第四話 そのメールは突然に
彼が配信を始めたのはゲーム内のコミニュティであるドラゴン・ナイツを抜けた後だ。
しばらくゲームからも離れて数ヶ月ほどリアルを謳歌していたが、やはりゲーマーなのだろう。
すぐに"キングスレイバース"というゲームの世界が恋しくなった。
久しぶりに戻った第二の故郷は全く変わらず、彼を迎えてくれた。
"もう最前線のバトルはしない"
彼が心の中に決めていたことだ。
正直、最前線の攻略は疲れる。
町を歩いていたらすぐにバトルを申し込まれて気軽にインできない。
これはもう隠居生活だな。
ということで、彼は始まりの町付近でスローライフ系の配信を始めた。
攻略やバトルで貯めたゲーム内通貨は大量に所持していたため、それを惜しみなく使って家と土地を買った。
配信にはあまりリスナーはおらず、始めてから数週間してからも一桁をキープしている。
間違いなく底辺配信者と言っていい。
そんな時、彼にあるメールが届く。
数少ないフレンドからのメールだ。
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やぁ、久しぶり。
まさか君がインしていると思わなかったよ。
今はカーバントの町付近にいるみたいだね。
君の配信、少し覗きにいったけど楽しそうでなによりだ。
本当のところを言うと、このままそっとしておこうかと思ったんだけど、ちょっとコミニュティで問題が起こった。
君がゲームから離れてる間にコミニュティに入った、"あるプレイヤー"がゲーム内で迷惑行為をおこなった。
新規参入したプレイヤーを痛めつけて、それを配信していたようだ。
わかった時、すぐに"こいつ"は除名したよ。
もちろん運営には報告したけど、どうやら最近見つかった高難度ダンジョンのバグを処理しきれないとかで忙しいとのことだ。
厄介なことに、この男はまだ愚行の配信をおこなっているようでね。
しかも最近聞いた噂だと"ヴォルフ"という名で活動していると。
そこで君に頼みがある。
こいつを見つけ出して二度とこんな真似ができないようにして欲しい。
方法は任せるよ。
あながち君と関係ない話でもないから素直に協力してもらえると助かる。
PS.
私は海外出張があって数ヶ月は日本にいないから、この件は君に一任するわ。
解決できたらデートしてあげる。
今度なにか美味しいものでも食べに行きましょう。
Radia Riser より
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完全に解決できるという確信があるのか、断定された未来を見せられる内容ではあった。
しかし確かに今回の件は自分とは無関係とはいかない話だ。
もし本当にその初心者狩りのプレイヤーが"ヴォルフ"と名乗っているのであれば黙っているわけにもいかない。
彼は重い腰を上げた。
このプレイヤーの特徴を知る必要などない。
ただ名乗っているのを聞くだけだ。
「ステータスを表示」
そう言うと何もない空間に四角い青白いウィンドウが出る。
彼は軽やかに指を滑らせながら操作し、辿り着いたアイテム欄を下へとスロールしていった。
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"偽りの手鏡" [634]
アイテムを使用しますか?
→はい
いいえ
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彼は何度も初心者クエストを受けて、その時を待った。
そしてカンリスの実が数十を超える頃にようやく、その時が来た。
"ヴォルフ"という名を名乗った男が彼の目の前に現れたのだ。