第16話「遺跡の最深部と謎の男」
前回のあらすじ
大貴族セレスティアから遺跡調査の依頼を受けたアキラたち。魔法文明の遺跡を探索中、突如現れたゴーレムと激闘!なんとか撃破するも、アキラのレベルは893に。遺跡の奥には、まだ何かが待ち受けているようで――
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## 本編
「それにしても、すごい遺跡だよな」
俺は崩れかけた石柱を眺めながら、感心した声を上げた。
ゴーレムを倒してから、俺たちはさらに遺跡の奥へと進んでいた。通路は複雑に入り組んでいて、まるで迷路みたいだ。壁には魔法文明時代の文字が刻まれているが、俺には全く読めない。
「アキラさん、気をつけてくださいね」
エリンが心配そうに俺の後ろを歩いている。あのゴーレム戦で、彼女はかなりビビっていた。まあ、無理もない。あんな巨大な石の塊が動き出すなんて、普通は想像できないだろう。
「大丈夫大丈夫!ゴーレムも倒したし、もう怖いものなんてないって!」
「その油断が一番危ないんですけど…」
リーナが呆れた声で言う。彼女は慎重に周囲を警戒しながら歩いていた。
「ガルドさん、この先は大丈夫そうですか?」
「ああ、今のところは問題ない。だが、妙な気配を感じる」
ガルドが剣を構えたまま答える。さすがBランク冒険者、警戒を怠らない。
俺たちは慎重に奥へと進んだ。
通路を抜けると、突然視界が開けた。
「うわあ…すげえ!」
そこには巨大な空間が広がっていた。
天井は遥か高く、壁一面に魔法陣が描かれている。部屋の中央には、巨大な石碑が立っていた。そして、その石碑の前には――
「あれ?人がいる?」
エリンが驚いた声を上げた。
確かに、石碑の前に人影が見える。黒いローブを着た男が、石碑を眺めていた。
「誰だ!」
ガルドが警戒して叫ぶ。
男はゆっくりと振り返った。
ローブのフードを被っているため、顔はよく見えない。だが、その雰囲気は明らかに普通じゃない。まるで、この遺跡に溶け込んでいるような、そんな違和感があった。
「…冒険者か」
男は低い声で呟いた。
「あんた、何者だ?この遺跡で何をしている?」
ガルドが剣を構える。
男は答えない。ただ、俺たちをじっと見つめている。
その視線が、なぜか俺に集中しているような気がした。
「君は…」
男が俺に向かって歩き出す。
「おい、近づくな!」
ガルドが制止するが、男は止まらない。
「面白い…実に面白い」
男は俺の目の前まで来ると、不気味な笑みを浮かべた。フードの隙間から見える口元が、ニヤリと歪む。
「あの、何が面白いんですか?」
俺は思わず聞いてしまった。
「君のレベルだよ」
「え?」
「レベル893…このレベルで、よくここまで来られたものだ」
男の言葉に、リーナが驚いた声を上げる。
「ちょっと待って!どうして彼のレベルがわかるの!?」
「見ればわかる。君たちは知らないのか?レベルというのは、魂に刻まれた数字だ。魔力を持つ者なら、他人のレベルを読み取ることができる」
「そんなこと聞いたことないわよ!」
リーナが叫ぶ。
確かに、俺もそんな話は初めて聞いた。この世界では、レベルはギルドカードでしか確認できないと思っていた。
「ふふ、無理もない。この技術は失われて久しい。古代魔法文明の遺産だからな」
男は再び俺を見つめた。
「それにしても、レベル893とは…君は何者だ?」
「ただの冒険者ですけど」
俺は正直に答えた。
「普通の冒険者がレベル893なわけがない。レベルというのは、経験を積めば積むほど上がっていくものだ。君ほどのレベルなら、少なくとも数十年は冒険者をやっているはずだ」
「いやいやいや、俺は17歳ですけど!」
「17歳…?」
男は明らかに驚いた様子だった。
「それは…あり得ない。君のレベルは、明らかに下がっている。まるで、経験値を失っているかのように」
「下がってる?そんなわけないでしょ!」
リーナが否定する。
「レベルは上がることはあっても、下がることなんてない!それが常識よ!」
「常識、か…」
男は不気味に笑った。
「君たちは知らないのだろうな。この世界のレベルシステムは、かつての魔法文明が作り出したものだ。そして、そのシステムには、ある『バグ』が存在する」
「バグ?」
「そう。極めて稀な現象だが、レベルが逆転することがある。経験値を得れば得るほど、レベルが下がっていく…そんな異常な状態に陥る者が、数百年に一度だけ現れる」
その言葉に、俺は思わず息を飲んだ。
「まさか…」
「君がそうだ。君は『逆転者』だ」
男は断言した。
「逆転者…?」
「レベルが逆に進む者。かつて、魔法文明はこの現象を研究していた。だが、その研究は未完成のまま、文明は滅びた」
男は石碑を指差した。
「この石碑には、その研究の記録が刻まれている。逆転者に関する、すべての情報がな」
「じゃあ、俺のレベルが下がってるのって…」
「そうだ。君は経験値を得れば得るほど、レベルが下がっていく。そして、いずれレベルは0になり、さらにマイナスへと突入する」
男の言葉に、リーナが青ざめた。
「そんな…じゃあ、アキラはこのままずっと弱くなっていくの!?」
「弱くなる?いや、違う」
男は首を横に振った。
「逆転者は、レベルがマイナスになった瞬間、すべてが反転する。弱さが強さに、脆さが堅牢に、すべてが逆転するのだ」
「どういうこと?」
「つまり、君は今、弱くなっているわけではない。むしろ、真の力を得るための準備段階にあるのだ。レベル0を超え、マイナスの領域に突入した時、君は真の『逆転勇者』となる」
逆転勇者。
その言葉が、妙に心に響いた。
「でも、なんで俺が逆転者なんかに…」
「それは、私にもわからない。だが、君がこの世界に召喚された理由と、無関係ではないだろう」
男はそう言うと、石碑から何かを取り出した。
小さな水晶のような石だ。
「これを持っていけ。この石は、君のレベルを記録する。そして、君がレベル0を超えた時、この石が新たな力を解放するだろう」
男は水晶を俺に手渡した。
「あの、あなたは一体…」
「私か?私はただの研究者だ。魔法文明の遺産を調査しているだけのな」
男はそう言うと、突然姿を消した。
まるで、最初からそこにいなかったかのように。
「え…?今の何?」
エリンが呆然としている。
「転移魔法…いや、違う。あれは幻影だったのかもしれない」
リーナが呟く。
俺は手の中の水晶を見つめた。
逆転者。
レベルがマイナスになると、すべてが反転する。
「なんか、すっごいワクワクしてきた!」
「ワクワクしてる場合じゃないでしょ!」
リーナが叫ぶ。
「だって、レベル0を超えたら真の力が手に入るんだろ?それって最高じゃん!」
「その前に死んだらどうするのよ!レベルが下がってるってことは、今の君は弱くなってるのよ!?」
「大丈夫大丈夫!俺、まだレベル893もあるし!」
「そういう問題じゃないのよ…」
リーナは頭を抱えた。
ガルドは黙って石碑を見つめている。
「ガルドさん、どう思います?」
「…あの男の言葉が本当なら、アキラの戦い方を根本から変える必要がある」
ガルドは真剣な表情で言った。
「レベルが下がり続けるなら、いずれステータスも限界まで下がる。その前に、レベルに頼らない戦い方を身につけなければならん」
「レベルに頼らない戦い方…」
「そうだ。技術、経験、判断力。そういったものでカバーするしかない」
ガルドの言葉に、俺は頷いた。
確かに、レベルだけに頼っていたら、いずれ戦えなくなる。
でも、なんだか楽しみだ。
レベル0を超えて、マイナスになる。
そして、すべてが逆転する。
「よし!じゃあ、どんどん経験値を稼いで、早くレベル0になろう!」
「だから、そのテンション何なの!?」
リーナの叫び声が、遺跡に響き渡った。
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遺跡を出ると、すでに日が暮れかけていた。
「はあ…疲れた…」
エリンがぐったりしている。
「お疲れ様、エリン。初めての遺跡探索だったけど、よく頑張ったね」
「ありがとうございます…」
エリンは疲れた顔で笑った。
俺たちはギルドへと向かう。
依頼の報告をしなければならない。
「それにしても、セレスティアさんには何て報告すればいいんだろう?」
「秘宝は見つからなかったけど、謎の男に会って、水晶をもらいました、って言えばいいんじゃない?」
「それ、絶対怪しまれるだろ…」
リーナと話していると、ガルドが口を開いた。
「アキラ、あの男の言葉を忘れるな」
「え?」
「お前は逆転者かもしれない。ならば、これからの戦いは今まで以上に厳しくなる。覚悟を決めておけ」
ガルドは真剣な目で俺を見つめた。
「はい!」
俺は力強く頷いた。
逆転者、か。
なんだか、すごい運命を背負ってしまった気がする。
でも、不思議と怖くはなかった。
むしろ、これからが楽しみだ。
「レベル0を超えたら、どんな力が手に入るんだろうな」
「それ、本気で楽しみにしてるの?」
リーナが呆れている。
「当たり前じゃん!だって、真の力だよ?ワクワクするに決まってるだろ!」
「はあ…もう好きにしてください」
リーナは完全に諦めた様子だった。
俺たちはギルドへと歩き続けた。
手の中の水晶が、微かに光っているような気がした。
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## ステータス
**桜井アキラ**
- レベル:893(変動なし)
- HP:893,000
- MP:893,000
- 攻撃力:893,000
- 防御力:893,000
- 魔力:893,000
- 敏捷性:893,000
- スキル:全スキルLvMAX
**ギルドカード討伐記録更新**
- ゴーレム討伐:1体
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## 次回予告
謎の男から告げられた真実。
アキラは「逆転者」だった!
レベル0を超えれば、すべてが反転する――
だが、その前に待ち受ける試練とは?
次回、第17話「依頼報告と新たな決意」
レベルが下がるほど、アキラは強くなる…のか!?




