第五話 瞬雷のヴォルフ
森林内は雷音が響き渡っていた。
発生源は倒れ込んでいる私の目の前に立つ男性プレイヤー。
細くて長身。
コブトリというよりもノッポという名が似合う男性プレイヤーだ。
だが地面に落ちた手鏡が消えるとコブトリの体は光に包まれる。
そしてすぐに光は拡散して消えると、目の前のコブトリの姿は変化していた。
銀色の髪、ネイビーブルーのロングコート。
細身は変わらないが背はそう大きくはない。
彼の左手には一本の武器が握られている。
「刀?」
真っ黒な鞘と持ち手、鍔が無い作りの長刀だ。
さらにその刀からは常に雷撃が迸り、敵を威嚇するようだった。
数メートル離れた場所に立つ、赤髪の男ヴォルフはコブトリの姿を見て後退りする。
体は私以上に震えているのではないだろうか?
「ありえない……あんたは引退したって聞いたぞ。それにあんたは攻略やバトル専門だろ!!なんでこんな辺境の地にいるんだよ!!」
その問いにコブトリはフッと笑って答えた。
「言っただろ農業系の配信してるって。だけど久しぶりにリーダーから面倒そうなメールがきてね。スローライフはちょっとお休みして、君を探してたのさ」
「俺を探してただと?」
「君が僕の名を名乗って好き勝手やってるクソ野郎だろ?」
「く、クソ野郎……って、てめぇ……言わせておけば!!」
私は何が何だかわからずにいた。
だが思考するに目の前にいる男性プレイヤーは"コブトリ"というネームではないし、さっきのノッポが本当の姿ではないということだ。
偽ヴォルフは大剣を斜め下に構えて臨戦態勢を取る。
「どんなに強くてもブランクがあるだろう!」
そう言って一気に地面を蹴って踏み込む。
やはり凄まじいスピードだ。
だが"本物のヴォルフ"は落ち着いていた。
足を肩幅に開き、刀を腰に構え、右手を持ち手に軽く添える。
そして雷撃纏う斬撃を一閃。
横へ美麗な光が走って偽ヴォルフの体を半分にし、さらには周囲にあった木々をも両断した。
刀はもう鞘に収められていた。
目にも止まらぬほどの抜刀、そして納刀。
一連の動作は全く見えず、ただ剣線が走った残像だけが確認できた。
「もし次にこんなことをしたら、これだけじゃ済まない。両手両足切り落として街中に吊るす。わかったな?」
「が、がは……」
雷撃と共に偽ヴォルフの体は光の粒子になって消えた。
先ほどのレモンママと同じ現象のようだった。
ヴォルフは振り向くと手を差し伸べる。
「大丈夫かい?酷い目にあったね」
私は心配そうな彼の表情を見た。
そして安心からなのか心の声が漏れる。
「あ、イケメン……」
こうして私が巻き込まれた、"初心者プレイヤー狩り事件"は幕を閉じた。
レモンママは始まりの町からフィールドに出て、ここまで急いで来てくれた。
その姿は丸々と太った体型で髪型だけが少し違うだけのアバターだった。
偽りの手鏡で一体何を変えていたのかよくわからない。
彼女は今回の件を何度も謝っていたが、私はとてもスリリングでいい経験をしたと思う。
なにせ危険が迫った時、王子様が現れて助けてくれたのだから今はお姫様のような気持ちだ。
しかも王子様がイケメンとくれば気分はとてもいい。
私はレモンママに、このキングスレイバースに誘ってくれたことを感謝しつつログアウトした。
愚行の配信者 完
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