第26話「特訓と絆」
前回のあらすじ
山賊退治の依頼を完遂したアキラたち。だが依頼の裏には「影の組織」の影が。セリアからCランク昇格のための特別試験――Aランクダンジョン「深淵の塔」攻略を提案され、一週間の準備期間が始まる――
「よし! じゃあ今日から一週間、みっちり特訓だ!」
ギルドを出た直後、俺は拳を握りしめて宣言した。
「アキラ、張り切るのはいいけど……」
リーナが呆れた顔で言う。
「また街の施設を破壊する気?」
「しないって! 今度こそ力の制御、完璧にマスターするから!」
「前も同じこと言ってたわよね」
「……今度こそ本当に」
「信用できないわ」
即答である。
ガルドが苦笑しながら口を開く。
「まあ、Aランクダンジョンに挑むなら、それなりの準備は必要だな。特にエリンはまだ実戦経験が少ない」
「はい! 頑張ります!」
エリンが目を輝かせる。
「あの、それで……魔法も、教えてもらえますか?」
「魔法?」
リーナが首を傾げた。
「エリン、あなた魔法使えないの?」
「はい……村には魔法を教えられる人がいなくて。剣の訓練しかしたことがなくて……」
エリンが少し恥ずかしそうに言う。
リーナが驚いた顔をした。
「魔法なしでDランクまで昇格したの!? それ、相当すごいことよ!?」
「え、そうなんですか?」
「当たり前よ! 普通、魔法使えないと冒険者として厳しいのに……エリン、あなたやっぱり天才だわ」
リーナが感心したように言う。
「じゃあ、魔法の特訓もするってことか」
ガルドが腕を組む。
「リーナ、お前が教えられるか?」
「もちろん! むしろ教え甲斐があるわ!」
リーナが嬉しそうに笑った。
「よし、じゃあ決まりだな!」
俺が言った。
「エリンは魔法特訓、俺は力の制御特訓、ガルドは……何する?」
「俺は戦術の復習だ。Aランクダンジョンは今までとは格が違う。連携の確認もしておかないとな」
「おお、さすがガルド! 頼りになる!」
「当たり前だ。お前らを死なせるわけにはいかんからな」
ガルドがニヤリと笑った。
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翌日、俺たちは街の外れの訓練場に集まった。
ここは冒険者たちが自主的に訓練するための場所で、広大な敷地に様々な設備がある。
「よし、じゃあそれぞれ別々に特訓開始だ!」
俺が言うと、リーナが手を上げた。
「ちょっと待って。その前に、今日の目標を確認しましょう」
「目標?」
「そう。漠然と『頑張る』だけじゃダメ。具体的な目標を立てないと、成長を実感できないわ」
さすがリーナ、真面目だ。
「じゃあ、俺の目標は『木剣を折らずに素振り100回』で!」
「……ハードル低すぎない?」
「いやいや、俺にとっては超高難度だから!」
実際、俺が木剣を振ると大体一振り目で粉々になる。
「わかったわ。じゃあエリンの目標は『基礎魔法の発動を一つマスターする』ね」
「はい! 頑張ります!」
エリンが元気よく返事をする。
「ガルドは?」
「俺は戦術パターンを10個考えておく。それでいいか?」
「完璧ね。じゃあ、それぞれ頑張りましょう!」
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俺は訓練場の隅にある的の前に立った。
手には新しい木剣。
「よし……今度こそ、力をセーブして……」
深呼吸する。
集中。
イメージするんだ。優しく、優しく――
「せいやああああ!」
ブンッ!
バキィィィン!
「あああああああ! また折れたあああああ!」
一振り目で木剣が粉々に。
「アキラ、うるさい」
隣で魔法の特訓をしていたリーナが冷たい視線を送ってくる。
「ご、ごめん……」
「もう30本くらい折ってるわよ」
「マジで!?」
時計を見ると、まだ30分しか経っていない。
「このペースだと、一週間で木剣何本折ることになるのかしら……」
リーナが遠い目をした。
「が、頑張る……!」
俺は新しい木剣を手に取った。
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一方、エリンとリーナの魔法特訓。
「じゃあエリン、まずは魔力の感覚を掴むところから始めましょう」
リーナが優しく言う。
「魔力って、体の中に流れるエネルギーのことよ。まずはそれを感じ取ることが大事」
「はい」
エリンが真剣な表情で頷く。
「目を閉じて、深呼吸して。自分の体の中を流れる何かを感じてみて」
エリンが目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整える。
しばらくの沈黙。
「……あ」
エリンが小さく声を上げた。
「何か、温かいものが……体の中を流れてる気がします」
「それよ! それが魔力!」
リーナが嬉しそうに言った。
「すごいわエリン、初めてなのにもう感じ取れるなんて!」
「本当ですか!?」
エリンが目を輝かせる。
「じゃあ次は、その魔力を手に集めてみましょう。イメージするの。体の中の温かいものが、手のひらに集まってくるって」
エリンが再び集中する。
彼女の手のひらが、ほんのり光り始めた。
「出てる! 魔力が出てる!」
リーナが興奮気味に言う。
「このまま、『火の玉よ、現れよ』って唱えてみて!」
「火の玉よ、現れよ!」
ボッ。
エリンの手のひらに、小さな火の玉が浮かんだ。
「で、できました! 魔法が、魔法が使えました!」
エリンが感激で涙ぐむ。
「すごいわエリン! 初日で魔法を発動させるなんて、やっぱりあなた天才よ!」
リーナが抱きしめる。
二人の感動的な瞬間――
「うおおおお! 見たか! 木剣が二回振れたぞおおお!」
「アキラうるさい! 今いいところなの!」
リーナの怒鳴り声が訓練場に響いた。
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三日目。
「よし、今日は連携訓練だ」
ガルドが言った。
「Aランクダンジョンは、個人の実力だけじゃ攻略できない。チームワークが命だ」
「連携訓練って、具体的に何するの?」
俺が聞く。
「模擬戦闘だ。俺が敵役をやる。お前ら三人で俺を倒してみろ」
「え、ガルド一人vs俺たち三人?」
「そうだ。本番では、もっと強い敵が複数いる。三人で一人を倒せないようじゃ話にならん」
ガルドが剣を抜いた。
「いくぞ」
「よっしゃ! やってやる!」
俺が木剣を構える。
「待ってアキラ、まず作戦を――」
「突撃ああああ!」
「聞いてない!」
リーナの悲鳴を無視して、俺はガルドに突っ込んだ。
「甘いっ!」
ガルドが軽くステップして避ける。
そして――
ガシッ。
俺の懐に入り込み、剣の柄で俺の腹を突いた。
「ぐはっ!」
「お前の動きは読みやすい。単純すぎるんだ」
ガルドが冷静に言う。
「くっ……もう一回!」
「だから待ちなさいってば!」
リーナが叫ぶ。
「エリン、あなたは左から! 私は魔法で援護するから!」
「はい!」
エリンが剣を構えて左から接近。
リーナが詠唱を始める。
「風よ、刃となりて――ウィンドカッター!」
風の刃がガルドに飛ぶ。
ガルドがそれを剣で弾き――
「隙あり!」
エリンが斬りかかる。
「おっと」
ガルドがエリンの剣を受け止める。
「いい連携だ。だが――」
ガルドがエリンの剣を弾き飛ばし、そのまま反撃――
「きゃっ!」
エリンが尻餅をつく。
「まだまだだな」
ガルドがニヤリと笑った。
「くっそー! もう一回!」
「何回やっても同じよアキラ! ちゃんと作戦立てないと!」
「作戦とか面倒くさい! 気合いで何とかなる!」
「ならないわよ!」
リーナのツッコミが訓練場に響く。
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五日目。
俺たちは少しずつ成長していた。
俺は木剣を10回振れるようになった。
エリンは火の魔法に加えて、風の魔法も使えるようになった。
そして、連携訓練では――
「今だ、エリン!」
「はい!」
リーナの魔法でガルドの動きを止め、その隙にエリンが攻撃。
俺はガルドの退路を塞ぐ。
「チェックメイトだ、ガルド!」
俺が得意げに言う。
「……やるじゃないか」
ガルドが剣を下ろした。
「ついに、俺を追い詰めたな」
「やったああああ!」
俺とエリンがハイタッチ。
「でも、まだ完璧じゃないわ」
リーナが冷静に言う。
「アキラ、あなた途中で二回も作戦無視したでしょ」
「え、そうだっけ?」
「そうよ。もっと冷静に動かないと、本番で足を引っ張るわよ」
「うっ……」
図星である。
「まあ、五日でここまで成長したのは立派だ」
ガルドが笑った。
「あと二日、気を抜くなよ」
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六日目の夜。
訓練を終えた俺たちは、ギルド近くの酒場で夕食を取っていた。
「明日で特訓最終日か……」
俺がジョッキを傾けながら言う。
「あっという間だったわね」
リーナがスープを飲みながら答える。
「でも、みんなすごく成長したと思う」
エリンが嬉しそうに言った。
「私、魔法が使えるようになって……本当に嬉しいです」
「エリンは本当に上達が早いわ。才能あるわよ」
リーナが優しく微笑む。
「全部、リーナさんのおかげです」
「ううん、エリンが頑張ったからよ」
二人が笑い合う。
「俺も木剣を10回振れるようになったぞ!」
「それ、全然自慢にならないから」
リーナの冷たいツッコミ。
「いやいや、俺にとっては大進歩なんだって!」
「……まあ、確かにそうね」
リーナが苦笑する。
ガルドがジョッキを置いた。
「お前ら、いいパーティーになってきたな」
「え?」
「最初は心配だったが……今なら、Aランクダンジョンも攻略できるかもしれん」
ガルドが真剣な表情で言う。
「お前らを見てると、昔の俺たちを思い出す」
「昔のパーティー?」
「ああ。俺にも、かつて仲間がいた。今はもう、バラバラだがな」
ガルドが少し寂しそうに笑った。
「でも、お前らと一緒にいると……また、あの頃に戻ったみたいで、悪くないと思ってる」
「ガルド……」
俺たちが顔を見合わせる。
「だから、絶対に死ぬなよ。明後日のダンジョン攻略、全員で帰ってくるんだ」
「当たり前だ!」
俺が拳を突き上げた。
「俺たちは最強のパーティーだからな!」
「最強は言い過ぎよ」
「いやいや、最強だって! だってほら、俺レベル845もあるし!」
「それ、どんどん下がってるじゃない……」
リーナが呆れる。
「大丈夫大丈夫! レベル下がるほど強くなる気がするから!」
「その理論、絶対おかしいわよ」
「とにかく! 明後日は絶対に成功させる!」
俺が立ち上がって宣言した。
「Cランク昇格試験、全員で突破するぞ!」
「おー!」
エリンも立ち上がる。
「……仕方ないわね」
リーナも笑顔で立ち上がった。
「全員で、帰ってきましょう」
ガルドが最後に立ち上がる。
四人のジョッキが、カチンと音を立てて触れ合った。
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七日目。
特訓最終日。
「よし、今日は最終確認だけだ」
ガルドが言った。
「無理はするな。明日に備えて、体力は温存しておけ」
「了解!」
俺たちは軽い訓練だけで済ませ、早めに解散することにした。
「じゃあ、明日の朝、ギルドに集合ね」
リーナが確認する。
「深淵の塔は街から半日の距離。朝早く出発するわよ」
「おっけー!」
「エリン、ちゃんと装備の確認しておきなさいよ」
「はい!」
エリンが元気よく返事をする。
「アキラは……」
リーナが俺を見る。
「木剣、予備も持ってきなさいよ。絶対に足りなくなるから」
「わかってるって! 20本くらい持ってく!」
「20本って……」
リーナが頭を抱えた。
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その夜。
俺は宿の部屋で、一人装備を確認していた。
木剣×20本。
予備の服。
ポーション数本。
ギルドカード。
謎の水晶。
「よし、準備完璧だな」
ベッドに寝転がる。
明日は、Aランクダンジョン。
今までとは格が違う、本当の試練が待っている。
「……楽しみだな」
俺は天井を見上げながら呟いた。
レベルは845。
もうすぐ、本当の力が目覚める気がする。
レベル0を超えたら――何かが、逆転する。
そんな予感がある。
「よし、明日も頑張るぞ!」
俺は目を閉じた。
長い一週間の、最後の夜が更けていく――
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**次回予告**
一週間の特訓を終えたアキラたち。ついに挑む、Aランクダンジョン「深淵の塔」。そこで待ち受けるものとは――?
次回、第27話「深淵への挑戦」
現在のアキラのステータス
•レベル:845
•HP/MP/攻撃力/防御力/魔力/敏捷性:845,000
•ギルドランク:Dランク
•所持金:金貨82枚、銀貨30枚
•所持アイテム:謎の水晶(逆転者の証)、セレスティアの祖父の日記(写し)、通信石(クロウから受け取った)
•スキル:全スキルLvMAX(回避行動、軟着陸など)
お楽しみに!




