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第13話「アキラ流特訓地獄」


前回のあらすじ


ゴブリン討伐依頼でゴブリンリーダーに苦戦したエリン。武器を落とし、ガルドに助けられる結果に。自分の未熟さを痛感した彼女のため、アキラは特訓を手伝うことを決意するが――


-----


 翌朝、ギルドの訓練場。


「よーし、今日から特訓だ!」


 アキラが張り切って叫ぶ。


「は、はい……」


 エリンが緊張した面持ちで頷く。


「アキラ、本当に大丈夫なの?」


 リーナが不安そうに聞く。


「大丈夫大丈夫!ちゃんと優しく教えるから!」


「それが不安なんだけど……」


「まあ、見てなって!」


 アキラが自信満々に胸を張る。


「じゃあ、まずは準備運動から!」


「準備運動ですか?」


「うん!体を温めないとケガするからね!」


「わかりました!」


 エリンが素直に頷く。


「じゃあ、まずは――」


 アキラが両手を大きく広げる。


「ジャンプ百回!」


「え?」


「ほら、ぴょんぴょんって!」


「あ、はい……」


 エリンがジャンプを始める。


 一回、二回、三回――


「いい調子!」


「はあ……はあ……」


 二十回を過ぎた辺りで、エリンが息を切らし始める。


「あれ?もう疲れた?」


「す、すみません……」


「大丈夫大丈夫!じゃあ、五十回でいいよ!」


「ありがとうございます……」


 エリンが何とか五十回ジャンプを終える。


「よし、次は腕立て伏せ!」


「腕立て伏せ……」


「五十回ね!」


「ご、五十!?」


「あ、きつい?じゃあ二十回で」


「ありがとうございます……」


 エリンが腕立て伏せを始める。


 だが――


「ぷるぷるぷる……」


 五回目で腕が震え始めた。


「あれ?エリンって、もしかして体力ない?」


「す、すみません……」


「いや、謝らなくていいよ!」


 アキラが慌てる。


「じゃあ、腕立て伏せは十回でいいや!」


「はい……」


 エリンが何とか十回終える。


「よーし、準備運動終わり!」


「これで準備運動……」


 リーナが呆れる。


「じゃあ、次は本番だね!」


「本番……」


 エリンが不安そうに呟く。


「まずは、武器を落とさない訓練から!」


「はい!」


「じゃあ、この木剣を持って――」


 アキラが木剣を渡す。


「しっかり握るんだよ?」


「はい」


「じゃあ、俺が軽く叩くから、落とさないようにね」


「わかりました」


 エリンが木剣を握りしめる。


「じゃあ、いくよー」


 アキラが自分の木剣を構える。


 そして――


 コンッ


 軽く叩いた。


「あ、大丈夫でした!」


 エリンが嬉しそうに言う。


「おお、いいね!じゃあ、もうちょっと強く――」


 コンッ


「これも大丈夫です!」


「よし、じゃあもう少し――」


 コンッ!


「まだ大丈夫!」


「すごいじゃん!じゃあ、ちょっとだけ本気出すね」


「え?」


 ゴオオオッ!


 アキラの木剣が空気を切り裂く音を立てた。


「ちょ、ちょっと待って!」


 リーナが叫ぶ。


 だが――


 ガキィィィン!


 凄まじい衝撃音と共に、エリンの木剣が粉々に砕け散った。


「」


 エリンが固まる。


「」


 リーナも固まる。


「あれ?木剣壊れちゃった」


「いやいやいや!」


 リーナがツッコむ。


「ちょっと本気って何!?木剣砕けてるじゃない!」


「え、だって、ちょっとだよ?」


「ちょっとじゃない!」


「でも、俺の感覚だと一割くらいなんだけど……」


「一割でこれ!?」


 リーナが木剣の破片を拾う。


「エリン、大丈夫?」


「は、はい……手が痺れてますけど……」


「そりゃそうだよ!」


「ご、ごめん!」


 アキラが慌てて謝る。


「じゃあ、別の訓練にしよう!」


「別の訓練……」


 エリンが不安そうに呟く。


「次は、避ける訓練!」


「避ける訓練?」


「うん!昨日、ゴブリンリーダーの攻撃避けられなかったでしょ?」


「はい……」


「だから、避ける練習をするの!」


「わかりました!」


「じゃあ、俺が投げるボールを避けてね」


「ボール?」


「うん、これ」


 アキラが訓練場の隅から、拳大のゴムボールを取ってきた。


「これなら当たっても痛くないから大丈夫!」


「そうですね……」


「じゃあ、いくよー」


 アキラがボールを投げる。


 ポーン


「あ、避けられました!」


「よし!じゃあ、もうちょっと速く――」


 ピュッ


「これも大丈夫です!」


「いいね!じゃあ、もう少し――」


 ヒュンッ!


 ボールが風を切る音を立てた。


「速っ!?」


 エリンが慌てて避ける。


 ボールは壁に当たり――


 ドガァン!


 壁に穴が開いた。


「」


「」


「あれ?穴開いちゃった」


「当たり前でしょ!?」


 リーナが叫ぶ。


「どんな速度で投げてるの!?」


「え、普通に投げただけだよ?」


「普通じゃない!壁に穴開いてる!」


「あ、本当だ」


 アキラが壁を見る。


「ヤバい、怒られるかな……」


「怒られるに決まってるでしょ!」


「どうしよう……」


「とりあえず、特訓中止!」


「え?まだ始まったばかりなのに?」


「エリンが死ぬ!」


「大袈裟だなあ」


「大袈裟じゃない!」


 リーナが頭を抱える。


「アキラの『優しく』は優しくないの!」


「え、そうなの?」


「そうなの!」


 その時、ガルドが訓練場に入ってきた。


「おう、調子はどうだ――って、何だこの穴は!?」


「あ、ガルド……」


「アキラ、お前やったのか!?」


「うん……ボール投げたら穴開いちゃった」


「どんな投げ方したんだ!」


「普通に投げただけだよ?」


「普通じゃねえ!」


 ガルドが額に手を当てる。


「お前、本当に加減って概念ないのな……」


「そんなことないよ!ちゃんと手加減してたもん!」


「これが手加減……」


 ガルドがため息をつく。


「いいか、アキラ。お前の『普通』は、俺たちの『全力以上』なんだ」


「え?」


「だから、お前が特訓を教えるのは無理だ」


「そんな……」


 アキラがしょんぼりする。


「でも、エリンを強くしてあげたいんだ……」


「気持ちはわかる。だが、お前のやり方じゃエリンが壊れる」


「うう……」


「エリンの特訓は、俺とリーナに任せろ」


「……わかった」


 アキラが諦めた表情を浮かべる。


「ごめんね、エリン。俺、役に立たなくて……」


「いえ!」


 エリンが首を振る。


「アキラさんの気持ち、すごく嬉しかったです!」


「エリン……」


「ありがとうございました!」


 エリンが笑顔で頭を下げる。


「……うん」


 アキラが少し元気を取り戻す。


「じゃあ、俺は何すればいい?」


「お前は――」


 ガルドが考える。


「そうだな、見本を見せる係だ」


「見本?」


「ああ。お前の動きを見て、エリンが目標にできるようにな」


「でも、俺の動き、規格外なんでしょ?」


「だからこそだ。高い目標があれば、頑張れるだろ」


「なるほど!」


 アキラが納得する。


「じゃあ、頑張って見本見せるね!」


「おう」


 こうして、アキラの特訓は失敗に終わった。


 だが、代わりにガルドとリーナの特訓が始まることになった。


-----


「じゃあ、エリン。まずは基礎体力をつけるぞ」


「はい!」


「ランニング三十分、腕立て伏せ二十回、腹筋三十回、スクワット三十回」


「はい……」


 エリンが少し不安そうに頷く。


「アキラ、お前も一緒にやれ」


「え、俺も?」


「ああ。お前も基礎が足りてないからな」


「わかった!」


 アキラとエリンが並んでランニングを始める。


「……あれ?」


 リーナが気づく。


「アキラ、ちゃんとエリンのペースに合わせてる」


「ああ、さすがに気を使ったか」


 ガルドが頷く。


 だが――


「ねえねえ、エリン!」


「はい?」


「この調子で、どこまで走れると思う?」


「え、えっと……三十分は頑張れると思います……」


「じゃあ、一時間は?」


「む、無理です……」


「そっか!じゃあ、一緒に頑張ろうね!」


「はい!」


 二人が楽しそうに走っている。


「……なんか、普通に仲良くなってるな」


「そうね……」


 リーナが微笑む。


「アキラって、こういうところは素直でいいよね」


「ああ。変なところで天然だが、根はいい奴だからな」


「うん」


 三十分後。


「はあ……はあ……」


 エリンが息を切らしている。


「お疲れ様!」


 アキラが全く疲れていない様子で笑顔を向ける。


「アキラさん……全然疲れてないんですね……」


「え?うん、まあ……」


「すごい……」


 エリンが尊敬の眼差しを向ける。


「私も、いつかアキラさんみたいになりたいです……」


「お、おう!頑張れ!」


「はい!」


 その後、腕立て伏せ、腹筋、スクワットを終え――


「よし、次は剣の訓練だ」


 ガルドが木剣を二本取り出す。


「エリン、まずは正しいフォームを覚えろ」


「はい!」


「アキラ、お前も一緒にやれ」


「俺も?」


「ああ。お前もフォームが滅茶苦茶だからな」


「え、そうなの?」


「そうだ」


「知らなかった……」


 アキラとエリンが並んで素振りを始める。


「エリン、肩の力を抜け」


「はい」


「アキラ、お前は逆だ。もっと力を入れろ」


「え?」


「お前は力を抑えすぎてフォームが崩れてる」


「そうなんだ……」


「ちゃんと意識しろ」


「うん」


 二人が真剣に素振りを続ける。


 だが――


「ねえねえ、エリン」


「はい?」


「この素振りって、何回くらいやればいいの?」


「え、えっと……ガルドさんが決めてくれると思います……」


「そっか。じゃあ、頑張ろうね」


「はい!」


 リーナが呟く。


「アキラ、楽しそうだね」


「ああ。エリンと一緒だからな」


「そうね」


 その時、アキラが何かに気づいた。


「あ、そうだ!」


「ん?」


「エリン、お腹空いてない?」


「え?」


「もうお昼の時間だよ」


「あ、本当だ……」


 エリンがお腹を押さえる。


「じゃあ、休憩にするか」


 ガルドが頷く。


「昼食を食べてから、午後の訓練だ」


「はい!」


 エリンが嬉しそうに頷く。


「何食べようか?」


「ギルドの食堂でいいんじゃないか?」


「賛成!」


 アキラが拳を突き上げる。


-----


 ギルドの食堂。


「いただきます!」


 四人が食事を始める。


「エリン、今日の訓練どうだった?」


 リーナが聞く。


「はい、すごく勉強になりました!」


「そっか、良かった」


「それに……」


 エリンがアキラを見る。


「アキラさんと一緒に訓練できて、楽しかったです」


「本当?」


「はい!」


 エリンが笑顔で頷く。


「アキラさん、すごく優しくて……」


「そうかな?」


「はい!だから、これからもよろしくお願いします!」


「うん、こちらこそ!」


 アキラが笑顔で返す。


 リーナが呟く。


「アキラって、やっぱりいい人だよね」


「ああ」


 ガルドが頷く。


「規格外だが、根は優しい」


「うん」


 その時、アキラが突然立ち上がった。


「そうだ!」


「どうした?」


「エリンにプレゼントしたいものがある!」


「プレゼント?」


「うん!ちょっと待ってて!」


 アキラが食堂を飛び出していく。


「……何だろう」


「さあ……」


 数分後、アキラが戻ってきた。


「はい、エリン!これあげる!」


「え?」


 アキラが差し出したのは――


 小さな木彫りの人形だった。


「これ……」


「昨日の帰り道で買ったんだ。エリンの髪型に似てるでしょ?」


「本当だ……」


 人形は金色の髪を二つ結びにしていた。


「お守りにしてね」


「ありがとうございます……」


 エリンが涙目になる。


「アキラさん……優しいんですね……」


「え、そうかな?」


「はい……」


 エリンが人形を大切そうに抱きしめる。


「大切にします……」


「うん!」


 アキラが笑顔で頷く。


 リーナが呟く。


「……アキラって、本当にいい人」


「ああ」


 ガルドも頷く。


「天然で、規格外で、依頼書読まないけどな」


「最後!」


 リーナがツッコんだ。


 エリンがクスクスと笑う。


「皆さん、本当に仲良しなんですね」


「まあ、そうかもな」


 ガルドが笑う。


「これからもよろしくな、エリン」


「はい!」


 エリンが笑顔で頷いた。


 こうして、アキラ流特訓地獄は――


 意外と温かい結末を迎えたのだった。


-----


## 次回予告


「緊急依頼だ!街の近くに、オークの群れが出た!」

平和な訓練の日々が一転、危機的状況に!

アキラたちに、初めての大規模戦闘が待ち受ける――

次回、第14話「オークの群れと初陣」


レベル:952(変動なし)

ギルドランク:Eランク

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