第57話『セレスティアの秘密』
前回のあらすじ
古代の神殿で遺物を手に入れたアキラたち。しかし影の組織の襲撃を受け、激しい戦闘の末に何とか撃退に成功する。幹部レイヴンとの対峙で、セレスティアに隠された秘密があることが明らかになり――。
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夜の闇が、森を深い静寂で包み込んでいた。
焚き火の炎が、パチパチと小さな音を立てながら揺れている。その橙色の光が、疲れ果てた冒険者たちの顔を照らし出していた。
「……ふう」
リーナが大きく息を吐いた。神殿での激しい戦闘から数時間。ようやく安全な場所まで撤退し、野営の準備を整えたところだった。
「やっぱり疲れたな……」
アキラも焚き火の前に座り込む。いつもの明るい表情は影を潜め、どこか複雑な色を浮かべていた。
ガルドが薪を追加しながら言う。
「まあ、無事に逃げ切れただけでも上出来だ。あの幹部クラスが相手じゃ、普通なら全滅してる」
「アキラさんが凄かったです!」
エリンが目を輝かせながら言うが、アキラは曖昧に笑うだけだった。
焚き火の向こう側で、セレスティアが膝を抱えて座っている。普段の上品で落ち着いた雰囲気は消え失せ、その顔には深い苦悩の色が浮かんでいた。
「……セレスティア」
アキラが静かに声をかける。
セレスティアはゆっくりと顔を上げた。その瞳には、涙が溜まっている。
「アキラさん……皆さん……本当に、申し訳ございません」
震える声だった。
リーナが心配そうに身を乗り出す。
「セレスティア、あなた……」
「私は……」
セレスティアの声が、夜の静寂に溶けていく。
「私は、皆さんを騙していました」
その言葉に、全員の動きが止まった。
焚き火の炎だけが、音もなく揺れ続けている。
「祖父の遺言で、遺物を探していると言いました。でも……それは、嘘だったんです」
「嘘……?」
エリンが小さく呟く。
セレスティアは俯いたまま、言葉を続けた。
「祖父は……5年前に、亡くなっています。遺言なんて、最初からなかった。私が皆さんに近づいたのは……」
彼女の声が、震えで途切れる。
「影の組織に、命令されたからです」
静寂が、重く空気を支配した。
パチパチと焚き火の弾ける音だけが、やけに大きく聞こえる。
「組織に……命令されて?」
リーナが信じられないという顔で聞き返す。
セレスティアは小さく頷いた。
「私の家族が……父と母、それに幼い弟が……組織に捕まっているんです。人質に取られて……」
「なっ……!」
ガルドが思わず声を上げる。
「組織は言いました。『遺物を奪ってこい』と。『逆転者の仲間になり、信頼を得て、遺物を手に入れたら奪え』と……」
セレスティアの頬を、涙が伝い落ちる。
「もし従わなければ、家族を殺すと……。私は……私は、どうすることもできなくて……」
彼女の声は、もはや嗚咽混じりだった。
アキラは黙って、セレスティアを見つめている。その表情は、いつもの明るさとは違う、何か深く考え込むような色を帯びていた。
「でも……でも!」
セレスティアが顔を上げる。涙で濡れた瞳が、炎の光を反射して揺れていた。
「皆さんと一緒に冒険して……戦って……笑って……私は、本当に楽しかった! 皆さんは、私を仲間として扱ってくれた!」
「セレスティア……」
エリンが目に涙を浮かべる。
「だから……だから私は、遺物を奪うことなんてできなかった! 組織を裏切ることにしたんです! でも……でも、そうしたら……」
彼女の声が、悲痛な叫びに変わる。
「家族が……家族がどうなるか……!」
セレスティアは両手で顔を覆い、激しく泣き始めた。その肩が、小刻みに震えている。
しばらくの沈黙が流れた。
焚き火の炎が、揺らめきながら夜闇を照らし続ける。
やがて、アキラが立ち上がった。
「なあ、セレスティア」
その声は、いつもの明るいトーンだった。
セレスティアが涙で濡れた顔を上げる。
アキラは、いつものように屈託のない笑顔を浮かべていた。
「なら、家族を助けに行こうぜ」
「え……?」
セレスティアの目が、驚きで見開かれる。
「いや、だって、お前の家族が捕まってるんだろ? なら助けに行けばいいじゃん」
「で、でも……! 相手は影の組織で……危険すぎます! 皆さんを巻き込むわけには……!」
「巻き込むも何も」
アキラはケラケラと笑った。
「もう巻き込まれてるだろ? 神殿でさんざん戦ったし」
「そ、それは……」
「それに」
アキラの表情が、少しだけ真剣になる。
「お前、俺たちの仲間だろ?」
その言葉に、セレスティアの目から新たな涙が溢れた。
「アキラ、さん……」
「仲間の家族が困ってるなら、助けるの当たり前じゃん。なあ、みんな?」
アキラが振り返ると、リーナが呆れたように笑っていた。
「まったく……アキラは相変わらずね」
「ガハハ! 俺も賛成だ!」
ガルドが豪快に笑う。
「困っている人を放っておけないのは、冒険者の性ってやつだからな!」
「私も……私も、セレスティアさんを助けたいです!」
エリンが力強く頷いた。
セレスティアは、もう言葉にならない嗚咽を漏らしながら、何度も何度も頭を下げた。
「ありがとう……ございます……本当に……本当に……!」
その背中を、リーナが優しく撫でる。
「泣かないで。私たち、仲間でしょ?」
「うう……っ」
しばらくして、セレスティアがようやく泣き止んだ。
アキラが膝を叩いて立ち上がる。
「よし! じゃあ作戦会議だ! セレスティアの家族がどこにいるか、わかるか?」
「それが……正確な場所は……」
セレスティアが言いかけたとき、
「待て」
低い声が、闇の中から響いた。
全員が一斉に振り返る。
そこには、黒いローブを纏った男――レイヴンが立っていた。
「レイヴン!」
リーナが杖を構える。
だがレイヴンは、両手を上げて見せた。
「落ち着け。今日は戦いに来たんじゃない」
「なら、何の用だ!」
ガルドが大剣に手をかける。
レイヴンは、ゆっくりと一枚の紙を取り出した。
「……これを渡しに来た」
「何だそれ?」
アキラが警戒しながら尋ねる。
「組織の北の拠点の地図だ。セレスティアの家族は、そこに囚われている」
「なっ……!」
セレスティアが驚きで声を上げる。
レイヴンは地図を地面に置くと、数歩後ろに下がった。
「どういう……つもりだ?」
アキラが睨みつける。
レイヴンは、フードの奥から冷たい視線を返した。
「……貸しを返しただけだ」
「貸し?」
「神殿で、お前は俺を殺さなかった。だからこれで貸し借りなしだ」
そう言うと、レイヴンは踵を返す。
「待て!」
アキラが叫ぶが、レイヴンは闇の中に消えていった。
残されたのは、一枚の地図だけ。
「……どういうことだ?」
ガルドが首を傾げる。
リーナが地図を拾い上げ、焚き火の光で確認する。
「本物みたい……詳細な拠点の構造図が描かれてる」
「レイヴンさん……」
セレスティアが呟く。
アキラは闇を見つめたまま、小さく呟いた。
「あいつ……一体何者なんだ……」
しかし今はそれを考えている暇はない。
「とにかく! これで場所がわかった! 明日、セレスティアの家族を助けに行くぞ!」
アキラの声に、全員が力強く頷いた。
焚き火の炎が、その決意を照らし出す。
長い夜が、ゆっくりと明けようとしていた。
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翌朝。
「ここが……」
アキラたちは、巨大な転移門の前に立っていた。
地図に記されていた場所。そこには、古代の魔法陣が刻まれた石の門が存在していた。
「この転移門を使えば、北の山脈にある拠点まで一瞬で行けるそうです」
セレスティアが地図を確認しながら説明する。
「転移魔法か……便利だな」
アキラが呟く。
リーナが魔法陣を調べていたが、やがて顔を上げた。
「起動できそう。でも、かなり魔力を消耗するわね……」
「私も手伝いますわ」
セレスティアが杖を構える。
二人の魔法使いが魔力を注ぎ込むと、転移門が青白く光り始めた。
「よし、行くぞ!」
アキラを先頭に、全員が門をくぐる。
視界が真っ白に染まり――次の瞬間、風景が一変していた。
「うわ……寒っ!」
アキラが思わず声を上げる。
そこは雪に覆われた山脈だった。冷たい風が、容赦なく吹きつけてくる。
「北の山脈……本当に来ちゃったのね」
リーナが震えながら呟く。
そして、目の前には――
巨大な廃墟の城が、そびえ立っていた。
黒い石で造られたその城は、まるで闇そのものが固まったかのような威圧感を放っている。
「あれが……組織の拠点……」
セレスティアの声が震える。
「でかいな……」
ガルドが唸る。
エリンが不安そうにアキラの服を掴んだ。
アキラは、その城をじっと見つめていた。
やがて、いつもの笑顔を浮かべる。
「よし! 行こうぜ、みんな!」
「ええ!」
五人の冒険者が、影の組織の拠点へと歩み始めた。
風が、雪を巻き上げながら吹き荒れている。
新たな戦いの幕が、今まさに上がろうとしていた。
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## 次回予告
セレスティアの秘密が明らかになり、アキラたちは彼女の家族を救うため、影の組織の拠点へと乗り込む! だが、そこには強大な敵が待ち受けていて――!?
**次回、第58話『潜入!影の組織の拠点』お楽しみに!**
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## アキラの現在ステータス
- **レベル**: 587
- **全ステータス**: 587,000
- **ギルドランク**: Bランク
- **所持金**: 金貨167枚、銀貨15枚
- **木剣**: 115本
- **仲間**: リーナ、ガルド、エリン、セレスティア




