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第15話「噂の冒険者と怪しい依頼」

前回のあらすじ


街の北に現れたオークの群れ。緊急招集された冒険者たちと共に戦場へ向かったアキラは、武器を忘れて素手で十八匹のオークを瞬殺。その規格外の強さで街を救い、レベルは898に。だが、噂は瞬く間に広がり――


-----


 翌朝、ギルドのロビー。


「うわあ……」


 アキラが呆然と呟く。


 依頼掲示板の前には、長蛇の列ができていた。


「アキラさん!私の依頼を受けてください!」


「いや、うちの依頼を!」


「報酬は三倍出します!」


 人々が口々に叫ぶ。


「ちょ、ちょっと待って……」


 アキラが困惑する。


「いやいやいや、何これ!?」


「噂が広まったのよ」


 リーナが呆れた表情で言う。


「オークを素手で倒した冒険者って」


「え、みんな知ってるの?」


「当たり前でしょ。あんな派手にやったんだから」


「うわあ……」


 アキラが頭を抱える。


「アキラさん!」


 エリンが駆け寄ってくる。


「有名人になってますよ!」


「有名って……困るんだけど……」


「でも、すごいじゃないですか!」


「そうかなあ……」


 アキラがしょんぼりする。


 その時、受付のマリアが声をかけてきた。


「アキラさん、ちょっといいですか?」


「はい?」


「依頼の件で、相談があるんですけど……」


「あ、はい」


 アキラが受付に向かう。


「実は、指名依頼が三十件以上来てまして……」


「さ、三十!?」


「はい。どれを受けるか、選んでいただきたいんですが……」


「え、えっと……」


 アキラが依頼書の山を見る。


「多すぎて選べない……」


「ですよね……」


 マリアが苦笑する。


「とりあえず、いくつかピックアップしましょうか」


「お願いします……」


 マリアが依頼書を分類し始める。


「まず、モンスター討伐系が二十件……」


「多い……」


「護衛依頼が五件……」


「護衛?」


「はい。商人の護衛や、貴族の子息の護衛などですね」


「へえ……」


「それと、採取依頼が三件……」


「採取?」


「森の奥にある薬草を採ってきてほしい、とか」


「なるほど」


「最後に……」


 マリアが一枚の依頼書を取り出す。


「これは少し特殊な依頼です」


「特殊?」


「『遺跡の調査』……依頼主は、貴族のご令嬢だそうです」


「遺跡の調査……」


 アキラが依頼書を読む。


「『街の東にある古代遺跡を調査してほしい。報酬は金貨五十枚』……」


「金貨五十枚!?」


 リーナが驚く。


「それ、めちゃくちゃ高額じゃない!」


「ええ。通常の依頼の十倍以上です」


「なんで、そんなに高いの?」


「それが……詳細が書かれていないんです」


「詳細?」


「はい。遺跡の場所と、『何かを見つけてほしい』とだけ……」


「怪しい……」


 リーナが眉をひそめる。


「これ、罠じゃない?」


「罠?」


「だって、詳細を教えないなんて変でしょ」


「確かに……」


 アキラが考える。


「でも、困ってる人がいるなら、助けたいな」


「アキラ……」


「それに、遺跡の調査って面白そうじゃない?」


「面白そう、って……」


 リーナがため息をつく。


「アキラは、いつもそうだよね」


「え?」


「危険なことでも、面白そうって言って飛び込んでいく」


「そうかな?」


「そうだよ」


 リーナが呆れる。


「でも……それがアキラの良いところでもあるけど」


「リーナ……」


「じゃあ、この依頼受ける?」


「うん!」


 アキラが頷く。


「よし、決まりだな」


 ガルドが近づいてくる。


「だが、俺も同行させてもらうぞ」


「ガルド?」


「遺跡の調査は危険だ。何が出るかわからん」


「そうだね……」


「それに、Eランクが単独で受けられる依頼じゃない」


「あ、そうなんだ」


 アキラが気づく。


「じゃあ、みんなで行こう!」


「はい!」


 エリンが手を挙げる。


「私も行きます!」


「エリン、大丈夫か?」


「はい!訓練の成果を見せたいです!」


「そうか……」


 ガルドが考える。


「まあ、遺跡の調査なら戦闘は少ないかもしれんな」


「じゃあ、決まり!」


 アキラが拳を突き上げる。


「みんなで遺跡探検だ!」


-----


 依頼主との待ち合わせ場所。


 街の広場に、一人の女性が立っていた。


「あの人かな?」


「多分ね」


 アキラたちが近づく。


「あの、遺跡調査の依頼を出された方ですか?」


「はい」


 女性が振り向く。


 長い黒髪、整った顔立ち。高そうなドレスを着ている。


「私は、セレスティア・ローゼンバーグと申します」


「ローゼンバーグ……」


 ガルドが反応する。


「あの、大貴族の……?」


「ええ」


 セレスティアが頷く。


「この度は、依頼を受けていただき、ありがとうございます」


「いえいえ、こちらこそ」


 アキラが笑顔で返す。


「それで、遺跡の調査って、具体的に何をすればいいんですか?」


「……その前に、一つお聞きしたいことが」


「はい?」


「あなたが、オークを素手で倒したという噂の冒険者ですか?」


「あ、はい……そうです」


「やはり」


 セレスティアが微笑む。


「噂は本当だったのですね」


「え、えっと……」


「安心しました。これなら、遺跡の奥まで到達できるかもしれません」


「遺跡の奥……?」


「ええ。実は、私の祖父が遺した日記に、その遺跡のことが書かれていたのです」


「日記?」


「はい。『遺跡の最深部には、古代文明の秘宝が眠っている』と」


「秘宝……」


 アキラの目が輝く。


「なんか、ワクワクするね!」


「アキラ……」


 リーナが呆れる。


「でも、なぜ自分で行かないんですか?」


 ガルドが聞く。


「私は、戦闘ができません。そして、遺跡の中には強力なモンスターが棲んでいるという情報も……」


「強力なモンスター……」


「ええ。ですから、強い冒険者にお願いしたかったのです」


「なるほど……」


 ガルドが頷く。


「わかりました。お受けしましょう」


「本当ですか!?」


 セレスティアが喜ぶ。


「ありがとうございます!」


「でも、一つだけ」


「はい?」


「その秘宝って、何なんですか?」


「それは……」


 セレスティアが言葉を濁す。


「わからないのです」


「わからない?」


「はい。祖父の日記には、『秘宝』としか書かれていなくて……」


「そっか……」


「ですが、きっと価値のあるものだと思います」


「わかりました」


 アキラが頷く。


「じゃあ、早速行きましょう!」


「ありがとうございます!」


 セレスティアが深く頭を下げた。


-----


 街の東、二時間ほど歩いた場所。


 森の中に、古びた石造りの遺跡が現れた。


「これが……遺跡……」


 エリンが呟く。


「すごく……古そうですね……」


「ああ。おそらく数百年は経っているな」


 ガルドが遺跡を観察する。


「入口は、ここか」


「暗いですね……」


「松明を用意してある。これを使おう」


 ガルドが松明を配る。


「じゃあ、入ろうか」


 アキラが先頭に立つ。


「待て、アキラ」


「ん?」


「遺跡の中は危険だ。俺が先頭に立つ」


「あ、そっか」


 アキラが後ろに下がる。


「じゃあ、行くぞ」


 四人が遺跡の中へと進んでいく。


 薄暗い通路が続いている。


「なんか……不気味ですね……」


 エリンが怯える。


「大丈夫だよ、エリン」


 アキラが笑顔で言う。


「俺たちがいるから」


「はい……」


 エリンが少し安心する。


 その時――


 カチッ


「ん?」


 ガルドが足を止める。


「何か踏んだ……」


「え?」


 次の瞬間――


 ガシャアアアン!


 壁から、無数の矢が飛んできた。


「罠だ!伏せろ!」


「きゃあ!」


 エリンが慌てて伏せる。


 だが――


 アキラは立ったまま。


「アキラ!?」


 リーナが叫ぶ。


 矢がアキラに命中――


 カキィン!カキィン!カキィン!


 矢が、アキラの体に当たって弾かれていく。


「え?」


 アキラが不思議そうに見る。


「なんか、当たったけど痛くない」


「いやいやいや!」


 リーナがツッコむ。


「矢が弾かれてるんだけど!?」


「え、そうなの?」


「見てわからないの!?」


「いや、なんか、蚊に刺されたみたいな感じで……」


「蚊!?」


 リーナが頭を抱える。


「アキラのステータス、898,000でしょ!?矢なんて効くわけないじゃない!」


「あ、そっか」


 アキラが納得する。


「でも、今のレベル898だから、前より弱くなってるはずだよね?」


「え?」


 リーナが首を傾げる。


「弱くなってる?何言ってるの?」


「だって、レベル下がってるし……」


「アキラ、レベル898でもステータス898,000だよ?十分強いから」


「そうなんだ……」


 アキラが少し残念そうに呟く。


「じゃあ、まだまだ下がらないとダメなのかな……」


「ダメって……」


 リーナが困惑する。


「アキラ、なんでそんなにレベル下げたがるの?」


「え?だって、レベル下がったら強くなるんでしょ?」


「いや、逆!レベル下がったら弱くなるの!」


「え、そうなの!?」


 アキラが驚く。


「当たり前でしょ!?」


「でも、俺、レベル下がってから戦いやすくなった気がするんだけど……」


「それは……」


 リーナが言葉に詰まる。


(確かに、アキラはレベルが下がってから、戦い方が洗練されてきてる……でも、それは技術が上がっただけで、ステータスは下がってるはず……)


「まあ、いいや」


 アキラが気を取り直す。


「とりあえず、先に進もう!」


「あ、ちょっと……」


 リーナが止める間もなく、アキラが歩き出す。


 カチッ、カチッ、カチッ


「あ」


「また踏んだ!?」


「ご、ごめん!足元見てなかった!」


 ガシャアアアン!


 再び矢が飛んでくる。


 カキィン!カキィン!カキィン!


「やっぱり痛くない!」


「だから、それが異常なの!」


 リーナがツッコむ。


「アキラ、もっと注意深く歩け!」


「うん……」


 アキラがしょんぼりする。


 エリンがクスクスと笑う。


「アキラさん、ドジですね」


「うっ……」


「でも、そういうところも可愛いです」


「可愛いって……」


 アキラが照れる。


「エリン、それフォローになってない」


 リーナが呆れた。


-----


 遺跡の奥へと進んでいくと、広い部屋に出た。


「ここは……」


「何かの部屋か?」


 ガルドが辺りを見渡す。


 部屋の中央には、大きな石像が立っていた。


「あの石像……何だろう……」


 アキラが近づく。


「待て、アキラ」


「ん?」


「不用意に近づくな。また罠かもしれん」


「あ、そっか」


 アキラが足を止める。


 その時――


 ゴゴゴゴゴ……


 石像が動き出した。


「え?」


「動いた!?」


「これは……ゴーレムか!」


 ガルドが構える。


 石像――ゴーレムが、こちらを見た。


 そして――


 ドシン、ドシン、ドシン


 重い足音を立てながら近づいてくる。


「来るぞ!」


「はい!」


 リーナが魔法を構える。


「ファイアボール!」


 炎の球がゴーレムに命中――


 だが、効いていない。


「硬い!」


「魔法が効かない!?」


「物理攻撃じゃないと倒せないのか!」


 ガルドが剣を構える。


「アキラ、お前も戦え!」


「わかった!」


 アキラが拳を構える。


「エリン、お前は下がってろ!」


「は、はい……」


 エリンが後ろに下がる。


 ゴーレムが、拳を振り上げた。


 ドゴォッ!


 地面が揺れる。


「うわっ!」


 ガルドが避ける。


「速い!」


「よし、俺の番!」


 アキラがゴーレムに突っ込む。


「うおおおお!」


 拳を振るう。


 ドゴォッ!


 ゴーレムの胴体に命中――


 バキィン!


 ゴーレムの体に、ヒビが入った。


「おお!効いてる!」


「もう一回!」


 アキラが再び拳を振るう。


 ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!


 何度も殴りつける。


 そして――


 ガシャアアアン!


 ゴーレムが崩れ落ちた。


「やった!」


「すごい……アキラさん、すごいです……」


 エリンが尊敬の眼差しを向ける。


「え、そうかな?」


「はい!本当にかっこよかったです!」


「え、えへへ……」


 アキラが照れる。


「アキラ」


 ガルドが声をかける。


「レベルは?」


「あ、確認する」


 アキラがギルドカードを見る。


「えっと……ゴーレム一体でレベル5減少……」


「五か……」


「レベル893になった」


「また下がったな……」


「うん!」


 アキラが笑顔で頷く。


「でも、まだ全然弱くなってる感じしないな……」


「当たり前だ」


 ガルドがため息をつく。


「お前のステータスは、まだ893,000もあるんだぞ」


「え、そんなに?」


「ああ。レベル0になるまで、まだ893もある」


「そっか……」


 アキラが少し残念そうに呟く。


「まだまだ先は長いんだね……」


「先って……」


 リーナが不安そうに見る。


「アキラ、まさか本気でレベル0目指してるの?」


「え?ダメなの?」


「ダメっていうか……レベル0になったら、本当に弱くなるんだよ?」


「そうなんだ……」


「うん。HP、MP、攻撃力、防御力、魔力、敏捷性……全部0になるの」


「全部0……」


 アキラが考え込む。


「でも、そこから何か変わるんじゃないかな?」


「変わる?」


「うん。なんとなくだけど……レベル0を超えたら、何かが逆転する気がするんだ」


「逆転……」


 リーナが首を傾げる。


「そんなことあるのかな……」


「さあ?でも、面白そうじゃない?」


「面白そう、って……」


 リーナがため息をつく。


「アキラは、本当に……」


「さて、先に進もう」


 ガルドが言う。


「最深部まで、もう少しのはずだ」


「おう!」


 四人は再び進み始めた。


 だが――


 彼らはまだ知らない。


 遺跡の最深部に、何が待ち受けているのかを――


 そして、アキラの予感が正しいことを――


-----


## 次回予告


「これが……秘宝……?」

遺跡の最深部で、アキラたちが見つけたものとは――

そして、突然現れた謎の男が放つ、衝撃の一言!

次回、第16話「遺跡の最深部と謎の男」


レベル:893(5減少)

ギルドランク:Eランク

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