表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/45

第12話「初心者の無謀な挑戦」

前回のあらすじ


エリンの初めての実戦訓練として、農場のスライム駆除依頼に挑んだアキラたち。緊張しながらも三匹のスライムを見事に倒し、エリンは初めての討伐を成功させた。だが、成功体験が彼女に思わぬ自信を――


-----


「次は、もっと強い敵と戦いたいです!」


 ギルドの依頼掲示板の前で、エリンが目を輝かせて言った。


「いやいやいや、ちょっと待て」


 リーナが慌てて制止する。


「エリン、昨日初めて戦ったばかりでしょ?」


「はい!でも、スライムは倒せました!」


「それはそうだけど……」


「だから、次はもっと強い敵に挑戦したいんです!」


 エリンが拳を握りしめる。


「おお、やる気満々だな!」


「アキラ!?」


 リーナが驚いて振り向く。


「いや、エリンのやる気は素晴らしいと思うよ?」


「そういう問題じゃない!」


「え?」


「初心者がいきなり強い敵に挑むのは危険なの!」


「でも、俺たちがサポートすれば――」


「アキラのサポートは規格外すぎて参考にならないの!」


 リーナが頭を抱える。


「ガルドさん、何か言ってください!」


「まあ、気持ちはわかるがな」


 ガルドが腕を組んで言った。


「エリン、焦る気持ちはわかる。だが、冒険者は一歩ずつ成長していくものだ」


「でも……」


「昨日のスライム戦を思い出せ。お前、最初は攻撃を避けられなかっただろ?」


「……はい」


「それが実力だ。今のお前には、まだ基礎が足りない」


「そんな……」


 エリンがしょんぼりする。


「だから、まずは訓練をしっかりやって――」


「あ、これなんかどう?」


 アキラが掲示板から一枚の依頼書を取った。


「アキラ!?」


「『森の見回り』って書いてある!これならエリンでも大丈夫じゃない?」


「……アキラ」


「ん?」


「それ、前にも受けた依頼だよね?」


「そうだっけ?」


「オーガキング出たよね?」


「あ……」


 アキラが固まった。


「森の見回りは、何が出るかわからない依頼なの」


「そ、そうだった……」


「依頼書、ちゃんと読んで」


「……はい」


 アキラがしょんぼりする。


「じゃあ、これは?」


 エリンが別の依頼書を指差した。


「『迷子の猫探し』……」


 リーナが読み上げる。


「これなら戦闘ないですよね!?」


「まあ、そうだけど……」


「でも、私、強くなりたいんです!」


 エリンが真剣な表情で言った。


「村を……村を守れるくらい強く……」


「エリン……」


 アキラが優しい表情を浮かべる。


「わかった。じゃあ、これにしよう」


 アキラが別の依頼書を取る。


「『ゴブリン討伐』……Fランク依頼だな」


「ゴブリンって、あの緑の?」


「ああ。スライムより少し強いが、初心者でも十分戦える相手だ」


「やります!」


 エリンが目を輝かせる。


「でも、アキラ。お前はEランクだぞ?」


「え?」


「Fランクの依頼は、報酬が少ないぞ」


「あ……」


 アキラが気づく。


「でも、エリンのためなら!」


「アキラさん……」


 エリンが感動した表情を浮かべる。


「……まあ、いいか」


 リーナがため息をつく。


「ゴブリンなら、ギリギリ大丈夫でしょ」


「よし、決まりだな」


 ガルドが頷いた。


「じゃあ、早速出発しよう!」


「おう!」


 アキラが拳を突き上げる。


 こうして、アキラたちはゴブリン討伐の依頼を受けることになった。


-----


 森の入口。


「ゴブリンは、この辺りに出るらしいな」


 ガルドが依頼書を確認する。


「どんな敵なんですか?」


 エリンが不安そうに聞く。


「スライムより動きが速い。そして、武器を使う」


「武器……」


「棍棒や短剣を持ってることが多い。油断するな」


「は、はい……」


 エリンが緊張した表情で頷く。


「大丈夫だよ、エリン!」


 アキラが笑顔で言った。


「俺たちがついてるから!」


「はい……」


「でも、アキラ」


 リーナが釘を刺す。


「今回もエリンの訓練だからね。アキラは手出し禁止」


「え、マジで?」


「マジで」


「でも、危なかったら――」


「危なかったら、私かガルドが助ける」


「……わかった」


 アキラがしょんぼりする。


「じゃあ、行こう」


 ガルドを先頭に、一行は森の中へと進んだ。


 しばらく歩くと――


「いた!」


 エリンが指差す。


 木の陰から、緑色の小柄な人型の生物が現れた。


 ゴブリンだ。


「よし、エリン。お前がやれ」


「は、はい!」


 エリンが短剣を構える。


 ゴブリンがこちらに気づき、棍棒を振り上げた。


「ギャアアア!」


 甲高い声を上げながら突進してくる。


「きゃっ!」


 エリンが怯む。


「落ち着け!昨日の訓練を思い出せ!」


 ガルドが叫ぶ。


「は、はい……」


 エリンが深呼吸する。


 そして――


 ゴブリンの攻撃を横に避け、短剣を振るった。


「えいっ!」


 ザシュッ!


 ゴブリンの腕に短剣が当たる。


「ギャッ!?」


 ゴブリンが怯む。


「もう一回!」


 エリンが追撃する。


 ザシュッ、ザシュッ!


 何度も攻撃し――


 ついに、ゴブリンが倒れた。


「やった……!」


 エリンが息を切らしながら喜ぶ。


「よくやった、エリン」


「ありがとうございます……」


「でも、まだだ」


 ガルドが前方を指差す。


「え?」


 木の陰から、さらに二匹のゴブリンが現れた。


「うそ……」


「ゴブリンは群れで行動する。一匹倒しても、他がいる可能性が高いんだ」


「そんな……」


「大丈夫、落ち着いてやれ」


「はい……」


 エリンが再び短剣を構える。


 二匹のゴブリンが同時に襲いかかってきた。


「ギャアアア!」


「きゃあ!」


 エリンが慌てて後ろに下がる。


「エリン!一匹ずつ相手にしろ!」


「で、でも……」


「俺が一匹引きつける!」


 ガルドが前に出て、一匹のゴブリンを引きつけた。


「今だ、エリン!」


「は、はい!」


 エリンが残りの一匹に向かう。


 短剣を振るうが――


「きゃっ!」


 ゴブリンの棍棒が当たり、エリンが吹き飛ばされた。


「エリン!」


「だ、大丈夫です……」


 エリンが立ち上がる。


 だが、その顔は痛みで歪んでいた。


「くっ……」


「エリン、無理するな!」


「大丈夫……です……」


 エリンが再び短剣を構える。


 ゴブリンが再び襲いかかってきた。


「ギャアア!」


「えいっ!」


 エリンが短剣を振る。


 だが――


 ガキンッ!


 ゴブリンの棍棒に弾かれてしまう。


「そんな……」


「エリン!」


 アキラが叫ぶ。


「もう無理だよ!俺が――」


「待て、アキラ」


 ガルドが制止する。


「でも!」


「これも経験だ。エリン、もう一回!」


「は、はい……」


 エリンが歯を食いしばる。


 そして――


 今度は、ゴブリンの攻撃を避けてから反撃した。


「とりゃあ!」


 ザシュッ!


 ゴブリンの脇腹に短剣が刺さる。


「ギャッ!」


 ゴブリンが怯む。


「もう一回!」


 ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ!


 何度も攻撃し――


 ついに、ゴブリンが倒れた。


「はあ……はあ……」


 エリンが膝をつく。


「よくやった」


 ガルドがもう一匹のゴブリンを倒しながら言った。


「ありがとう……ございます……」


「大丈夫、エリン?」


 リーナが駆け寄る。


「はい……少し痛いですけど……」


「ちょっと見せて」


 リーナがエリンの腕を確認する。


「打撲だね。軽い治癒魔法をかけるから」


「お願いします……」


 リーナが手を当て、淡い光が溢れる。


「これで少しは楽になるはず」


「ありがとうございます……」


 エリンが安堵の表情を浮かべる。


「エリン、すごかったよ!」


 アキラが笑顔で言った。


「二匹も倒したんだから!」


「でも……私、弱くて……」


「そんなことない!」


「アキラさん……」


「初心者なんだから、これで十分だよ!」


「……ありがとうございます」


 エリンが少し元気を取り戻す。


「さて、依頼は『ゴブリン五匹討伐』だ」


 ガルドが依頼書を確認する。


「残り二匹だな」


「まだいるんですか……」


 エリンが不安そうに呟く。


「大丈夫。俺たちがサポートするから」


「はい……」


 一行は再び森の奥へと進んだ。


 そして――


「あ、いた!」


 アキラが指差す。


 木の陰に、残り二匹のゴブリンがいた。


「よし、エリン。最後だ」


「はい……」


 エリンが短剣を構える。


 だが――


「あれ?」


 アキラが首を傾げる。


「どうした?」


「なんか、あのゴブリン……大きくない?」


「え?」


 全員が注目する。


 確かに、一匹のゴブリンは普通より一回り大きかった。


「あれは……ゴブリンリーダーか」


 ガルドが眉をひそめる。


「ゴブリンリーダー?」


「普通のゴブリンより強い個体だ。まずいな……」


「まずいって……」


「エリンには、ちょっと荷が重いかもしれん」


「そんな……」


 エリンが不安そうな表情を浮かべる。


「大丈夫!俺が――」


「待て、アキラ」


 ガルドが制止する。


「でも!」


「エリン、どうする?」


「え?」


「お前の訓練だ。無理だと思うなら、俺たちが戦う。だが、挑戦したいなら――」


「……やります」


 エリンが決意を込めて言った。


「皆さんがついてるなら……私、頑張ります」


「エリン……」


「よし、わかった」


 ガルドが頷く。


「だが、無理はするな。危なくなったらすぐに下がれ」


「はい!」


 エリンが短剣を構える。


 ゴブリンリーダーがこちらに気づき、大きな棍棒を振り上げた。


「ギャアアアア!」


 普通のゴブリンより低く、重い声。


「ひっ……」


 エリンが怯む。


「大丈夫、エリン!落ち着いて!」


 アキラが叫ぶ。


「は、はい……」


 エリンが深呼吸する。


 そして――


 ゴブリンリーダーが襲いかかってきた。


「とりゃあ!」


 エリンが短剣を振るう。


 だが――


 ガキィン!


 ゴブリンリーダーの棍棒に弾かれ、短剣が手から飛んでいった。


「きゃあ!」


「エリン!」


 アキラが駆け出そうとする。


「待て、アキラ!」


 ガルドが腕を掴む。


「でも!」


「まだだ!エリン、武器なしでも戦える!」


「で、でも……」


 エリンが困惑する。


 ゴブリンリーダーが再び襲いかかってきた。


「きゃあああ!」


 エリンが慌てて避ける。


 だが――


 足を滑らせて転んでしまった。


「エリン!」


 アキラが叫ぶ。


 ゴブリンリーダーが棍棒を振り上げる。


(もう、ダメ……)


 エリンが目を閉じた。


 その時――


「させるか!」


 ガルドが飛び出し、棍棒を剣で受け止めた。


 ガキィン!


「ガルドさん……」


「無事か、エリン?」


「は、はい……」


「よし、後は任せろ」


 ガルドがゴブリンリーダーを押し返す。


「リーナ、もう一匹を頼む」


「わかった!」


 リーナが魔法を放つ。


「ファイアボール!」


 炎の球が普通のゴブリンに命中し、一瞬で倒れた。


「よし、これで――」


 ガルドがゴブリンリーダーに斬りかかる。


 ズバッ!


 一撃で倒した。


「……終わったな」


「はい……」


 エリンがうなだれる。


「私……役に立てませんでした……」


「そんなことない」


 アキラが駆け寄る。


「エリン、頑張ってたよ!」


「でも……武器を落として……」


「それは仕方ないよ。相手が強かっただけ」


「アキラさん……」


「それに、無事でよかった」


 アキラが笑顔で言った。


「ありがとうございます……」


 エリンが涙目になる。


「エリン」


 ガルドが声をかける。


「お前は十分頑張った。だが、今のお前の実力もわかっただろ」


「はい……」


「焦るな。一歩ずつ、確実に成長していけばいい」


「……はい」


 エリンが頷く。


「それに、武器を落とすのは誰にでもあることだ」


「そうなんですか?」


「ああ。俺も昔、何度もやった」


「ガルドさんが……?」


「そうだ。だから、落ち込むな」


「……はい」


 エリンが少し元気を取り戻す。


「さて、依頼完了だな」


「うん」


 リーナが頷く。


「帰ろうか」


「はい……」


 エリンがしょんぼりしながら歩き出す。


 その後ろ姿を見て、アキラが呟いた。


「なあ、ガルド」


「ん?」


「エリンって、どれくらい訓練すれば強くなれると思う?」


「そうだな……半年くらいか」


「半年!?」


「ああ。基礎をしっかり固めるには、それくらい必要だ」


「そっか……」


 アキラが真剣な表情になる。


「なあ、ガルド」


「ん?」


「俺、エリンの特訓手伝っていい?」


「お前が?」


「うん。俺、強くなりたいって頑張ってる人、応援したいんだ」


「……そうか」


 ガルドが笑う。


「いいぞ。だが、お前の特訓は規格外だからな」


「大丈夫!ちゃんと手加減するから!」


「本当か?」


「うん!」


 アキラが拳を握る。


(……大丈夫かな)


 リーナが不安そうに呟いた。


 だが、アキラの目は真剣で――


 きっと、本気なのだろう。


-----


 ギルドに戻り、依頼完了の報告をする。


「お疲れ様でした」


 受付のマリアが笑顔で言った。


「エリンちゃん、怪我は大丈夫?」


「はい……少し打撲しましたけど、リーナさんが治してくれました」


「それは良かった」


「すみません……私、足手まといで……」


「そんなことないよ」


 マリアが優しく言った。


「初心者なんだから、失敗して当然。大事なのは、そこから学ぶことだよ」


「マリアさん……」


「それに、無事に帰ってこれたんだから、それで十分」


「……はい」


 エリンが少し元気になる。


「じゃあ、報酬は後ほど――」


「あ、マリアさん」


 アキラが声をかけた。


「何でしょう?」


「俺、エリンの特訓を手伝いたいんですけど、訓練場って借りられますか?」


「訓練場?ええ、空いてれば使えますよ」


「やった!」


 アキラが喜ぶ。


「じゃあ、明日から特訓だな!」


「え?明日から?」


 エリンが驚く。


「うん!やる気あるうちにやった方がいいでしょ?」


「そ、そうですけど……」


「大丈夫!俺が優しく教えるから!」


「アキラが優しく……?」


 リーナが不安そうに呟く。


「大丈夫だよ、リーナ」


「本当に?」


「うん!ちゃんと手加減するって!」


「……そう」


 リーナがため息をつく。


(絶対、何か起きる気がする……)


 だが、アキラは既に特訓のことで頭がいっぱいのようだった。


「よーし、明日から頑張るぞ!」


「お、おう……」


 エリンが不安そうに頷く。


 こうして、エリンの無謀な挑戦は一旦幕を閉じた。


 だが――


 明日からの特訓は、もっと無謀なことになるかもしれなくて――


 それは、また別の話。


-----


## 次回予告


「優しく教えるって言ったじゃないですか!」

「え、これで優しいつもりなんだけど……」

アキラ流特訓が、予想外の方向に!?

笑いと涙の特訓編、開幕!

次回、第13話「アキラ流特訓地獄」


レベル:952(変動なし)

ギルドランク:Eランク

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ