第一話 さびしい家
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こんばんわ。
今回、このような無理なお願いを聞いて頂いてありがとうございます。
まさか返事をもらえるとは思っていなかったので正直、驚きました。
本当のところは自分のコミニュティメンバーだけでなんとかしなければならない問題なのですが、仲間内で引退者が続出してしまって攻略どころでは無くなってしまいました。
お恥ずかしい話です……
しかしながら今残った数少ないメンバーをどうにか、まだ見ぬステージへと連れて行きたいと思っておりました。
このゲームで次のフィールドに移動するには特別クエストをクリアする必要がありますが、今回のダンジョンは中級者泣かせと聞きました。
あなたのような有名プレイヤーがパーティに入って頂けるのであれば、確実にクリアできると思います。
あらためまして今回の助っ人依頼を受けて下さってありがとうございます。
明日、楽しみにしております。
Yurim Lee より
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休日の朝。
目覚めはとても良かった。
いつもなら昼間まで寝ているが今日は違う。
俺は体を起こすことなく、ベッドの横に置かれたテーブルからVRベッドセットを手に取り装着する。
「ようやく、この時がきたな」
リアルの自分は笑みを浮かべた。
返事をもらってから一週間、この日をどれだけ待ち侘びたことか。
居ても立っても居られなかったせいで昨日お礼のメールを送ってしまったが良かっただろうか?
まぁしかし気にする必要はないだろう。
なにせ今回限りの"傭兵依頼"なのだから。
俺はすぐにゲームを起動するとログインする。
MMORPG『キングスレイバース』
俺がこのゲームを始めてから一年半くらいは経っただろうか。
最初は大学のサークル仲間と一緒にプレイしていたが、みんな就職やらなにやらで忙しくなったせいでインしなくなった。
ゲーム内コミニュティを作ったのは当時のサークルの部長。
しかし、その部長がゲームを辞めると次々と引退者が出て結局メンバーは"5人"ほどに落ち着いた。
その頃にはもう先輩たちは1人もおらず、繰り上がり形式で自然と俺がコミニュティリーダーとなっていた。
昔のことを思い返していると、ようやくゲームのロードが終わる。
ログイン後、そこはメンバーが必死で貯めたゲーム内通貨で購入した一軒家の中だった。
大きさはSサイズと小さいが木造二階建ての雰囲気のいい家だ。
内装もみんなで考えて作った。
一階のリビングとなる場所の端にはコミニュティメンバー全員が使用できるアイテムボックスが置かれている。
俺は装備した重苦しい鎧から鳴る金属を響かせて歩みを進めるとアイテムボックスの中身を確認した。
"ボックス内にアイテムはありません"
とだけ表示された。
「そうだろうな」
呟いても誰も聞いていない。
ゆっくりと閑散とした部屋を見渡す。
"あの事件"以降、残ったサークルの仲間はほとんどやめてしまった。
残ったのは"俺"と"後輩の女子"の2人だけだ。
今日も"この後輩"は数合わせで呼んでいるが、正直言って下手くそで組みたくはない。
だが中級者ギルド以降のダンジョンは基本的に4人以上でしか入れないし、助っ人の方もフレンドを1人だけしか連れて行けないということだったので仕方ないだろう。
今回入るダンジョンは内部に"特別なルール"があって、それが攻略の進行を妨げていた。
これは今いる2人だけでは到底どうすることもできないルールであり、俺にとっては最悪とも言うべき内容だ。
まぁ後輩については、これが終わったら適当に除名して新しいメンバーでも募集しよう。
"あの事件"を知ってる人間とは極力関わりたくないからな。
やはり加入させるなら可愛い女の子がいい。
このゲームは女子にも人気があるからすぐに集まるだろうし。
今回のクエストで上級にあがったら、ここを引き払って、そちらのフィールドにハウスを買おう。
また一からコミニュティのメンバー集めだな。
そう決意しつつ俺はステータス画面を開いてアイテム欄へ飛び、青い画面を下へスクロールしてく。
そして"転移の羽"というアイテムを使って、今日の待ち合わせ場所へと移動した。