが呟く。
「伝説の龍を……本当に倒せるのか……」
「そして、ゼクスとの決戦……」
リーナが不安そうに呟く。
アキラは、拳を握りしめた。
「……よし」
「アキラ?」
「まずは、Aランク試験に合格する!」
その言葉に、全員が唖然とする。
「いや、今そこ!?」
リーナがツッコむ。
「だって、試験三日後だし!」
「優先順位おかしいでしょ!」
「でも、Aランクにならないと、ドラゴンとか戦えないじゃん!」
「……まあ、確かに」
リーナが呆れる。
ガルドが笑った。
「ガハハ! それでこそアキラだ!」
「よし、じゃあ勉強再開!」
アキラが教科書を開く。
「もう……」
リーナがため息をつくが、その顔は笑っていた。
「仕方ないわね。付き合ってあげる」
五人の冒険者は、再び勉強に取り組み始めた。
遠い未来の試練よりも、まずは目の前の試練――Aランク試験を乗り越えるために。




