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第11話「新人の特訓」

前回のあらすじ


洞窟依頼の帰り道、村を救うため一人で王都を目指していた少女エリンと出会ったアキラたち。ゴブリンキングを撃退し、エリンは正式にパーティーの一員に。だが、戦闘経験ゼロの新人冒険者の前途は――


-----


「それじゃあエリン、まずは基礎からだ」


 ギルドの訓練場で、ガルドが腕を組んで言った。


「は、はい!」


 エリンが緊張した面持ちで頷く。金色の二つ結びが揺れた。


「アキラ、お前も付き合え」


「え、俺も?」


「当たり前だ。お前は戦闘の基礎がまだまだなってない」


「いやいやいや、俺レベル952だよ?」


「レベルと技術は別だ」


 ガルドがため息をつく。リーナが横で記録用のノートを開きながら呟いた。


「というか、アキラは未だに依頼書読まないし、細かいこと全然気にしてないからね」


「それは関係なくない?」


「大いにある」


 即答された。


「じゃあ、まずは素振りから」


 ガルドが木剣を二本取り出して、アキラとエリンに渡す。


「エリン、剣を持ったことは?」


「え、えっと……村で薪を割るときに斧は……」


「なるほど、完全に初心者だな」


 ガルドが頷く。そして視線をアキラに向けた。


「お前は?」


「俺は……この前の特訓で教わったから大丈夫!」


「じゃあ、素振り百回。見本を見せてやれ」


「任せて!」


 アキラが木剣を構える。


 そして――


「うおおおおおお!」


 全力で振り下ろした。


 ゴオオオッ!


 風圧で訓練場の砂埃が舞い上がり、木剣が空気を切り裂く音が轟いた。


「」


 エリンが固まる。


「」


 リーナも固まる。


「」


 ガルドも固まる。


「どう?ちゃんと振れてる?」


「……アキラ」


「なに?」


「お前、それ見本じゃない」


「え?」


「初心者が真似できるわけないだろ!」


 ガルドが頭を抱えた。


「いやでも、俺普通に振っただけだよ?」


「普通じゃない!音が鳴ってる時点で普通じゃない!」


「そうなの?」


「そうだよ!」


 リーナがツッコむ。エリンがおずおずと手を挙げた。


「あの……私、あんな風に振れるようになるんですか……?」


「なれない!というか目指すな!」


 ガルドが即答した。


「アキラは特殊だから参考にならん。いいか、エリン。剣は力じゃない。まずは正しいフォームを覚えるんだ」


「は、はい!」


 エリンが真剣な表情で頷く。


「まず、足を肩幅に開いて――」


「こうですか?」


「そうだ。次に剣を頭の上に――」


「こう……」


「いい感じだ。そのままゆっくり振り下ろす」


 エリンが慎重に木剣を振り下ろす。


 ゆっくりと、丁寧に。


「よし、いいぞ!その調子で百回だ」


「はい!」


 エリンが素振りを始める。


「……俺は?」


「お前は五百回」


「なんで!?」


「基礎が足りてないからだ」


「いやいやいや、俺さっき風圧出てたよ?」


「だからダメなんだ!」


 ガルドが額に手を当てた。


「いいか、アキラ。お前は力はある。だが、それを制御できてない」


「制御?」


「そうだ。全力で振るのは簡単だ。だが、七割の力で振る、五割の力で振る。それができるか?」


「え……」


 アキラが固まる。


「できない、だろ?」


「……うん」


「だから特訓だ。まずは力を抑えて振る練習をする」


「なるほど!」


 アキラが納得した表情で頷く。


「じゃあ早速――」


「うおおおおおお!」


 ゴオオオッ!


 また風圧が巻き起こった。


「抑えろって言っただろ!」


「いや、今ので五割のつもりだったんだけど……」


「全力じゃねえか!」


「マジで!?」


 アキラが驚く。リーナがノートに何か書き込みながら呟いた。


「力の制御、壊滅的」


「ちょ、リーナ!?」


「事実だから」


 冷静に返された。


 その後、一時間。


 エリンは真面目に素振りを続け、アキラは力の制御に四苦八苦していた。


「くっそー、なんで上手くいかないんだ……」


「お前、本当に加減って概念ないのな」


 ガルドが呆れる。


「だって、全力で振るのが普通だと思ってたし……」


「普通じゃない」


「そうなんだ……」


 アキラがしょんぼりする。


「あの、アキラさん」


 エリンが声をかけてきた。


「ん?」


「私、アキラさんみたいに強くなりたいです!」


「お、おう!頑張れ!」


「はい!」


 エリンが笑顔で頷く。


「……エリン」


「はい?」


「いいか、アキラを目指すな」


「え?」


「アキラは規格外だ。お前はお前のペースで強くなればいい」


「……はい」


 エリンが少し残念そうに頷いた。


 そして、さらに一時間後。


「はあ……はあ……」


 エリンが息を切らしている。


「よし、休憩だ」


「ありがとうございます……」


 エリンがその場に座り込む。


「アキラ、お前は?」


「全然疲れてない!」


「だろうな……」


 ガルドがため息をつく。


「レベル952だもんな……」


「でも、力の制御は全然できないんだよね」


「それはこれから練習すればいい」


「うん!」


 アキラが前向きに頷いた。


 リーナが水筒をエリンに渡しながら言った。


「エリン、初めてにしては頑張ったね」


「あ、ありがとうございます……」


「これからも大変だと思うけど、一緒に頑張ろう」


「はい!」


 エリンが笑顔で頷く。


「……なあ、ガルド」


「ん?」


「エリンって、どれくらいで一人前になれると思う?」


「そうだな……普通なら三年ってとこか」


「三年!?」


 アキラが驚く。


「冒険者ってそんなに時間かかるの?」


「当たり前だ。戦闘技術だけじゃない。依頼の進め方、モンスターの知識、危機管理能力……学ぶことは山ほどある」


「へー……」


「お前は異常だからな。普通はそんな簡単にはいかない」


「そっか……」


 アキラが真剣な表情で頷いた。


「じゃあ、俺もちゃんと勉強しなきゃな」


「お前が一番勉強しろ」


「え?」


「依頼書読め」


「……はい」


 アキラがしょんぼりした。


 その時、訓練場の入口から声が聞こえた。


「おや、特訓中かい?」


 振り向くと、ギルドマスターのセリアが立っていた。


「ギルドマスター!」


「エリンちゃん、調子はどうだい?」


「は、はい!頑張ってます!」


 エリンが慌てて立ち上がる。


「無理はしないようにね。初日から飛ばしすぎると怪我するよ」


「は、はい……」


「それと、アキラ」


「はい?」


「君にちょうどいい依頼があるんだが」


「お、マジで!?」


 アキラの目が輝く。


「ただし」


「ただし?」


「エリンも同行させたい」


「え!?」


 エリンが驚く。


「ま、まだ私、全然戦えませんよ!?」


「大丈夫。安全な依頼だから」


 セリアが微笑む。


「それに、実戦経験も必要だからね」


「実戦……」


 エリンが緊張した表情になる。


「内容は?」


 ガルドが聞いた。


「街の外れにある農場で、野生のスライムが出るらしい。駆除してほしいとのことだ」


「スライム……」


 アキラとリーナが顔を見合わせる。


(また、スライムか……)


 二人とも、以前の「誰も倒せないスライム」のことを思い出していた。


「どうする?」


「やります!」


 アキラが即答した。


「アキラ……」


「大丈夫!今度こそ、ちゃんと倒してみせるから!」


「……わかった」


 リーナがため息をつく。


「じゃあ、明日の朝出発ね」


「おう!」


 アキラが拳を突き上げた。


 エリンが不安そうに呟く。


「私……ちゃんと役に立てるでしょうか……」


「大丈夫だよ、エリン」


 アキラが笑顔で言った。


「俺たちがいるから!」


「アキラさん……」


「それに、スライム相手なら安全だしね」


「そうだな」


 ガルドも頷く。


(本当に安全だといいけど……)


 リーナだけが、少し不安そうな表情を浮かべていた。


 翌朝。


 アキラたち四人は、ギルドを出発した。


「それじゃあ、行ってきます!」


「気をつけてね」


 受付のマリアが手を振る。


「エリン、初めての実戦依頼だけど、無理しないでね」


「はい!」


 エリンが元気よく返事をする。


 だが、その表情はどこか緊張していて――


「大丈夫、大丈夫!スライムなんて楽勝だって!」


「アキラ……」


「ん?」


「前回のこと、忘れてない?」


 リーナが冷たい視線を向ける。


「あ……」


 アキラが固まった。


「前回、スライムに物理も魔法も効かなかったよね?」


「う、うん……」


「今回も同じだったら?」


「……頑張る」


「頑張るじゃない」


 リーナがため息をつく。


「まあ、今回は普通のスライムだろう」


 ガルドが肩を竦める。


「あの時のは特殊だったんだ」


「そうだといいけど……」


 リーナが呟いた。


 そして一時間後。


 街の外れにある農場に到着した。


「おお、来てくれたか!」


 農場の主人らしき中年男性が駆け寄ってくる。


「スライム駆除の依頼を受けました、冒険者のアキラです」


「ありがとう!助かるよ!」


「それで、スライムはどこに?」


「畑の奥だ。最近、作物を食い荒らされてて困ってるんだ」


「わかりました。すぐに駆除します」


「頼んだぞ!」


 農場の主人が頭を下げる。


 アキラたちは畑の奥へと向かった。


「スライム、いるかな……」


「いた!」


 エリンが指差す。


 畑の中に、青いゼリー状のスライムが三匹いた。


「よし、じゃあ早速――」


「待て、アキラ」


 ガルドが制止する。


「これはエリンの実戦訓練だ。エリン、お前がやれ」


「え!?私が!?」


「そうだ。俺たちがサポートするから、思い切ってやってみろ」


「で、でも……」


「大丈夫。スライムは弱いモンスターだ。落ち着いてやれば倒せる」


「……わかりました」


 エリンが決意を込めて頷く。


「武器は?」


「これを」


 ガルドが短剣を渡す。


「剣より扱いやすいはずだ」


「ありがとうございます……」


 エリンが短剣を受け取る。


「じゃあ、行くよ……」


 エリンがゆっくりとスライムに近づく。


 スライムがこちらに気づき、ゆっくりと近づいてきた。


「ひっ……」


 エリンが怯む。


「大丈夫だ、エリン!落ち着いて!」


 ガルドが声をかける。


「は、はい……」


 エリンが短剣を構える。


 そして――


「えいっ!」


 思い切り短剣を振り下ろした。


 ズブッ!


 短剣がスライムに突き刺さる。


「やった!」


 エリンが喜ぶ。


 だが――


「え?」


 スライムがまだ動いている。


「なんで!?」


「スライムは急所がないんだ。何度も攻撃して倒すしかない」


「そ、そうなんですか!?」


「ああ。だから落ち着いて、もう一回」


「はい!」


 エリンが再び短剣を振る。


 ズブッ、ズブッ、ズブッ!


 何度も突き刺す。


 そして――


 スライムが動かなくなった。


「倒せた……倒せました!」


 エリンが嬉しそうに叫ぶ。


「やったな、エリン!」


「初めての討伐成功だ」


 アキラとガルドが拍手する。


「ありがとうございます!」


 エリンが笑顔で頷く。


 その時――


「リーナ、俺も手伝っていい?」


「ダメ」


「なんで!?」


「アキラが手伝ったら一瞬で終わるでしょ」


「それはそうだけど……」


「これはエリンの訓練なの。見守ってあげて」


「……わかった」


 アキラがしょんぼりする。


 エリンは残り二匹のスライムに向かっていった。


「二匹目、行きます!」


「おう、頑張れ!」


 アキラが応援する。


 エリンが短剣を構える。


 だが――


「きゃっ!」


 スライムの体当たりを受けて、エリンが倒れた。


「エリン!」


「だ、大丈夫です……」


 エリンが立ち上がる。


「やっぱり、俺が――」


「待て、アキラ」


 ガルドが制止する。


「これも経験だ。エリン、もう一回」


「はい……」


 エリンが再び短剣を構える。


 今度は慎重に、スライムの動きを見ながら――


「えいっ!」


 横から攻撃した。


 ズブッ!


 スライムに短剣が刺さる。


「やった!」


 そのまま何度も突き刺し、二匹目も倒した。


「残り一匹!」


「頑張れ、エリン!」


 アキラが叫ぶ。


 エリンが最後のスライムに向かう。


 そして――


「とりゃあ!」


 思い切り短剣を振り下ろした。


 ズブッ、ズブッ、ズブッ!


 何度も攻撃し――


 ついに、三匹目も倒れた。


「やりました……やりました!」


 エリンが喜びの声を上げる。


「よくやった、エリン!」


「初めてにしては上出来だ」


 ガルドが頷く。


「ありがとうございます……」


 エリンが涙目になる。


「私……ちゃんと戦えました……」


「ああ、立派だったぞ」


「エリン、すごかったよ!」


 アキラが笑顔で言った。


「アキラさん……」


「これからもっと強くなれるよ!」


「はい!」


 エリンが笑顔で頷いた。


 その後、農場の主人に報告し、報酬を受け取る。


「ありがとう!助かったよ!」


「いえいえ、こちらこそ」


 アキラが笑顔で返す。


「それと、これ」


 主人が袋を差し出した。


「新鮮な野菜だ。お礼に持っていってくれ」


「え、いいんですか!?」


「ああ、遠慮なく」


「やった!ありがとうございます!」


 アキラが嬉しそうに受け取る。


 ギルドへの帰り道。


「エリン、お疲れ様」


「ありがとうございます、リーナさん」


「初めての実戦、どうだった?」


「すごく……怖かったです。でも、倒せた時はすごく嬉しくて……」


「それが冒険者の醍醐味だ」


 ガルドが笑う。


「これからもっと色んな経験をして、強くなっていけばいい」


「はい!」


 エリンが元気よく返事をする。


「あ、そういえば」


 アキラが何かに気づいた。


「今回、俺全然戦ってないんだけど……」


「だから何?」


 リーナが冷たく言った。


「いや、経験値……」


「高ランクモンスターじゃないから、戦闘に参加しないと経験値入らないよ」


「あ、そっか」


 アキラが納得する。


「じゃあ、レベルは変わらずか」


「うん、952のまま」


「……まあ、いっか」


 アキラが笑う。


「エリンが頑張ってたし、それで十分だよ」


「アキラさん……」


 エリンが感動した表情を浮かべる。


「優しいんですね……」


「そうかな?」


「ああ、アキラは基本的にいい奴だ」


 ガルドが頷く。


「ただし、依頼書を読まないし、細かいこと気にしないし、天然だが」


「ひどくない!?」


「事実だから」


 リーナが冷静に返した。


 エリンがクスクスと笑う。


「皆さん、仲良しなんですね」


「仲良し……なのかな?」


「まあ、そうかもな」


 ガルドが笑う。


「これからよろしくな、エリン」


「はい!よろしくお願いします!」


 エリンが笑顔で頷いた。


 そして、ギルドに到着。


「ただいま戻りました」


「おかえりなさい。依頼完了の報告ですね」


 受付のマリアがギルドカードを受け取る。


「エリンちゃん、初めての依頼はどうだった?」


「はい!無事に倒せました!」


「それは良かった。これからも頑張ってね」


「はい!」


 エリンが元気よく返事をする。


「それじゃあ、報酬は後ほど――」


「あ、マリアさん」


 アキラが声をかけた。


「何でしょう?」


「この野菜、皆で分けて食べませんか?」


「え?」


「依頼の報酬で貰ったんです。新鮮で美味しそうだから」


「……いいんですか?」


「もちろん!」


 アキラが笑顔で言った。


「じゃあ、ありがたくいただきます」


 マリアが笑顔で受け取る。


「アキラさん、優しいですね」


 エリンが呟く。


「そうかな?」


「はい。私、アキラさんみたいな冒険者になりたいです」


「お、おう!頑張れ!」


 アキラが照れくさそうに笑う。


(アキラを目指すのは……やめた方がいいと思うけどな……)


 リーナが心の中で呟いた。


 だが、エリンの目は真剣で――


 きっと、彼女は本気なのだろう。


「さて、次の依頼は何にしようかな」


「アキラ、焦るな。エリンはまだ初心者だ」


「そうだった」


「少しずつ、慣れていけばいい」


「うん、そうだね」


 アキラが頷く。


「じゃあ、今日はゆっくり休もう」


「賛成」


 リーナが頷いた。


 エリンが嬉しそうに笑う。


「皆さん、これからもよろしくお願いします!」


「ああ、よろしくな!」


 アキラが拳を突き上げた。


 こうして、エリンの初めての実戦依頼は無事に終わった。


 だが――


 この平和な日々が、いつまで続くのか。


 それは、誰にもわからなかった。


-----


## 次回予告


「次は、もっと強い敵と戦いたいです!」

エリンの意外な一言に、パーティーは騒然!?

初心者の無茶な挑戦と、アキラの天然が炸裂する――

次回、第12話「初心者の無謀な挑戦」


レベル:952(変動なし)

ギルドランク:Eランク

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