第27話「深淵への挑戦」
前回のあらすじ
Aランクダンジョン攻略に向けて一週間の特訓を開始したアキラたち。木剣を折り続けるアキラ、魔法を習得したエリン、そして深まる仲間との絆。明日はついに、深淵の塔に挑む――
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翌朝、ギルド前に集合した俺たち。
「おはよう、みんな!」
俺が元気よく挨拶すると、リーナが呆れた顔で言った。
「アキラ……その荷物、何?」
「ん? 木剣だけど」
俺の背中には、木剣が20本束ねられている。
「20本って……」
「念のためだって! 俺すぐ折るし!」
「いや、でもそれ重すぎない? 動きにくいでしょ」
「大丈夫大丈夫! 俺力あるから!」
「そういう問題じゃないのよ……」
リーナが頭を抱える。
エリンがクスクス笑っている。
「アキラさん、面白いです」
「エリンまで……」
ガルドが苦笑しながら口を開いた。
「まあ、アキラらしいな。じゃあ行くか」
「おー!」
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ギルドの門をくぐると、セリアが待っていた。
「来たか」
「おはようございます、ギルドマスター」
リーナが礼儀正しく挨拶する。
「深淵の塔への道は危険だ。途中でモンスターに遭遇する可能性もある。気を抜くな」
セリアが真剣な表情で言う。
「それと――」
セリアが俺を見た。
「アキラ、お前に言っておく」
「はい」
「深淵の塔は、お前が今まで経験したどのダンジョンよりも危険だ。レベルが下がることを喜んでいるようだが……死んだら意味がない」
「……はい」
「お前の力は確かに規格外だが、過信するな。仲間を信じろ」
セリアがそう言って、俺の肩を叩いた。
「行ってこい」
「はい! 必ず、全員で帰ってきます!」
俺が力強く答えた。
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街を出て、森を抜け、険しい山道を進む。
「深淵の塔って、こんな奥地にあるのか」
俺が言うと、ガルドが頷いた。
「ああ。昔、魔法文明が作った建造物らしい。今では廃墟だが、内部には強力なモンスターが住み着いている」
「魔法文明か……」
クロウが言っていたな。この世界のレベルシステムは、魔法文明が作ったものだと。
「ねえアキラ」
リーナが横から話しかけてきた。
「何?」
「今日は絶対に、勝手な行動しないでよ」
「しないって!」
「本当に?」
「本当だって!」
「……信用してないわ」
「ひどい!」
エリンがクスクス笑っている。
「でも、アキラさんはいつも突っ込んじゃいますもんね」
「エリンまで……」
俺が肩を落とすと、ガルドが笑った。
「まあ、それがアキラの良いところでもあるんだがな」
「ガルド、フォローになってないわよ」
リーナがため息をつく。
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三時間ほど歩いただろうか。
突然、ガルドが立ち止まった。
「待て」
「どうした?」
「気配がする」
ガルドが剣に手をかける。
次の瞬間――
ガサガサガサッ!
茂みから、巨大な影が飛び出してきた。
「グルルルルル……」
「ワイルドウルフ!?」
リーナが叫ぶ。
俺の前に現れたのは、体長3メートルはある巨大な狼。
凶暴な赤い目がこちらを睨んでいる。
「Dランクモンスターだ! 気をつけろ!」
ガルドが叫んだ。
ワイルドウルフが唸り声を上げる。
そして――
ドドドドッ!
茂みから次々と狼が現れた。
一匹、二匹、三匹……
「五匹!?」
「囲まれてる!」
リーナが魔法を構える。
「まずい、これは……」
ガルドが歯を食いしばる。
「アキラ、エリン、下がれ! 俺とリーナで――」
「待った!」
俺がガルドの言葉を遮った。
「俺に任せろ!」
「アキラ! 勝手な行動するなって言ったばかりでしょ!」
リーナが叫ぶ。
「大丈夫だって! 五匹くらいなら――」
俺が木剣を抜こうとした瞬間。
バキバキバキバキバキッ!
「あああああああ!」
背負っていた木剣が、全部一気に折れた。
「なんで!? なんでまだ抜いてないのに折れるの!?」
「重すぎて負荷がかかったのよ! だから言ったじゃない!」
リーナの怒声が響く。
ワイルドウルフたちが、一斉に飛びかかってきた。
「やばっ!」
「アキラ!」
ガルドが俺を庇おうと動く。
だが、間に合わない――
その時。
「風よ、刃となりて――ウィンドカッター!」
リーナの魔法が狼の一匹を吹き飛ばした。
「エリン、アキラを守って!」
「はい!」
エリンが剣を構えて俺の前に立つ。
「ガルド、連携よ!」
「ああ!」
ガルドとリーナが息の合った動きで狼を迎え撃つ。
ガルドの剣が一匹を斬り、リーナの魔法がもう一匹を凍らせる。
「すげえ……」
俺は呆然と見ていた。
二人の連携、完璧すぎる。
「アキラさん! 後ろ!」
エリンの声。
振り向くと、一匹の狼が俺に飛びかかってきていた。
「くっ!」
俺は咄嗟に――
素手で、狼の顎を掴んだ。
「グルルルル!?」
狼が驚いたように暴れる。
「悪いな、こっちも必死なんだ!」
俺はそのまま、狼を――
ブン!
地面に叩きつけた。
ドガァァァン!
「ぎゃん!」
狼が気絶する。
「……って、やべ」
俺は地面を見た。
クレーターができている。
「また力加減ミスった……」
「アキラ、それ素手で倒してるわよね!?」
リーナが叫ぶ。
「木剣全部折れたから仕方なく……」
「仕方なくって! もう!」
残りの二匹も、ガルドとエリンが協力して倒した。
「ふう……なんとかなったな」
ガルドが息をつく。
「アキラ、お前は本当に……」
「ごめん……」
俺は謝った。
「でも、みんな無事でよかった」
「まあ、結果オーライね」
リーナがため息をつく。
「それより、木剣どうするの? 全部折れたわよ」
「……素手で戦う」
「絶対ダメ! クレーター作るでしょ!」
「じゃあどうすれば……」
俺が困っていると、ガルドが言った。
「深淵の塔に着いたら、鉄の剣を探そう。あそこには、昔の武器が残っているはずだ」
「おお、それいいな!」
「でも、鉄の剣でも折れるかもね……」
リーナが不安そうに呟いた。
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そして、ついに――
「見えたぞ」
ガルドが指さした先に、巨大な塔が聳え立っていた。
深淵の塔。
黒い石で作られた、不気味な建造物。
高さは50メートルはあるだろうか。
「うわ……でかい……」
俺が呟く。
「あれが、Aランクダンジョン……」
エリンが緊張した表情で言う。
リーナが深呼吸する。
「行きましょう。全員で、帰ってくるのよ」
「ああ」
俺たちは、深淵の塔の入口に向かって歩き出した。
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塔の入口。
巨大な石の扉が、不気味に口を開けている。
「中は暗いな……」
ガルドが松明を取り出した。
「エリン、お前も松明持っとけ」
「はい」
「私は魔法で明かりを作るわ」
リーナが手のひらに光の球を浮かべた。
「すげー、便利」
「アキラは……松明持てる?」
「任せろ!」
俺が松明を受け取った瞬間――
ボキッ。
「あっ」
松明が折れた。
「……やっぱりね」
リーナが呆れた顔をする。
「アキラは何も持たなくていいわ。余計なものに触らないで」
「ひどい言われよう……」
「事実でしょ」
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塔の中に足を踏み入れる。
ひんやりとした空気。
石壁に描かれた、古代の文字。
「この文字……魔法文明の言語か」
ガルドが壁を見つめる。
「読めるの?」
「いや、俺も読めない。だが、この塔が相当古いものだってことはわかる」
コツ、コツ、コツ……
俺たちの足音だけが響く。
「なんか、静かすぎない?」
俺が言うと、リーナが頷いた。
「ええ。モンスターの気配がないわ」
「深淵の塔には、強力なモンスターが住み着いているはずなんだが……」
ガルドが首を傾げる。
「変ね……」
その時。
ゴゴゴゴゴゴ……
「っ!?」
突然、塔全体が揺れ始めた。
「地震!?」
「違う、これは……」
ガルドが叫ぶ。
「罠だ! 下がれ!」
次の瞬間――
バキバキバキィィィン!
床が崩れた。
「うわああああああ!」
俺たちは、塔の下層に落下していく。
「アキラ!」
リーナの声が遠くなる。
「みんな!」
俺は手を伸ばしたが――
ドスン!
地面に叩きつけられた。
「いてて……」
俺は起き上がる。
周りを見渡す。
「……あれ?」
誰もいない。
「リーナ! ガルド! エリン!」
俺の声が、暗闇に響く。
だが、返事はない。
「まずい……みんなとはぐれた……」
俺は一人、真っ暗な地下に取り残されていた。
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一方、リーナ。
「いたた……」
彼女も地下に落ちていた。
だが、アキラたちの姿はない。
「アキラ! ガルド! エリン!」
叫ぶが、返事はない。
「くっ……みんな、どこに……」
リーナは光の魔法で周囲を照らした。
石造りの通路。
先には、さらに深い闇が広がっている。
「……一人で行くしかないのね」
リーナは覚悟を決めて、歩き出した。
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ガルドとエリンは、二人一緒に落ちていた。
「エリン、無事か!」
「は、はい……」
エリンが震えながら答える。
「アキラとリーナは……」
「わからん。おそらく、バラバラに落ちたんだろう」
ガルドが周囲を警戒する。
「この塔……ただのダンジョンじゃないな」
「どういうことですか?」
「仕掛けられた罠だ。侵入者を分断して、個別に襲う……」
ガルドが歯を食いしばる。
「まずいな……」
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俺は、一人暗闇を歩いていた。
「くそー、みんなどこ行ったんだよ……」
不安がよぎる。
リーナは、エリンは、ガルドは、大丈夫だろうか。
「いや、大丈夫だ。あいつら強いから」
俺は自分に言い聞かせる。
「それより、俺がちゃんとしないと……」
その時。
シャァァァァ……
「っ!」
背筋が凍る音。
振り向くと――
巨大な蛇が、俺を見下ろしていた。
体長10メートルはある、漆黒の大蛇。
赤い目が、獲物を見つけた喜びに輝いている。
「うわ、でかっ!」
俺は後ずさる。
大蛇が、ゆっくりと近づいてくる。
「やべえ、武器ない……」
素手で戦うしかない。
でも、力を込めたら――また、やりすぎちゃうかも。
「くっ……」
俺が迷っている間に、大蛇が飛びかかってきた。
「うおおおお!」
俺は咄嗟に――
拳を、大蛇の顎に叩き込んだ。
ドゴォォォン!
「ぎゃああああ!」
大蛇が吹き飛ぶ。
壁に激突して、動かなくなった。
「……やっぱり、力加減できねえ」
俺はため息をついた。
そして、気づく。
**【レベルが842に下がりました】**
「お、レベル下がった。ってことは経験値入ったんだ」
Dランクモンスターだったのか、あの大蛇。
「よし、どんどんレベル下げるぞ!」
俺は、奥へと進んでいった。
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リーナは、通路を進んでいた。
突然、前方から複数の気配。
「っ!」
松明の明かりに照らされて、姿が見えた。
スケルトン。
骨だけの戦士たちが、剣を持ってこちらに向かってくる。
「Cランクモンスター……一体じゃない、五体!」
リーナは魔法を構える。
「氷よ、凍てつく槍となりて――アイスランス!」
氷の槍がスケルトンを貫く。
一体が砕け散る。
だが、残りはまだ四体。
「くっ……連戦はキツイわね……」
リーナは必死に魔法を放ち続けた。
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ガルドとエリンは、巨大なゴーレムと対峙していた。
「これは……ストーンゴーレム!」
ガルドが叫ぶ。
「エリン、俺が引きつける! お前は魔法で援護しろ!」
「は、はい!」
エリンが震える手で魔法を構える。
「火の玉よ、現れよ! ファイアボール!」
火の玉がゴーレムに命中する。
だが、ゴーレムは微動だにしない。
「効いてない!?」
「石のゴーレムには火が効きにくい! 風の魔法を使え!」
「風の魔法……」
エリンは深呼吸する。
「風よ、刃となりて――ウィンドカッター!」
風の刃がゴーレムを切り裂く。
ゴーレムの腕が砕けた。
「やった!」
「油断するな! まだだ!」
ガルドが剣を構える。
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俺は、どんどん奥へと進んでいた。
途中、何体かのモンスターと遭遇したが、全部素手で倒した。
そして――
「……なんだ、これ」
俺は、巨大な扉の前に立っていた。
扉には、古代文字が刻まれている。
「読めねえけど……多分、ここがボス部屋だな」
俺は扉を押した。
ギィィィィ……
重い音を立てて、扉が開く。
中は、広大な空間。
そして、中央に――
「……でけえ」
巨大なドラゴンが、眠っていた。
体長30メートルはあるだろうか。
漆黒の鱗に覆われた、恐ろしい姿。
「これ、絶対Aランクだろ……」
俺が呟いた瞬間。
ドラゴンが、目を開けた。
「あ」
ゴゴゴゴゴゴ……
ドラゴンが、ゆっくりと起き上がる。
そして、俺を見下ろした。
「グルルルル……」
低い唸り声。
「やべ……」
俺は冷や汗をかいた。
「これ、一人で倒せるのか……?」
ドラゴンが、口を開く。
炎が、喉の奥で渦巻いている。
「うわああああ、ブレス来る!」
俺は走った。
次の瞬間――
ゴォォォォォ!
灼熱の炎が、俺がいた場所を焼き尽くした。
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**次回予告**
深淵の塔で仲間とはぐれたアキラ。一人、Aランクドラゴンと対峙することに! 果たして、アキラは生き延びることができるのか!?
次回、第28話「孤独な戦い」
現在のアキラのステータス
•レベル:842
•HP/MP/攻撃力/防御力/魔力/敏捷性:842,000
•ギルドランク:Dランク
•所持金:金貨82枚、銀貨30枚
•所持アイテム:謎の水晶(逆転者の証)、セレスティアの祖父の日記(写し)、通信石(クロウから受け取った)
•スキル:全スキルLvMAX(回避行動、軟着陸など)
お楽しみに!




