表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/70

第4話「最弱モンスターの逆襲」

前回のあらすじ


森の見回り依頼で、合計17体のモンスターを倒したアキラ。レベルは999から978まで下がったが、本人は相変わらずマイペース。リーナと夕食を共にし、異世界での冒険を楽しんでいた――


-----


「緊急依頼が入ったわよ!」


翌朝、ギルドに顔を出すと、マリアが慌てた様子で俺たちを呼び止めた。


「緊急依頼?」


「ええ。街の北にある村から、助けを求める伝書鳩が届いたの」


マリアが一枚の紙を差し出す。


「『誰も倒せないスライムが現れた。至急、冒険者の派遣を希望する』……ですって」


「……は?」


リーナと俺は、同時に首を傾げた。


「誰も倒せないスライムって、どういうこと?」


「わからないわ。でも、村人たちが困ってるのは確かみたい」


「スライムでしょ? 雑魚モンスターの代表格じゃん」


俺が言うと、マリアは困ったように笑った。


「普通はそうなんだけどね……村人が嘘をつく理由もないし」


「で、その依頼、誰が受けるの?」


リーナが尋ねると、マリアは俺たちを見た。


「あなたたちにお願いしたいんだけど」


「え、俺たち?」


「ええ。アキラくんなら、もし本当に強力なモンスターだったとしても対処できるでしょうし」


「まあ、ステータスは高いけど……」


「それに、村まで徒歩で半日。ちょうど良い調査の機会じゃない?」


マリアがにっこり笑う。


「報酬は金貨三枚よ」


「マジで!?」


俺は飛びついた。


「やります! やらせてください!」


「アキラ、即決すぎでしょ……」


リーナが溜息をつく。


「でも、まあ、私も気になるわ。誰も倒せないスライムって」


「決まりね。じゃあ、準備ができたら出発して」


-----


一時間後。


俺たちは王都の北門を出て、村への道を歩いていた。


「なあ、リーナ」


「何?」


「誰も倒せないスライムって、どんなスライムだと思う?」


「さあ……普通のスライムなら、村人でも倒せるはずなのよね」


「じゃあ、特別なスライムってこと?」


「かもしれないわね。キングスライムとか、メタルスライムとか」


「キングスライム! めっちゃ強そう!」


「でも、それならそう書くと思うのよね……」


リーナは腕を組んで考え込んだ。


「もしかして、スライムじゃないものをスライムだと勘違いしてるとか」


「ありえるな。村人、モンスターに詳しくないかもしれないし」


「そうよね。実はゼラチナスドラゴンとか」


「ゼラチナス……なにそれ」


「今、適当に作ったわ」


「おい」


俺たちは笑いながら、のんびりと道を進んだ。


街道沿いには畑が広がり、遠くには風車が回っている。平和な光景だ。


「いい天気だな」


「ええ。このまま何事もなく着けばいいんだけど」


「フラグ立てるなよ」


「フラグ?」


「あ、こっちの言葉。えっと、不吉な予言みたいな……」


その時、前方から悲鳴が聞こえた。


「きゃああああ!」


「ほら、フラグ回収した」


「アキラのせいじゃないわよ!」


俺たちは走り出した。


悲鳴の方向へ向かうと、街道の真ん中で、一人の女性が尻餅をついていた。


「大丈夫ですか!?」


リーナが駆け寄る。


「た、助けて……スライムが……」


女性が震える手で指差す先には――


いた。


青い、半透明の、ぷるぷる震える、直径30センチほどの――


「普通のスライムじゃん」


俺は拍子抜けした。


どこからどう見ても、昨日倒したスライムと同じだ。


「ちょっと待ってください。なんでスライム一体で悲鳴を?」


リーナが尋ねると、女性は涙目で答えた。


「だ、だって……あれ、倒せないんです!」


「倒せない?」


「ええ! 何度攻撃しても、全然効かなくて……」


「はあ?」


俺は首を傾げた。


「いや、スライムですよ? 棒で叩けば倒せるでしょ」


「やってみたんです! でも、全然ダメで……」


女性は本気で怯えている様子だ。


「……リーナ、ちょっと試してみていい?」


「どうぞ」


俺はスライムに近づいた。


スライムはぷるぷると震えながら、こっちに向かってくる。


「せいやっ!」


軽く拳を振るう。


――次の瞬間。


「え?」


拳が、スライムを素通りした。


「……は?」


もう一度、拳を振るう。


やっぱり、素通りする。


スライムの体に触れているはずなのに、まるで空気を殴っているかのように、何の抵抗もない。


「なにこれ」


「アキラ、どうしたの?」


「いや、攻撃が当たらない……っていうか、通り抜ける」


「え?」


リーナが杖を構えた。


「ファイアボルト!」


小さな火球がスライムに向かって飛ぶ。


だが、火球もスライムを素通りして、地面に着弾した。


「……嘘でしょ」


リーナが呆然とする。


「物理攻撃も魔法攻撃も効かないって……これ、本当にスライム?」


「見た目は完全にスライムなんだけどな……」


俺はスライムをまじまじと観察した。


青い半透明のボディ。ぷるぷる震える動き。特に変わったところは見当たらない。


「ねえ、アキラ」


「ん?」


「もしかして、これ……ゴーストスライム?」


「ゴーストスライム?」


「幽霊タイプのモンスターよ。物理攻撃が効かないって聞いたことある」


「じゃあ、魔法で倒せるってこと?」


「普通はそうなんだけど……私の魔法も効かなかったわよね」


「詰んでない?」


「詰んでるわね」


俺たちは顔を見合わせた。


スライムは相変わらず、ぷるぷると震えながらこっちに向かってくる。


「ねえ、このスライム、攻撃してくる気配ないんだけど」


「そうね……ただ近づいてくるだけ」


「もしかして、敵じゃない?」


「でも、村人は怯えてたわよ」


リーナが振り返ると、さっきの女性はすでに逃げ去っていた。


「逃げられてるし」


「まあ、安全確保できたからいいんじゃない」


俺はスライムをしゃがんで見つめた。


スライムも俺を見つめている。


「……可愛いな」


「は?」


「いや、よく見ると可愛くない? このぷるぷる感」


「アキラ、敵モンスターに対してそういう感想やめなさい」


「だって、攻撃してこないし」


俺は試しに手を伸ばしてみた。


スライムの体に触れようとすると――


すり抜けた。


「やっぱり触れない」


「完全に非物質化してるのね……」


リーナがメモを取り出す。


「これ、報告しないと。物理・魔法の両方が無効なスライムなんて、聞いたことないわ」


「でも、倒せないなら、依頼達成できなくない?」


「そうなのよね……困ったわ」


-----


それから十分ほど、俺たちはスライムと睨めっこしていた。


「……動かないな」


「こっちも何もしてないからじゃない?」


「じゃあ、ちょっと動いてみるか」


俺は立ち上がって、少し離れた場所に移動した。


スライムがついてくる。


「おお、ついてきた」


もう一度移動する。


またついてくる。


「完全に俺を追いかけてるな」


「なんで?」


「さあ……好かれてるとか?」


「スライムに好かれるって、どういう状況よ」


リーナが呆れる。


「でも、これ、もしかして……」


リーナは何か考え込んだ。


「何か思いついた?」


「ええ。もしかしたら、このスライム、アキラに『何か』を感じてるのかも」


「何かって?」


「わからないけど……アキラ、レベルが下がるっていう特殊な状態でしょ。もしかしたら、それに反応してるとか」


「なるほど……でも、それがわかったところで、どうすればいいんだ?」


「うーん……」


リーナが悩んでいると、背後から声がした。


「おお、冒険者さんか!」


振り返ると、初老の男性が駆け寄ってきた。


「あんたたち、ギルドから来てくれたのかい?」


「はい、そうです」


リーナが答える。


「スライムの件で依頼を受けました」


「おお、ありがたい! あのスライムには困ってたんじゃ」


「あの、このスライム、いつ頃から現れたんですか?」


「三日前じゃな。突然、村の近くに現れて、誰が攻撃しても倒せないんじゃ」


「やっぱり、村人も倒せなかったんですね」


「ああ。最初は村の若い衆が棒で叩いたんじゃが、全く効かなくてな。それで、ギルドに助けを求めたんじゃ」


男性はスライムを見て、眉をひそめた。


「しかも、このスライム、ずっと村の周りをうろついとるんじゃ。畑に入ってきたり、井戸の近くにいたり……」


「被害は出てるんですか?」


「いや、攻撃はしてこないんじゃが……気味が悪くてな。みんな怖がっとる」


「そりゃそうですよね……」


俺は頷いた。


「あの、このスライム、何か特別なことしてました?」


「特別なこと?」


「例えば、何かを探してるとか、特定の場所に行こうとしてるとか」


「うーん……そういえば、このスライム、ずっと同じ方向を向いとったような」


「同じ方向?」


「ああ。村の東側、森のほうじゃ」


「森……」


リーナと俺は顔を見合わせた。


「もしかして、このスライム、森に帰りたいとか?」


「帰りたいって、スライムに意思あるの?」


「わからないけど……試してみる価値はあるんじゃない?」


「確かに」


俺はスライムに向かって言った。


「おい、スライム。森に帰りたいのか?」


スライムがぷるぷると震えた。


「……反応した?」


「気のせいじゃない?」


「いや、今、確実に震えたぞ」


俺は立ち上がって、森の方向を指差した。


「こっちだろ? 森」


すると、スライムが動き出した。


俺が指差した方向に、ゆっくりと進んでいく。


「おお、マジで反応してる」


「本当に意思があるのかも……」


リーナが驚いたように呟く。


「じゃあ、俺たち、このスライムを森まで連れて行けばいいんじゃない?」


「それで解決するなら、一番平和的ね」


「よし、決まり。おっちゃん、このスライムを森に連れて行きますね」


「お、おお……頼んだぞ」


男性は困惑した様子で頷いた。


-----


こうして、俺たちはスライムを連れて、森へ向かうことになった。


「なんか、散歩してるみたいだな」


「ペットの散歩じゃないのよ」


リーナが呆れる。


スライムは俺たちの少し後ろを、ぷるぷると揺れながらついてくる。


「でも、可愛いよな」


「可愛いけど、モンスターだからね」


「モンスターでも可愛いものは可愛いだろ」


「まあ、そうだけど……」


リーナは苦笑した。


森に入ると、スライムの動きが少し速くなった。


「お、テンション上がってる?」


「やっぱり森が好きなのかもね」


さらに奥へ進むと、スライムが突然止まった。


「どうした?」


スライムは、目の前の大木を見上げている。


そして――


スライムの体が、ゆっくりと光り始めた。


「え、何これ」


「アキラ、下がって!」


リーナが俺を引っ張る。


光が強くなり、スライムの体が膨れ上がっていく。


「まさか、進化……!?」


リーナが叫んだ。


光が収まると、そこにいたのは――


「……え?」


普通のスライムだった。


「変わってなくない?」


「変わってないわね……」


だが、違う点が一つだけあった。


このスライム、触れる。


俺が手を伸ばすと、ぷにぷにとした感触があった。


「おお、触れた」


「物質化したのね……」


リーナがそっと杖で突いてみる。


スライムはぷるんと揺れた。


「これで倒せるわね」


「倒すの?」


「依頼は『スライムを倒す』だし」


「でも、ここまで案内してくれたのに、倒すのは可哀想じゃない?」


「アキラ、甘いわよ。モンスターはモンスターなんだから」


リーナが杖を構える。


「ファイア――」


その時、スライムが震えた。


そして、俺の足元に転がってきて、ぷるぷると震え続ける。


「……これ、命乞いしてない?」


「そう見えるわね……」


リーナは杖を下ろした。


「どうする、アキラ」


「……見逃そうぜ」


「え?」


「だって、こいつ、何も悪いことしてないし。ただ森に帰りたかっただけでしょ」


「でも、依頼は……」


「依頼は『誰も倒せないスライムを何とかする』だろ。倒すとは書いてなかった気がする」


「……まあ、そうだけど」


リーナは溜息をついた。


「アキラって、優しいのね」


「そうかな」


「そうよ。普通の冒険者なら、躊躇なく倒してるわ」


リーナは笑って、スライムを見た。


「まあ、いいわ。村には『森に帰した』って報告すれば問題ないでしょ」


「サンキュ、リーナ」


俺はスライムに手を振った。


「じゃあな、スライム。元気でな」


スライムはぷるぷると震えて、森の奥へと消えていった。


-----


村に戻り、報告を済ませると、村長は安心した様子で報酬を支払ってくれた。


「本当にありがとう。これで安心じゃ」


「いえいえ、お役に立てて良かったです」


リーナが丁寧に答える。


「それにしても、不思議なスライムじゃったなあ」


「本当ですね」


俺も頷いた。


あのスライムは、一体何だったんだろう。


なぜ物理・魔法が効かなかったのか。


なぜ森に戻ると物質化したのか。


謎は深まるばかりだ。


「ねえ、アキラ」


帰り道、リーナが言った。


「あのスライム、もしかしたらアキラのレベル減少と関係があるかもしれないわ」


「どういうこと?」


「わからないけど……この世界、何かがおかしい。レベルが下がるアキラ、倒せないスライム……何か繋がってる気がするの」


「繋がってる、か……」


俺は空を見上げた。


二つの太陽が、ゆっくりと沈んでいく。


「まあ、いいや。そのうちわかるでしょ」


「また楽観的ね」


「だって、考えてもわかんないし」


「……それもそうね」


リーナは笑った。


「じゃあ、帰りましょ。今日の報酬で、また美味しいもの食べられるわよ」


「マジで! 何食べる?」


「うーん、肉がいいわね」


「賛成!」


俺たちは笑いながら、王都へと歩いていった。


謎は深まるばかりだけど、まあ、今は気にしないでおこう。


美味しいご飯の方が大事だ。


-----


## 次回予告


レベル978のアキラに、ギルドから新たな依頼が。それは、Bランク推奨の「ワイバーン討伐」! さらに、謎の戦士ガルドとの出会いが待っていた――。次回、第5話「出会いは命懸け」。乞うご期待!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ