第14話「オークの群れと初陣」
前回のあらすじ
アキラ流特訓で木剣を粉砕し、壁に穴を開けるという惨事を起こしたアキラ。結局、特訓はガルドとリーナに任せることに。だが、エリンと一緒に訓練を楽しみ、お守りの人形をプレゼントする優しい一面も――
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訓練三日目。
エリンの剣の振りも、少しずつ様になってきていた。
「よし、いい感じだ」
ガルドが頷く。
「昨日より動きが良くなってる」
「本当ですか!?」
「ああ。この調子で続ければ――」
その時。
訓練場の扉が勢いよく開いた。
「緊急事態だ!」
息を切らしたギルド職員が飛び込んでくる。
「どうした?」
「街の北、三キロ地点にオークの群れが出現!このままだと街に向かってくる可能性が!」
「オーク!?」
ガルドの表情が険しくなる。
「何匹だ?」
「偵察の報告では、十匹以上……いや、もっといるかもしれません!」
「くそっ……」
「ギルドマスターが、Cランク以上の冒険者に緊急招集をかけています!」
「わかった、すぐに向かう!」
ガルドが立ち上がる。
「リーナ、お前も来い」
「うん!」
「アキラ、お前は――」
「俺も行く!」
アキラが即答する。
「だが、お前はまだEランクだぞ」
「関係ないよ!街が危ないんでしょ?」
「……そうだな」
ガルドが頷く。
「わかった。だが、無茶はするなよ」
「もちろん!」
「あの……」
エリンがおずおずと手を挙げる。
「私も……行っていいですか?」
「ダメだ」
ガルドが即答した。
「エリン、お前はまだ初心者だ。オーク相手じゃ死ぬぞ」
「でも……」
「ここで待ってろ。俺たちが必ず守る」
「……はい」
エリンが悔しそうに頷く。
「じゃあ、行くぞ!」
三人が訓練場を飛び出した。
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ギルドのロビーには、既に多くの冒険者が集まっていた。
「状況を説明する」
ギルドマスターのセリアが地図を広げる。
「オークの群れは、現在ここ。街の北三キロ地点だ」
「数は?」
誰かが聞く。
「最新の報告では、十五匹以上。まだ増える可能性もある」
「十五匹……」
「ランクは?」
「Dランクモンスターだが、群れで行動するため危険度は高い」
セリアが冷静に説明を続ける。
「作戦は単純。群れを分断し、各個撃破。絶対に囲まれるな」
「了解」
「それと――」
セリアがアキラを見る。
「アキラ、お前もいるのか」
「はい!」
「Eランクだぞ?」
「わかってます!でも、俺も戦います!」
「……そうか」
セリアが小さく笑う。
「まあ、お前ならなんとかなるだろう」
「え?」
「いや、何でもない。全員、準備はいいか!」
「「「おう!」」」
冒険者たちが声を上げる。
「では、出発する!」
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街の北門。
城壁の上から、遠くにオークの群れが見えた。
「うわ……マジでいっぱいいる」
アキラが呟く。
「ああ。あれは……二十匹近いな」
ガルドが眉をひそめる。
「増えてる……」
「偵察隊の報告より多いってことか」
「厄介だな……」
その時、オークたちがこちらに気づいた。
「ブモオオオオ!」
低い唸り声が響く。
「来るぞ!各自、配置につけ!」
セリアの号令で、冒険者たちが散開する。
「アキラ、お前は後方支援だ」
「え、後方?」
「ああ。前線はCランク以上に任せろ」
「でも――」
「いいから言うこと聞け!」
ガルドが強い口調で言う。
「……わかった」
アキラが渋々頷く。
だが――
「ブモオオオ!」
オークの群れが突進してきた。
「迎撃開始!」
セリアが叫ぶ。
冒険者たちが一斉に攻撃を開始した。
「ファイアボール!」
リーナの魔法が、オークに命中する。
だが――
「ブモッ!」
オークは怯むだけで、倒れない。
「硬い!?」
「オークは防御力が高い!一撃じゃ倒せないぞ!」
ガルドが斬りかかる。
ズバッ!
深い傷を負わせるが、まだ倒れない。
「くそっ、もう一撃!」
ズバッ!
ようやく一匹倒した。
「一匹倒すのに、これだけかかるのか……」
「数が多すぎる!」
誰かが叫ぶ。
オークたちが次々と押し寄せてくる。
「まずい……このままじゃ押し切られる!」
「誰か、左翼をフォローしろ!」
「こっちも手一杯だ!」
冒険者たちが徐々に押され始める。
その時――
「やばい!」
一人の冒険者が、オーク三匹に囲まれた。
「くそっ……」
オークが棍棒を振り上げる。
「あ――」
その瞬間。
「させるか!」
アキラが飛び出した。
「アキラ!?」
リーナが叫ぶ。
だが、アキラは構わず――
「うおおおお!」
拳を振るった。
ドゴォッ!
オークが吹き飛ぶ。
「え?」
囲まれていた冒険者が呆然とする。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ……」
「良かった!」
アキラが笑顔で言う。
だが――
「ブモオオオ!」
残り二匹のオークが、アキラに襲いかかってきた。
「危ない!」
冒険者が叫ぶ。
アキラが振り向く。
「あ」
そして――
何の躊躇もなく、拳を振るった。
「えいっ」
ドゴッ!ドゴッ!
二匹のオークが、同時に吹き飛んだ。
「」
周囲の冒険者が固まる。
「な……何だ、今の……」
「オークを……素手で……」
「しかも一撃で……」
ざわめきが広がる。
「アキラ!」
ガルドが駆け寄ってくる。
「後方支援って言っただろ!」
「だって、あの人危なかったし!」
「それはそうだが……」
ガルドがオークの死体を見る。
「お前……素手で倒したのか?」
「うん。剣持ってくるの忘れちゃって」
「忘れた!?」
「てへっ」
アキラが舌を出す。
「てへっ、じゃねえ!」
ガルドがツッコむ。
「でも、倒せたからいいでしょ?」
「そういう問題じゃ――」
「ブモオオオオ!」
新たなオークの群れが現れた。
「くそっ、まだいるのか!」
「数が多すぎる……」
冒険者たちが疲弊し始める。
「このままじゃ……」
その時、アキラが前に出た。
「アキラ!?」
「大丈夫!俺に任せて!」
「お前一人で!?」
「うん!」
アキラが笑顔で頷く。
そして――
「うおおおおお!」
オークの群れに突っ込んでいった。
「アキラ!」
リーナが叫ぶ。
だが――
ドゴッ!バキッ!ドカッ!
次々とオークが吹き飛んでいく。
「な……」
「何だ、あいつ……」
「一人で……オークの群れを……」
冒険者たちが唖然とする。
アキラは、まるで遊んでいるかのように――
いや、本当に楽しそうに――
オークを次々と倒していく。
「えいっ、えいっ、とりゃー!」
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
「よし、あと五匹!」
アキラが残りのオークを数える。
「ブモオオオ!」
オークたちが一斉に襲いかかる。
「来た来た!」
アキラが笑顔で迎え撃つ。
そして――
「せいやああああ!」
回転しながら拳を振るった。
ドゴゴゴゴゴッ!
五匹のオークが、一度に吹き飛んだ。
「」
「」
「」
全員が言葉を失う。
「よし、終わり!」
アキラが笑顔で振り向く。
「みんな、大丈夫?」
「あ……ああ……」
「良かった!」
アキラがほっとした表情を浮かべる。
だが、周囲の冒険者たちは――
唖然としたまま、動けなかった。
「……アキラ」
ガルドが呟く。
「お前……本当に何者なんだ……」
「え?普通の冒険者だよ?」
「普通じゃねえ!」
ガルドがツッコむ。
「オークを素手で、しかも一撃で倒す冒険者がどこにいる!」
「え、ダメだった?」
「ダメとかそういう問題じゃ――」
「全員、無事か!」
セリアが駆け寄ってくる。
「ギルドマスター!」
「オークは……全滅か」
セリアが戦場を見渡す。
「二十三匹……全て倒したのか」
「はい……その、ほとんどアキラが……」
「やはりな」
セリアが小さく笑う。
「アキラ」
「はい?」
「よくやった」
「あ、ありがとうございます!」
アキラが嬉しそうに笑う。
「だが、次からは武器を持ってこい」
「はい……」
アキラがしょんぼりする。
リーナが呆れた表情で呟く。
「武器忘れて、素手で戦うって……」
「ごめん……」
「もう……」
リーナがため息をつく。
「でも、みんな無事で良かった」
「うん」
アキラが頷く。
「それが一番大事だよね」
「……そうね」
リーナが少し笑う。
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街に戻ると、エリンが門のところで待っていた。
「アキラさん!」
エリンが駆け寄ってくる。
「無事でしたか!?」
「うん、大丈夫だよ!」
「良かった……」
エリンがほっとする。
「私、すごく心配で……」
「ありがとう、エリン」
アキラが笑顔で言う。
「でも、もう終わったから大丈夫」
「はい……」
エリンが涙目になる。
「私も……私も強くなりたいです……」
「エリン……」
「みんなを守れるくらい……強く……」
「大丈夫。エリンはこれから強くなれるよ」
アキラが優しく言う。
「だから、焦らないで」
「……はい」
エリンが頷く。
「頑張ります……」
「うん」
その時、ガルドが声をかけてきた。
「アキラ」
「ん?」
「お前、今回の戦闘で経験値は?」
「あ……」
アキラがギルドカードを確認する。
「えっと……オーク一匹でレベル3減少って書いてある」
「三!?」
「うん。俺、十八匹倒したから……」
アキラが計算する。
「十八匹×3で……54減少?」
「五十四……」
ガルドが額に手を当てる。
「ってことは、お前のレベルは……」
「952から54引いて……898!」
アキラが笑顔で言う。
「すごい減った!」
「喜ぶな!」
リーナがツッコむ。
「普通、レベルが減るのは悲しむところでしょ!」
「え、でも、これって俺が強くなってるってことでしょ?」
「そうだけど……」
「じゃあ、嬉しいじゃん!」
「……まあ、そうね」
リーナがため息をつく。
「レベル898か……まだまだ下がるわね」
「うん!頑張るよ!」
アキラが拳を握る。
エリンが呟く。
「レベルが下がって強くなる……不思議ですね……」
「ああ。アキラは特殊だからな」
ガルドが頷く。
「でも、だからこそ面白い」
「面白い……」
「ああ。こんな冒険者、見たことないからな」
ガルドが笑う。
「これからも、色々あるだろうな」
「そうですね……」
エリンも笑う。
こうして、オークの群れとの戦いは終わった。
だが――
アキラの規格外ぶりは、ギルド中に知れ渡ることになった。
それは、また別の話。
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その夜、ギルドの食堂。
「お疲れ様でした!」
冒険者たちが、祝杯を上げている。
「今日は本当に危なかった……」
「ああ。アキラがいなかったら、やばかったな」
「本当だよ。あいつ、一体何者なんだ?」
「Eランクだろ?信じられない……」
ざわざわと噂が広がる。
アキラは、そんな噂を知らず――
エリンと楽しそうに食事をしていた。
「ねえねえ、エリン」
「はい?」
「明日も訓練する?」
「はい!頑張ります!」
「よし!じゃあ、明日も一緒に頑張ろうね!」
「はい!」
エリンが笑顔で頷く。
リーナが呟く。
「アキラって、本当に子供っぽいよね」
「ああ」
ガルドが頷く。
「だが、それがいいんだろうな」
「そうね……」
リーナが笑う。
「これからも、色々ありそうね」
「ああ。楽しみだ」
ガルドが笑った。
こうして、オークの群れとの戦いは終わり――
アキラの伝説が、また一つ増えたのだった。
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## 次回予告
「アキラさん、有名人になってますよ!」
オーク討伐の噂が広まり、アキラに依頼が殺到!?
だが、その中に一つだけ、不穏な依頼が紛れていて――
次回、第15話「噂の冒険者と怪しい依頼」
レベル:898(54減少!)
ギルドランク:Eランク




