第21話「ランクアップ試験への道」
前回のあらすじ
街を襲った大量のモンスター。アキラたちの活躍で事態は収束したが、背後には「影の組織」の存在が。クロウから通信石を受け取り、新たな脅威に備えることになったアキラたちだったが――
-----
「というわけで、Dランク昇格試験を受けることにしました!」
ギルドの受付でそう宣言した俺に、マリアさんが眼鏡を光らせながら書類を取り出した。
「アキラさん、本気ですか? 街の危機を救った実績は素晴らしいですが、Eランクになってまだ日が浅いですよ?」
「大丈夫大丈夫! レベルも順調に下がってるし!」
「いやその理論おかしいから!!」
リーナのツッコミが炸裂する。もうお馴染みの光景だ。
「でもさ、今回の事件でさらに経験値稼げたし。このチャンスを活かさないと!」
「その『経験値稼いだ』って言い方、本当に違和感しかないんだけど…」
リーナが頭を抱える。
ガルドが腕を組んで頷いた。
「まあ、実力的には問題ないだろう。街を救った実績もある。タイミングとしては悪くない」
「ガルドさんまで! アキラの勘違いを正す気ないんですか!?」
「いや、もう諦めた」
「諦めるな!!」
エリンがきょとんとした顔で首を傾げる。
「あの、Dランクになると何が変わるんですか?」
マリアさんが優しく説明する。
「受けられる依頼のランクが上がります。報酬も増えますし、ギルド内での信頼も高まりますね。ただし、試験の難易度も上がります」
「試験…」
エリンの顔が少し強張る。
「エリンは無理に受けなくていいぞ? まだ冒険者になって日が浅いし」
俺がそう言うと、エリンは首を横に振った。
「いえ! 私も受けます! アキラさんたちと一緒に強くなりたいんです!」
おお、やる気満々だ。
「よし、じゃあ全員で受けよう!」
「ちょっと待って」
リーナが手を上げる。
「私とガルドさんは既にDランク以上なんだけど…」
「あ、そっか」
「今さら気づいた!?」
試験の詳細を聞くため、セリアのオフィスに呼ばれた。
「Dランク昇格試験か」
セリアが書類に目を通しながら言う。
「試験は二部構成だ。第一部は筆記試験。冒険者としての基礎知識を問う」
「筆記…」
俺とエリンが同時に顔を見合わせた。
「苦手?」
「え、まあ…その…」
「全然勉強してこなかったタイプだな」
ズバリ言われた。
リーナが呆れた顔で言う。
「やっぱり。依頼書も読まないし」
「いや、それは関係ないだろ!」
「大いにあるわよ!」
セリアが続ける。
「第二部は実技試験。指定されたモンスターの討伐、もしくは模擬戦闘だ」
「模擬戦闘?」
「試験官との戦いだな。Cランク冒険者が相手になる」
ガルドが興味深そうに頷く。
「なるほど。実力を直接見るわけか」
「ああ。筆記と実技、両方合格して初めてDランクになれる」
エリンが緊張した顔で言う。
「筆記試験…頑張ります…」
「大丈夫、一緒に勉強しような!」
「アキラが教えられるの?」
リーナの冷たい視線が刺さる。
「え、だって俺、レベル高いし?」
「レベルと知識は別!!」
試験日まで一週間。
ギルドの図書室で、俺とエリンは参考書と格闘していた。
「モンスターの生態…属性の相性…うっ、頭が…」
「アキラさん、大丈夫ですか?」
「エリンは?」
「私も…文字が踊ってます…」
二人で頭を抱える。
そこにリーナが現れた。
「あー、やっぱりこうなってる」
「リーナ! 助けて!」
「最初から頼る気満々じゃない!」
リーナは呆れながらも、俺たちの隣に座った。
「まあ、放っておけないし。教えてあげるわ」
「マジで!? さすがリーナ!」
「でも条件がある」
「条件?」
リーナがニヤリと笑う。
「次の依頼の報酬、私の取り分30%増しで」
「お金に弱い!!」
それから数日間、地獄の勉強会が始まった。
「いい? スライムは物理攻撃が効きにくい。だから魔法で――」
「あ、でも俺が戦ったスライムは魔法も効かなかったぞ?」
「あれは特殊なケースでしょ! 普通のスライムの話!」
「普通のスライムって何?」
「もう! ちゃんと聞いて!」
エリンも必死にノートを取っている。
「えっと、ゴブリンは群れで行動…オークは力が強い…」
「そうそう、その調子」
リーナが優しくエリンを指導する。
「なんでエリンには優しいの?」
「エリンは真面目に勉強してるもの」
「俺だって真面目だぞ!」
「さっき寝てたでしょ」
「あれは目を閉じて内容を反芻してただけで――」
「言い訳も下手!」
ガルドが訓練から戻ってきて、様子を見ている。
「順調そうだな」
「ガルドさん、全然順調じゃないです」
リーナが疲れた顔で言う。
「アキラの覚えの悪さが想像の三倍でした」
「三倍って!」
「まあ、実技は問題ないだろう」
ガルドが笑う。
「ああ、実技は楽勝だろうな。筆記さえ通れば」
「その筆記が問題なんだって!!」
試験前日。
「よし、最後の確認だ」
リーナが問題集を開く。
「問題。Bランクモンスター『ワイバーン』の弱点は?」
「翼の付け根!」
「正解」
おお、答えられた!
「次。Cランクモンスター『オーガキング』の特徴は?」
「でかい! 強い! 臭い!」
「最後は余計! でも半分正解!」
エリンも頑張って答えている。
「Dランクモンスター『ケイブベア』は…洞窟に住んでいて、暗闇でも視界が効く…」
「完璧! エリン、成長したわね」
「本当ですか!?」
エリンが嬉しそうに顔を輝かせる。
「ああ、お前ら二人とも、初日よりずっと良くなってる」
リーナが珍しく優しい顔で言った。
「これなら、筆記も大丈夫かもね」
「よっし! やったぞエリン!」
「はい!」
俺たちはハイタッチした。
「でも油断は禁物よ。明日、全力で挑みなさい」
「おう!」
そして試験当日。
ギルドの試験会場には、他にも何人かの冒険者が集まっていた。
「結構人数いるな」
「Dランク試験は月に一回だからね。みんなこの日を狙って来るのよ」
リーナが説明する。
エリンが緊張した顔で周りを見回している。
「大丈夫か?」
「は、はい…でも、みんな強そうで…」
「気にすんな。お前はお前のペースでいい」
「…はい!」
試験官のCランク冒険者が現れた。筋骨隆々の男性だ。
「これより、Dランク昇格試験を開始する。まずは筆記試験だ。制限時間は一時間。カンニング厳禁」
配られた試験用紙を見る。
「あれ? 意外と…読める?」
リーナの特訓のおかげか、問題の意味が理解できる。
「よし、やるぞ…!」
隣を見ると、エリンも真剣な顔でペンを走らせている。
一時間後。
「終了! 筆記用具を置け!」
試験官の声で、全員がペンを置いた。
「疲れた…」
「お疲れ様、アキラさん」
エリンが笑顔で言う。
「結果は午後に発表する。合格者のみ、実技試験に進める」
「よし、あとは結果を待つだけだな」
「…手応えは?」
リーナが心配そうに聞いてくる。
「うーん、七割くらいは…」
「七割!? すごいじゃない!」
「リーナのおかげだよ」
「まあね」
リーナが照れたように笑った。
午後。
「筆記試験合格者を発表する」
試験官が名前を読み上げていく。
「桜井アキラ」
「よし!」
「エリン」
「や、やった…!」
俺とエリンは顔を見合わせてガッツポーズした。
「おめでとう、二人とも」
リーナが拍手してくれる。
「合格者は訓練場に集合。実技試験を開始する」
訓練場に向かうと、他の合格者たちも集まっていた。
十人ほどだ。
「実技試験は模擬戦闘形式で行う。私と一対一で戦ってもらう」
試験官が剣を抜く。
「もちろん、本気で戦う必要はない。ただし、Dランクに相応しい実力があるか見極めさせてもらう」
「緊張してきた…」
エリンが小さく呟く。
「大丈夫。普段通りやれば」
「はい…!」
「では、最初。桜井アキラ、前へ」
「お、俺からか」
訓練場の中央に立つ。
試験官が剣を構える。
「準備はいいか?」
「ああ」
俺も剣を抜く。
「では――始め!」
試験官が突進してくる。
速い!
でも、ガルドの特訓を思えば――
「遅いっ!」
俺は試験官の剣を受け流し、間合いを詰める。
「なに!?」
試験官が驚いた顔をする。
まずい、力加減しないと――
「てやっ!」
軽く剣を振る。
バキィィィン!
試験官の剣が真っ二つに折れた。
「」
「え」
沈黙。
「…あの」
「ちょっと待て」
試験官が折れた剣を見つめている。
「これ、魔法強化してある試験用の剣なんだが…」
「あ、ご、ごめんなさい! 力加減ミスって!」
「力加減…だと…?」
試験官が信じられないという顔をしている。
観客席から、リーナの呆れた声が聞こえた。
「また壊した…」
「合格! 文句なしの合格だ!」
試験官が叫ぶ。
「というか、君、本当にEランクか?」
「え、ああ、一応…」
「信じられん…」
試験官がぶつぶつ言いながら、予備の剣を取りに行った。
次はエリンの番だ。
「頑張れエリン!」
「は、はい!」
エリンが訓練場に立つ。
新しい剣を持った試験官と向かい合う。
「では、始め」
試験官がゆっくりと攻撃を仕掛ける。
さっきより明らかに手加減している。
エリンは習った通りに防御し、反撃する。
「はっ!」
小さな体を活かした素早い動き。
「ほう…」
試験官が感心したように頷く。
「基礎はしっかりできている。まだ経験は浅いが、センスがあるな」
数分間の攻防の後。
「そこまで! 合格だ」
「本当ですか!?」
エリンが嬉しそうに飛び跳ねる。
「ああ。若いのに、よく訓練されている」
「やったなエリン!」
俺が駆け寄ると、エリンは涙目で頷いた。
「はい…! 私、Dランクになれました…!」
試験終了後、ギルドのカウンターで手続きを済ませた。
「はい、これが新しいギルドカード」
マリアさんが二枚のカードを渡してくれる。
「おお、ランクのところがDになってる!」
「当たり前でしょ」
リーナが笑う。
エリンも自分のカードをじっと見つめている。
「私…Dランクに…」
「よく頑張ったな」
ガルドが頭を撫でる。
「はい…! これもみんなのおかげです!」
「さて、祝杯といこうか」
ガルドが提案する。
「おお、いいね! エリンの初めてのランクアップだし!」
「私も初めてですけど…」
「アキラはもう何回目って感じだもんね」
リーナが苦笑する。
「よし、じゃあ今日は奢るぞ!」
「本当!?」
「おう! レベルも下がって俺は強くなってるしな!」
「その理論! いい加減に直して!!」
リーナのツッコミが炸裂する中、俺たちは酒場へと向かった。
街の危機を救い、新たなランクを手に入れた。
これからもっと難しい依頼が待っているだろう。
でも、仲間がいれば――何でも乗り越えられる気がした。
-----
## 次回予告
「次は、Dランク最初の依頼だ!」
「普通の依頼がいいな…」
「でも依頼書読まないんでしょ?」
「あっ」
次回、第22話「Dランクの試練」
果たして、普通の依頼は訪れるのか!?
-----
**現在のアキラのステータス**
- レベル:872
- HP/MP/攻撃力/防御力/魔力/敏捷性:872,000
- ギルドランク:**Dランク**(昇格!)
- 所持金:金貨12枚、銀貨30枚




