第1話「異世界転移とレベルMAXの謎」
「うわああああああっ!」
気がつけば、俺は空を飛んでいた。
いや、正確には落ちていた。
つい数秒前まで、俺――桜井アキラは深夜のコンビニでカップ麺を選んでいた。明日の試験勉強で徹夜確定だったからだ。棚の前で「シーフード味」か「カレー味」かで真剣に悩んでいたら、突然足元が光って――
で、今こうして、見たこともない青空の下を絶賛落下中というわけだ。
「落ち着け、落ち着け俺! これは夢だ! カップ麺選びで悩みすぎて寝落ちしたんだ!」
必死に自分に言い聞かせるが、頬をつねる余裕もないくらい風圧がすごい。眼下には緑豊かな森が迫ってくる。
「いやいやいや、夢でも死ぬのは嫌だああああっ!」
その時だった。
視界の端に、半透明の青いウィンドウが浮かび上がった。まるでゲームの画面みたいな――
【緊急スキル『軟着陸』が自動発動しました】
「え?」
次の瞬間、俺の体がふわりと浮いた。いや、落下速度が急激に落ちた、という方が正しいか。まるで羽毛のようにゆっくりと降下し、森の中の開けた場所に、足から――
ぽす。
音にするとそんな感じで、着地完了。
「な、なんだ今の……」
呆然と立ち尽くす俺の目の前で、さっきの青いウィンドウがまた現れた。
【ようこそ、エルデガルド大陸へ】
【あなたは異世界転移者として召喚されました】
【ステータスを確認しますか? YES/NO】
「……マジで?」
俺は震える手で、YES の文字に触れた。正確には、触れようとしたら、意思に反応したのか画面が切り替わった。
そして表示された内容を見て――俺は絶句した。
【ステータス】
名前:桜井アキラ
年齢:17歳
職業:勇者(仮)
レベル:999
HP:999,999/999,999
MP:999,999/999,999
攻撃力:99,999
防御力:99,999
魔力:99,999
敏捷性:99,999
幸運:99,999
スキル:
・剣術LvMAX
・魔法LvMAX
・格闘LvMAX
・鑑定LvMAX
・料理LvMAX
・その他全スキルLvMAX
称号:
・異世界転移者
・最強の存在
・全知全能(仮)
・カンスト野郎
「……はい?」
何度見直しても、数字は変わらない。全部がMAX。レベル999。
「いやいやいや、おかしいだろ! 異世界転移ものって普通、レベル1から始まるもんじゃないのか!?」
思わずツッコミを入れる。周りに誰もいないのに。
でも、これが現実なら――つまり、俺は最初から最強ってこと?
「まあ、確かに便利かもな……」
試しに、その辺の木に向かって手を伸ばしてみる。特に呪文とか唱えなくても、「火の玉出せ」と思っただけで――
ごおおおっ!
手のひらから巨大な火球が放たれ、木が一瞬で灰になった。周囲の木も巻き込んで、直径10メートルくらいの更地ができあがる。
「うおおおっ!? ちょ、火球一発でこれ!?」
慌てて手を振るが、もう遅い。森が燃え始めている。
「消火、消火! えっと、水! 水出せ!」
今度は水の魔法を放つと、滝のような水流が発生して、火はあっという間に消えた。ついでに俺もびしょ濡れになったけど。
「はあ、はあ……やばい、加減がわからん」
服を絞りながら、改めてステータスを見る。レベル999。もしかして、これってラスボス級の強さなんじゃ……?
その時、背後の茂みががさがさと揺れた。
「!」
振り返ると、そこには――青いゼリーみたいな生き物がいた。ぷるぷると震えながら、こっちに向かってくる。
「スライム!?」
思わず叫ぶ。まんまRPGの世界だ。スライムといえば最弱モンスターの代名詞。レベル999の俺からすれば、赤ん坊も同然だろう。
スライムは俺に気づくと、ぴょんと跳ねて襲いかかってきた。
「よし、じゃあ軽く――」
拳を握って、適当にパンチを繰り出す。
ぐしゃっ。
スライムが爆発した。
いや、爆発という生易しいもんじゃない。粉々に飛び散って、跡形もなく消滅した。周囲の木々も衝撃波で何本か倒れた。
「……ごめん」
思わず手を合わせる。やりすぎた。というか、普通に触れただけで死ぬレベルか、これ。
その時、また青いウィンドウが出現した。
【スライムを撃破しました】
【経験値を10獲得しました】
【レベルが999→998に下がりました】
「――――は?」
俺は目を疑った。
いや、何度見ても、確かにそう書いてある。
レベルが「上がった」じゃなくて、「下がった」?
「ちょ、ちょっと待て! 経験値もらったのに、なんでレベル下がるんだよ!」
慌ててステータスを確認する。
レベル:998
経験値:999,999,999,990/999,999,999,999
確かに経験値は増えてる。でも、レベルは998に下がってる。
「バグ? これバグだよな? システムエラーだよな!?」
パニックになりながら、何度もステータス画面を開いたり閉じたりする。でも、表示は変わらない。
ということは――
「まさか、経験値を得るたびに、レベルが下がる……?」
背筋に冷たいものが走った。
普通のRPGなら、モンスターを倒して経験値をもらえば、レベルが上がる。強くなる。それが常識だ。
でも、俺の場合は逆。
戦えば戦うほど、レベルが下がる。つまり――弱くなる?
「嘘だろ……最強スタートなのに、これから弱体化していくってこと!?」
混乱する俺の前で、また茂みががさがさと揺れた。
今度はスライムが三匹。いや、五匹。いや、十匹以上いる。
「うわああ、なんで群れてるんだよ!」
スライムたちは俺を囲むようににじり寄ってくる。可愛い見た目とは裏腹に、数が多いと結構怖い。
「こ、来るな! 俺はお前らと戦いたくないんだ!」
でも、スライムたちはお構いなしに襲いかかってきた。
「くそっ、やるしかない!」
仕方なく、魔法で一掃する。ファイアボールを連射すると、スライムたちは次々と消滅していった。
【スライムを10体撃破しました】
【経験値を100獲得しました】
【レベルが998→997に下がりました】
「ああああああ! やっぱり下がったあああああ!」
俺は頭を抱えた。
これはまずい。相当まずい。
レベル999から始まったということは、ゼロになったらどうなるんだ? 消滅? それとも……マイナス?
「とにかく、戦闘は避けないと! 経験値を得なければレベルは下がらないはず!」
そう決意して、俺は森を抜けることにした。
とりあえず、人里に向かって情報収集だ。この世界のことを知らないと、何も始まらない。
幸い、遠くに煙が見える。あれは恐らく街か村の炊事の煙だろう。
「よし、あっちに行こう」
歩き始めて数分。
目の前に、巨大な影が現れた。
体長3メートルはある、緑色の人型モンスター。棍棒を持って、こっちを睨んでいる。
「オ、オーガ!?」
RPG知識がまた役に立った。オーガは中級モンスター。初心者が出会ったら即死級の相手だ。
でも、俺はレベル997。まだ最強クラス。余裕で――
「いや待て! 倒したらまたレベル下がるじゃん!」
慌てて後ずさる。
オーガは俺を獲物と認識したのか、雄叫びを上げて襲いかかってきた。
「うわああ、逃げろ逃げろ!」
俺は全力で走った。レベル997の敏捷性は伊達じゃない。オーガなんて一瞬で引き離せる。
――と思ったら。
目の前に崖。
「え、マジで!?」
振り返ると、オーガが棍棒を振り上げている。
逃げ場なし。
「……仕方ない!」
俺は諦めて、拳を握った。どうせ避けられないなら、倒すしかない。
オーガの棍棒が振り下ろされる。
俺はそれを――素手で受け止めた。
めきめきと木製の棍棒が砕ける。
「な、なんで素手で……!」
自分でも驚く。でも、レベル997ならこれくらい普通なのかもしれない。
オーガは怯んだ。その隙に、俺は軽く――本当に軽く、指でデコピンする感じで――オーガの額を弾いた。
どごおおおんっ!
オーガは吹き飛んで、崖の向こうに消えていった。
【オーガを撃破しました】
【経験値を500獲得しました】
【レベルが997→996に下がりました】
「……もう、やだ」
俺はその場にへたり込んだ。
最強の力を持っているのに、使えば使うほど弱くなる。
これって、罰ゲーム?
「誰だよ、こんなシステム作ったの……」
空を見上げながら、ぼやく。
青い空には、二つの太陽が輝いていた。ああ、ここは本当に異世界なんだな、と実感する。
その時、遠くから声が聞こえた。
「おーい、そこの人ー! 大丈夫ですかー!?」
振り返ると、馬車が一台、こっちに向かってきていた。御者台には、若い女性が座っている。
「た、助かった……」
俺は立ち上がって、手を振った。
女性は馬車を止めると、心配そうに駆け寄ってきた。
「さっきの爆発音、あなた!? 怪我はない!?」
「あ、はい、大丈夫です。ちょっとモンスターと遭遇しただけで」
「モンスター!? この辺りはオーガが出るって聞いてたけど――まさか、倒したの?」
「まあ、一応……」
俺が曖昧に答えると、女性は目を丸くした。
「すごい! 冒険者さんですか? あ、私はリーナ。冒険者ギルドの職員です」
リーナと名乗った女性は、明るい栗色の髪をポニーテールにまとめた、快活そうな雰囲気の人だった。年は俺と同じくらいか、少し若いくらいだろうか。
「俺は桜井アキラです。冒険者じゃなくて、その……異世界から来たばかりで」
「異世界転移者!?」
リーナは驚いた表情になった。
「それは珍しい! 最近はあまりいないって聞いてたけど――ちょうどいいわ。これから街に戻るところだから、一緒に来る? ギルドで登録すれば、冒険者として活動できるわよ」
「本当ですか!? 助かります!」
俺は喜んで馬車に乗せてもらった。
馬車の中で、リーナはいろいろと教えてくれた。この世界のこと、冒険者ギルドのこと、レベルシステムのこと。
「――で、普通はモンスターを倒すと経験値がもらえて、レベルが上がるの。レベルが上がれば、ステータスも上昇して強くなる。それがこの世界の常識」
「なるほど……」
俺は複雑な表情で頷いた。やっぱり、普通は経験値でレベルが「上がる」らしい。
じゃあ、俺のは完全にバグだ。
「ねえ、リーナさん。もし、経験値をもらってもレベルが下がる人がいたら、どうします?」
「え? そんなことあるわけ――」
リーナは笑いかけたが、俺の真剣な表情を見て言葉を止めた。
「……まさか、アキラさん?」
「はい。俺、レベル999から始まったんですけど、スライム倒したら998になって、オーガ倒したら996になりました」
リーナは呆然とした。
「レベル、999……?」
「多分、バグだと思うんですけど」
「ちょ、ちょっと待って! ステータス見せて!」
俺は素直にステータス画面を開いて見せた。
リーナはそれを見て、固まった。
「……嘘、でしょ?」
「俺もそう思いたいです」
しばらく沈黙が流れた。
やがて、リーナは深呼吸をして、真剣な表情で言った。
「アキラさん、これは――ギルドマスターに相談した方がいいわ。もしかしたら、何かわかるかもしれない」
「お願いします」
俺は頷いた。
こうして、俺の異世界生活は、謎だらけのまま幕を開けた。
最強の力を持ちながら、戦うほど弱くなるという、前代未聞の状況で。
「これから、どうなるんだろうな……」
馬車に揺られながら、俺は不安と期待が入り混じった気持ちで、街の門をくぐった。
門の上には、大きな看板。
【王都アルヴァニア ようこそ冒険者の街へ】
俺の、逆転人生が――今、始まる。
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次回予告:
「冒険者ギルドで登録しようとしたら、まさかのトラブル発生!? レベル999の存在が、機械を壊す!? そして、リーナの驚愕の鑑定結果とは――第2話『これって不具合?』お楽しみに!」




