第10話「予想外の再会」
前回のあらすじ
洞窟探索の依頼を受けたアキラたち。だが洞窟にはケイブベア、ジャイアントスパイダー、そして宝箱に擬態したミミックまで! 激闘の末、無事に依頼を完了したアキラのレベルは964に。依頼書を読まない冒険は、今日も続く――
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「おはようございます!」
朝のギルド。俺は元気に挨拶した。
「おはようございます、アキラさん」
リーナが笑顔で応える。
「今日はどんな依頼にする?」
「そうですね……アキラさん、今度こそちゃんと読んでくださいよ?」
「分かってるって!」
俺は依頼掲示板に向かう。
「えっと……」
色々な依頼書が貼ってある。
――『薬草採取』Eランク、報酬:銀貨30枚
――『荷物運搬』Eランク、報酬:銀貨40枚
――『山賊退治』Dランク、報酬:銀貨120枚
「山賊退治……面白そう」
「ダメです。Dランクはまだ早いです」
「えー……」
「えーじゃないです!」
リーナが即座に却下する。
「まあまあ、リーナ。アキラならDランクでも問題ないだろ」
ガルドが笑う。
「そうですけど……ルールは守らないと」
「堅いなあ」
「堅くないです! 当たり前です!」
リーナがムキになる。
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「あの、すみません」
背後から声がした。
振り返ると、フードを被った小柄な人物が立っていた。
「はい?」
「あなたが、桜井アキラさんですか?」
「そうですけど……」
「良かった。実は、お願いしたいことがあって……」
その人物がフードを取る。
――女の子だった。
いや、女の子というより、少女? 年齢は12、3歳くらいか。金色の髪を二つに結んで、大きな青い瞳をしている。
「えっと、君は?」
「私はエリン。エリン・フォレストです」
「エリン……」
どこかで聞いたような名前だ。
「あの、アキラさんに依頼があるんです」
「依頼?」
「はい。私の村が、魔物に襲われていて……助けてほしいんです」
「魔物に!?」
リーナが驚く。
「はい……もう、誰も手が付けられなくて」
エリンが泣きそうな顔をする。
「ちょっと待って。それ、ギルドに正式に依頼した?」
リーナが聞く。
「いえ……お金がなくて」
「お金がない?」
「はい。村は貧しくて、ギルドに依頼を出すお金もないんです。だから、直接お願いしようと思って……」
「直接って……」
リーナが困った顔をする。
「ギルドを通さない依頼は規約違反ですよ」
「分かってます。でも、他に方法がなくて……お願いします!」
エリンが頭を下げる。
「……どうする、アキラ?」
ガルドが俺を見る。
「うーん……」
困ったな。ルール違反だけど、でも困ってるし……
「……助けよう」
「アキラさん!?」
リーナが驚く。
「だって、困ってるじゃん」
「そうですけど、規約が……」
「規約より、人の命の方が大事だろ?」
「それはそうですけど……」
リーナが言葉に詰まる。
「俺も賛成だ」
ガルドが頷く。
「ガルドさんまで……」
「まあ、後でギルドに報告すればいいだろ」
「……分かりました。でも、セリアさんには報告しますからね」
「オッケー!」
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「ありがとうございます!」
エリンが嬉しそうに笑う。
「それで、村はどこにあるの?」
「王都から東に半日くらいです」
「半日!?」
「はい。森の奥にある小さな村です」
「森の奥……」
リーナが不安そうな顔をする。
「大丈夫ですよ。私が案内します」
「そっか。じゃあ、準備して出発しよう」
「はい!」
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ギルドを出ようとしたとき、セリアさんに呼び止められた。
「アキラ、ちょっといいか?」
「あ、はい」
「その子と一緒に出かけるようだが……何の依頼だ?」
「えっと……」
俺は正直に事情を説明した。
「……なるほど。ギルドを通さない依頼か」
「すみません……」
「いや、謝ることはない」
セリアさんが微笑む。
「村を助けるのは良いことだ。ただし、気をつけろ」
「気をつける?」
「ああ。ギルドを通さない依頼は、報酬が払われないこともある。覚悟しておけ」
「あ、報酬はいらないです」
「……そうか」
セリアさんが少し驚いた顔をする。
「お前らしいな。行ってこい」
「ありがとうございます!」
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王都の東門を出て、森へと向かう。
「それにしても、半日か……遠いな」
「そうですね。でも、歩くしかないですし」
「馬車とかないの?」
「お金がないって言ってたでしょ」
「あ、そっか」
俺たちは黙々と歩く。
「ねえ、エリン」
「はい?」
「村を襲ってる魔物って、何なの?」
「えっと……ゴブリンです」
「ゴブリン?」
「はい。でも、普通のゴブリンじゃなくて……」
「普通じゃない?」
「はい。すごく大きくて、強いんです」
「大きい……ゴブリンキング?」
ガルドが呟く。
「ゴブリンキング!?」
「ゴブリンの上位種だ。Cランクの魔物だぞ」
「Cランク……」
リーナが不安そうな顔をする。
「大丈夫だろ。俺たちなら」
「そうですけど……」
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三時間ほど歩いたところで、休憩。
「はあ……疲れた」
俺は木の根元に座り込んだ。
「お疲れ様です。はい、水です」
リーナが水筒を渡してくれる。
「ありがと」
俺は水を飲む。冷たくて美味しい。
「エリンちゃんも飲む?」
「あ、ありがとうございます」
エリンも水を飲む。
「それにしても、エリンちゃんって何歳なの?」
「12歳です」
「12歳! 若いなあ」
「アキラさんだって17歳じゃないですか」
リーナがツッコむ。
「そうだけど、でも12歳は若いって」
「まあ、確かに」
ガルドが笑う。
「エリンちゃん、一人で王都まで来たの?」
「はい。村のみんなのために……」
「すごいな。勇気あるね」
「そんな……私は、ただ……」
エリンが俯く。
「……大丈夫。絶対に村を守るから」
「本当ですか?」
「うん。約束する」
俺は笑顔で言った。
「……ありがとうございます」
エリンが嬉しそうに笑う。
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さらに三時間。
「着きました! あれが私の村です!」
エリンが指差す先に、小さな村が見えた。
「おお、本当に森の奥だな……」
「はい。でも、自然が豊かで、いいところなんですよ」
村に近づくと、異変に気づく。
「……焼けてる」
村の一部が焼け焦げていた。
「ゴブリンが……火を放ったんです」
「ひどい……」
リーナが顔を歪める。
「急ごう!」
俺たちは走り出した。
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村に着くと、村人たちが慌てて集まってきた。
「エリン! 無事だったのか!」
「村長!」
老人がエリンに駆け寄る。
「心配したぞ。王都まで一人で行くなんて……」
「ごめんなさい。でも、冒険者の方を連れてきました!」
「冒険者?」
村長が俺たちを見る。
「あ、はじめまして。桜井アキラです」
「リーナです」
「ガルドだ」
「おお、ありがたい……本当にありがたい……」
村長が涙を流す。
「村を……村を助けてください……」
「はい。任せてください」
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「それで、ゴブリンはどこに?」
ガルドが聞く。
「村の北にある洞窟です。そこに巣を作っているようで……」
「洞窟か」
「はい。毎晩、ゴブリンが村を襲いに来るんです」
「毎晩!?」
「はい。もう、限界で……」
村長が力なく言う。
「分かりました。今すぐ洞窟に向かいます」
「本当ですか!?」
「ええ。ゴブリンの巣を潰せば、もう襲ってこないでしょう」
「ありがとうございます……」
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村の北にある洞窟。
「ここか……」
洞窟の入口は暗く、不気味な雰囲気が漂っている。
「気をつけろ。ゴブリンは群れで行動する」
ガルドが警告する。
「分かってる」
俺たちは洞窟に入った。
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「ライトボール」
リーナの魔法で洞窟内が明るくなる。
「……臭い」
「ゴブリンの匂いですね」
「うえ……」
俺は鼻を摘まむ。
洞窟を進むと、奥から声が聞こえてきた。
「ギャギャギャ!」
「ゴブリンだ!」
ガルドが剣を抜く。
「来るぞ!」
次の瞬間、十数匹のゴブリンが襲ってきた。
「うわっ、多い!」
「リーナ、範囲魔法を!」
「はい! ファイアバースト!」
リーナの魔法が炸裂。ゴブリンが何匹か吹き飛ぶ。
「ギャアアア!」
「よし、俺も!」
俺はゴブリンに突進する。
「おりゃあ!」
パンチでゴブリンを殴り飛ばす。
「ギャッ!」
「よし、どんどん行くぞ!」
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十分ほど戦って、ゴブリンを全滅させた。
「はあ……はあ……」
「お疲れ様です」
「結構いたな……」
「でも、まだ奥にいそうですね」
「ああ。ゴブリンキングを倒さないと」
俺たちは奥へと進む。
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洞窟の最奥。
そこには――
「でけえ……」
巨大なゴブリンがいた。
体長は2メートル以上。普通のゴブリンの倍はある。
「ゴブリンキングだ!」
「あれがゴブリンキング……」
「ギャオオオオ!」
ゴブリンキングが吠える。
「来るぞ!」
ゴブリンキングが俺たちに突進してくる。
「うわっ!」
俺は横に飛んで回避。
「リーナ!」
「はい! ファイアボール!」
火球がゴブリンキングに命中。
「ギャオッ!」
だが、ゴブリンキングは怯まない。
「タフだな……」
「ゴブリンキングは体力が高いんだ。何度も攻撃しないと倒せない」
「了解!」
俺はゴブリンキングに突進する。
「おりゃああ!」
パンチを繰り出す。
「ギャオッ!」
ゴブリンキングがよろめく。
「効いてる!」
「もう一発!」
再びパンチ。
「ギャオオオ!」
ゴブリンキングが倒れた。
「やった!」
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だが、その瞬間――
「――ギャオオオオオ!」
奥からもう一匹、ゴブリンキングが現れた。
「嘘だろ!? 二匹いるの!?」
「やばい!」
新しいゴブリンキングが襲ってくる。
「うわああ!」
俺は慌てて回避。
「アキラ、集中しろ!」
「分かってる!」
俺は二匹目のゴブリンキングと対峙する。
「……来い!」
「ギャオオオ!」
ゴブリンキングが拳を振り下ろす。
俺は――
真正面から受け止めた。
「っ!」
「アキラさん!?」
「大丈夫……!」
俺はゴブリンキングの拳を押し返す。
「うおおおお!」
全力で押し返すと、ゴブリンキングがバランスを崩した。
「今だ!」
俺は渾身のパンチを繰り出す。
「おりゃああああ!」
ゴブリンキングの顔面に命中。
「ギャオ……」
二匹目も倒れた。
「やった……」
俺はその場に座り込んだ。
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「お疲れ様です!」
リーナが駆け寄る。
「いやー、二匹は予想外だった……」
「でも、勝てましたね」
「ああ。何とかな」
ガルドが笑う。
「よし、村に戻ろう」
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村に戻ると、村人たちが歓声を上げて迎えてくれた。
「やった! ゴブリンを倒してくれたのか!」
「ありがとう! 本当にありがとう!」
「いえいえ、大したことじゃ……」
「大したことですよ! これで村は安全になります!」
村長が涙を流している。
「良かった……本当に良かった……」
エリンも泣いている。
「……泣かないでよ。約束したじゃん」
「はい……ありがとうございます……」
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その夜、村で宴会が開かれた。
「いやー、久しぶりにこんなに食べたな」
俺は満腹で幸せだった。
「美味しかったですね」
「ああ。村の料理、素朴だけど旨い」
ガルドも満足そうだ。
「アキラさん」
エリンが近づいてきた。
「ん?」
「これ、お礼です」
エリンが小さな袋を差し出す。
「え、いいよ。報酬はいらないって」
「でも……」
「大丈夫。俺たち、困ってる人を助けるのが冒険者だから」
「……ありがとうございます」
エリンが笑顔になる。
「でも、一つだけお願いがあるんです」
「お願い?」
「はい。私を……仲間にしてください」
「えっ!?」
俺は驚いた。
「仲間って……」
「私、冒険者になりたいんです。アキラさんたちみたいに、困ってる人を助けたい」
「でも、君まだ12歳だよ?」
「年齢は関係ありません! 私、頑張ります!」
エリンが真剣な顔で言う。
「……どうする、アキラ?」
ガルドが俺を見る。
「うーん……」
俺は少し考えた。
「……分かった。でも、ちゃんと訓練するんだよ?」
「はい! 頑張ります!」
エリンが嬉しそうに笑う。
「やれやれ……また一人増えたな」
リーナが苦笑する。
「賑やかになるぞ、これは」
ガルドが笑った。
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翌朝、村を出発。
「みなさん、本当にありがとうございました!」
村人たちが見送ってくれる。
「いえいえ。また困ったことがあったら、言ってくださいね」
「はい!」
俺たちは王都に向かって歩き出した。
新しい仲間、エリンを加えて――
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その夜、王都のギルド。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい。お疲れ様でした」
マリアさんが笑顔で迎えてくれる。
「それで、レベルは?」
「あ、確認してませんでした」
俺はギルドカードを渡す。
「えっと……レベル952。ゴブリン十数匹とゴブリンキング二匹で12減ってますね」
「952か……」
「順調に下がってますね」
リーナが複雑そうに言う。
「ああ。あと少しで900台だな」
「レベル0まで、まだまだ遠いな……」
俺はため息をついた。
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「あ、そういえば」
リーナが何かを思い出した顔をする。
「エリンちゃん、冒険者登録しないと」
「あ、そっか」
「明日、手続きしましょう」
「うん!」
エリンが嬉しそうに頷く。
「これから、よろしくな」
「はい! よろしくお願いします!」
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こうして、俺たちのパーティーは四人になった。
桜井アキラ、リーナ、ガルド、そしてエリン。
レベルは下がり続けるけど、仲間は増えていく。
俺の冒険は、まだまだこれからだ――!
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## 次回予告
第11話「新人の特訓」
新しい仲間エリンを加えたアキラたち。だが、エリンは戦闘経験ゼロの完全初心者! ガルドによる地獄の特訓が、再び始まる――!?
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