第12話「初心者の無謀な挑戦」
前回のあらすじ
エリンの初めての実戦訓練として、農場のスライム駆除依頼に挑んだアキラたち。緊張しながらも三匹のスライムを見事に倒し、エリンは初めての討伐を成功させた。だが、成功体験が彼女に思わぬ自信を――
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「次は、もっと強い敵と戦いたいです!」
ギルドの依頼掲示板の前で、エリンが目を輝かせて言った。
「いやいやいや、ちょっと待て」
リーナが慌てて制止する。
「エリン、昨日初めて戦ったばかりでしょ?」
「はい!でも、スライムは倒せました!」
「それはそうだけど……」
「だから、次はもっと強い敵に挑戦したいんです!」
エリンが拳を握りしめる。
「おお、やる気満々だな!」
「アキラ!?」
リーナが驚いて振り向く。
「いや、エリンのやる気は素晴らしいと思うよ?」
「そういう問題じゃない!」
「え?」
「初心者がいきなり強い敵に挑むのは危険なの!」
「でも、俺たちがサポートすれば――」
「アキラのサポートは規格外すぎて参考にならないの!」
リーナが頭を抱える。
「ガルドさん、何か言ってください!」
「まあ、気持ちはわかるがな」
ガルドが腕を組んで言った。
「エリン、焦る気持ちはわかる。だが、冒険者は一歩ずつ成長していくものだ」
「でも……」
「昨日のスライム戦を思い出せ。お前、最初は攻撃を避けられなかっただろ?」
「……はい」
「それが実力だ。今のお前には、まだ基礎が足りない」
「そんな……」
エリンがしょんぼりする。
「だから、まずは訓練をしっかりやって――」
「あ、これなんかどう?」
アキラが掲示板から一枚の依頼書を取った。
「アキラ!?」
「『森の見回り』って書いてある!これならエリンでも大丈夫じゃない?」
「……アキラ」
「ん?」
「それ、前にも受けた依頼だよね?」
「そうだっけ?」
「オーガキング出たよね?」
「あ……」
アキラが固まった。
「森の見回りは、何が出るかわからない依頼なの」
「そ、そうだった……」
「依頼書、ちゃんと読んで」
「……はい」
アキラがしょんぼりする。
「じゃあ、これは?」
エリンが別の依頼書を指差した。
「『迷子の猫探し』……」
リーナが読み上げる。
「これなら戦闘ないですよね!?」
「まあ、そうだけど……」
「でも、私、強くなりたいんです!」
エリンが真剣な表情で言った。
「村を……村を守れるくらい強く……」
「エリン……」
アキラが優しい表情を浮かべる。
「わかった。じゃあ、これにしよう」
アキラが別の依頼書を取る。
「『ゴブリン討伐』……Fランク依頼だな」
「ゴブリンって、あの緑の?」
「ああ。スライムより少し強いが、初心者でも十分戦える相手だ」
「やります!」
エリンが目を輝かせる。
「でも、アキラ。お前はEランクだぞ?」
「え?」
「Fランクの依頼は、報酬が少ないぞ」
「あ……」
アキラが気づく。
「でも、エリンのためなら!」
「アキラさん……」
エリンが感動した表情を浮かべる。
「……まあ、いいか」
リーナがため息をつく。
「ゴブリンなら、ギリギリ大丈夫でしょ」
「よし、決まりだな」
ガルドが頷いた。
「じゃあ、早速出発しよう!」
「おう!」
アキラが拳を突き上げる。
こうして、アキラたちはゴブリン討伐の依頼を受けることになった。
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森の入口。
「ゴブリンは、この辺りに出るらしいな」
ガルドが依頼書を確認する。
「どんな敵なんですか?」
エリンが不安そうに聞く。
「スライムより動きが速い。そして、武器を使う」
「武器……」
「棍棒や短剣を持ってることが多い。油断するな」
「は、はい……」
エリンが緊張した表情で頷く。
「大丈夫だよ、エリン!」
アキラが笑顔で言った。
「俺たちがついてるから!」
「はい……」
「でも、アキラ」
リーナが釘を刺す。
「今回もエリンの訓練だからね。アキラは手出し禁止」
「え、マジで?」
「マジで」
「でも、危なかったら――」
「危なかったら、私かガルドが助ける」
「……わかった」
アキラがしょんぼりする。
「じゃあ、行こう」
ガルドを先頭に、一行は森の中へと進んだ。
しばらく歩くと――
「いた!」
エリンが指差す。
木の陰から、緑色の小柄な人型の生物が現れた。
ゴブリンだ。
「よし、エリン。お前がやれ」
「は、はい!」
エリンが短剣を構える。
ゴブリンがこちらに気づき、棍棒を振り上げた。
「ギャアアア!」
甲高い声を上げながら突進してくる。
「きゃっ!」
エリンが怯む。
「落ち着け!昨日の訓練を思い出せ!」
ガルドが叫ぶ。
「は、はい……」
エリンが深呼吸する。
そして――
ゴブリンの攻撃を横に避け、短剣を振るった。
「えいっ!」
ザシュッ!
ゴブリンの腕に短剣が当たる。
「ギャッ!?」
ゴブリンが怯む。
「もう一回!」
エリンが追撃する。
ザシュッ、ザシュッ!
何度も攻撃し――
ついに、ゴブリンが倒れた。
「やった……!」
エリンが息を切らしながら喜ぶ。
「よくやった、エリン」
「ありがとうございます……」
「でも、まだだ」
ガルドが前方を指差す。
「え?」
木の陰から、さらに二匹のゴブリンが現れた。
「うそ……」
「ゴブリンは群れで行動する。一匹倒しても、他がいる可能性が高いんだ」
「そんな……」
「大丈夫、落ち着いてやれ」
「はい……」
エリンが再び短剣を構える。
二匹のゴブリンが同時に襲いかかってきた。
「ギャアアア!」
「きゃあ!」
エリンが慌てて後ろに下がる。
「エリン!一匹ずつ相手にしろ!」
「で、でも……」
「俺が一匹引きつける!」
ガルドが前に出て、一匹のゴブリンを引きつけた。
「今だ、エリン!」
「は、はい!」
エリンが残りの一匹に向かう。
短剣を振るうが――
「きゃっ!」
ゴブリンの棍棒が当たり、エリンが吹き飛ばされた。
「エリン!」
「だ、大丈夫です……」
エリンが立ち上がる。
だが、その顔は痛みで歪んでいた。
「くっ……」
「エリン、無理するな!」
「大丈夫……です……」
エリンが再び短剣を構える。
ゴブリンが再び襲いかかってきた。
「ギャアア!」
「えいっ!」
エリンが短剣を振る。
だが――
ガキンッ!
ゴブリンの棍棒に弾かれてしまう。
「そんな……」
「エリン!」
アキラが叫ぶ。
「もう無理だよ!俺が――」
「待て、アキラ」
ガルドが制止する。
「でも!」
「これも経験だ。エリン、もう一回!」
「は、はい……」
エリンが歯を食いしばる。
そして――
今度は、ゴブリンの攻撃を避けてから反撃した。
「とりゃあ!」
ザシュッ!
ゴブリンの脇腹に短剣が刺さる。
「ギャッ!」
ゴブリンが怯む。
「もう一回!」
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ!
何度も攻撃し――
ついに、ゴブリンが倒れた。
「はあ……はあ……」
エリンが膝をつく。
「よくやった」
ガルドがもう一匹のゴブリンを倒しながら言った。
「ありがとう……ございます……」
「大丈夫、エリン?」
リーナが駆け寄る。
「はい……少し痛いですけど……」
「ちょっと見せて」
リーナがエリンの腕を確認する。
「打撲だね。軽い治癒魔法をかけるから」
「お願いします……」
リーナが手を当て、淡い光が溢れる。
「これで少しは楽になるはず」
「ありがとうございます……」
エリンが安堵の表情を浮かべる。
「エリン、すごかったよ!」
アキラが笑顔で言った。
「二匹も倒したんだから!」
「でも……私、弱くて……」
「そんなことない!」
「アキラさん……」
「初心者なんだから、これで十分だよ!」
「……ありがとうございます」
エリンが少し元気を取り戻す。
「さて、依頼は『ゴブリン五匹討伐』だ」
ガルドが依頼書を確認する。
「残り二匹だな」
「まだいるんですか……」
エリンが不安そうに呟く。
「大丈夫。俺たちがサポートするから」
「はい……」
一行は再び森の奥へと進んだ。
そして――
「あ、いた!」
アキラが指差す。
木の陰に、残り二匹のゴブリンがいた。
「よし、エリン。最後だ」
「はい……」
エリンが短剣を構える。
だが――
「あれ?」
アキラが首を傾げる。
「どうした?」
「なんか、あのゴブリン……大きくない?」
「え?」
全員が注目する。
確かに、一匹のゴブリンは普通より一回り大きかった。
「あれは……ゴブリンリーダーか」
ガルドが眉をひそめる。
「ゴブリンリーダー?」
「普通のゴブリンより強い個体だ。まずいな……」
「まずいって……」
「エリンには、ちょっと荷が重いかもしれん」
「そんな……」
エリンが不安そうな表情を浮かべる。
「大丈夫!俺が――」
「待て、アキラ」
ガルドが制止する。
「でも!」
「エリン、どうする?」
「え?」
「お前の訓練だ。無理だと思うなら、俺たちが戦う。だが、挑戦したいなら――」
「……やります」
エリンが決意を込めて言った。
「皆さんがついてるなら……私、頑張ります」
「エリン……」
「よし、わかった」
ガルドが頷く。
「だが、無理はするな。危なくなったらすぐに下がれ」
「はい!」
エリンが短剣を構える。
ゴブリンリーダーがこちらに気づき、大きな棍棒を振り上げた。
「ギャアアアア!」
普通のゴブリンより低く、重い声。
「ひっ……」
エリンが怯む。
「大丈夫、エリン!落ち着いて!」
アキラが叫ぶ。
「は、はい……」
エリンが深呼吸する。
そして――
ゴブリンリーダーが襲いかかってきた。
「とりゃあ!」
エリンが短剣を振るう。
だが――
ガキィン!
ゴブリンリーダーの棍棒に弾かれ、短剣が手から飛んでいった。
「きゃあ!」
「エリン!」
アキラが駆け出そうとする。
「待て、アキラ!」
ガルドが腕を掴む。
「でも!」
「まだだ!エリン、武器なしでも戦える!」
「で、でも……」
エリンが困惑する。
ゴブリンリーダーが再び襲いかかってきた。
「きゃあああ!」
エリンが慌てて避ける。
だが――
足を滑らせて転んでしまった。
「エリン!」
アキラが叫ぶ。
ゴブリンリーダーが棍棒を振り上げる。
(もう、ダメ……)
エリンが目を閉じた。
その時――
「させるか!」
ガルドが飛び出し、棍棒を剣で受け止めた。
ガキィン!
「ガルドさん……」
「無事か、エリン?」
「は、はい……」
「よし、後は任せろ」
ガルドがゴブリンリーダーを押し返す。
「リーナ、もう一匹を頼む」
「わかった!」
リーナが魔法を放つ。
「ファイアボール!」
炎の球が普通のゴブリンに命中し、一瞬で倒れた。
「よし、これで――」
ガルドがゴブリンリーダーに斬りかかる。
ズバッ!
一撃で倒した。
「……終わったな」
「はい……」
エリンがうなだれる。
「私……役に立てませんでした……」
「そんなことない」
アキラが駆け寄る。
「エリン、頑張ってたよ!」
「でも……武器を落として……」
「それは仕方ないよ。相手が強かっただけ」
「アキラさん……」
「それに、無事でよかった」
アキラが笑顔で言った。
「ありがとうございます……」
エリンが涙目になる。
「エリン」
ガルドが声をかける。
「お前は十分頑張った。だが、今のお前の実力もわかっただろ」
「はい……」
「焦るな。一歩ずつ、確実に成長していけばいい」
「……はい」
エリンが頷く。
「それに、武器を落とすのは誰にでもあることだ」
「そうなんですか?」
「ああ。俺も昔、何度もやった」
「ガルドさんが……?」
「そうだ。だから、落ち込むな」
「……はい」
エリンが少し元気を取り戻す。
「さて、依頼完了だな」
「うん」
リーナが頷く。
「帰ろうか」
「はい……」
エリンがしょんぼりしながら歩き出す。
その後ろ姿を見て、アキラが呟いた。
「なあ、ガルド」
「ん?」
「エリンって、どれくらい訓練すれば強くなれると思う?」
「そうだな……半年くらいか」
「半年!?」
「ああ。基礎をしっかり固めるには、それくらい必要だ」
「そっか……」
アキラが真剣な表情になる。
「なあ、ガルド」
「ん?」
「俺、エリンの特訓手伝っていい?」
「お前が?」
「うん。俺、強くなりたいって頑張ってる人、応援したいんだ」
「……そうか」
ガルドが笑う。
「いいぞ。だが、お前の特訓は規格外だからな」
「大丈夫!ちゃんと手加減するから!」
「本当か?」
「うん!」
アキラが拳を握る。
(……大丈夫かな)
リーナが不安そうに呟いた。
だが、アキラの目は真剣で――
きっと、本気なのだろう。
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ギルドに戻り、依頼完了の報告をする。
「お疲れ様でした」
受付のマリアが笑顔で言った。
「エリンちゃん、怪我は大丈夫?」
「はい……少し打撲しましたけど、リーナさんが治してくれました」
「それは良かった」
「すみません……私、足手まといで……」
「そんなことないよ」
マリアが優しく言った。
「初心者なんだから、失敗して当然。大事なのは、そこから学ぶことだよ」
「マリアさん……」
「それに、無事に帰ってこれたんだから、それで十分」
「……はい」
エリンが少し元気になる。
「じゃあ、報酬は後ほど――」
「あ、マリアさん」
アキラが声をかけた。
「何でしょう?」
「俺、エリンの特訓を手伝いたいんですけど、訓練場って借りられますか?」
「訓練場?ええ、空いてれば使えますよ」
「やった!」
アキラが喜ぶ。
「じゃあ、明日から特訓だな!」
「え?明日から?」
エリンが驚く。
「うん!やる気あるうちにやった方がいいでしょ?」
「そ、そうですけど……」
「大丈夫!俺が優しく教えるから!」
「アキラが優しく……?」
リーナが不安そうに呟く。
「大丈夫だよ、リーナ」
「本当に?」
「うん!ちゃんと手加減するって!」
「……そう」
リーナがため息をつく。
(絶対、何か起きる気がする……)
だが、アキラは既に特訓のことで頭がいっぱいのようだった。
「よーし、明日から頑張るぞ!」
「お、おう……」
エリンが不安そうに頷く。
こうして、エリンの無謀な挑戦は一旦幕を閉じた。
だが――
明日からの特訓は、もっと無謀なことになるかもしれなくて――
それは、また別の話。
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## 次回予告
「優しく教えるって言ったじゃないですか!」
「え、これで優しいつもりなんだけど……」
アキラ流特訓が、予想外の方向に!?
笑いと涙の特訓編、開幕!
次回、第13話「アキラ流特訓地獄」
レベル:952(変動なし)
ギルドランク:Eランク




