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第一話 始まりの町


________________


こんにちわ


いつも"キングスレイバース"を楽しくプレイさせて頂いております。


今回、このようなメッセージを送ることになったのは、ある配信者の愚行について報告したかったからに他なりません。


この配信者は自己中心的な考えで他のプレイヤー、特に初心者プレイヤーに対してハラスメント行為をおこなっております。


プレイヤーネームは****。

さだかではありませんが恐らく現在は改名していると思われます。


このプレイヤーは私の所属するゲーム内コミニュティに加入しておりましたが、この問題が発覚後、すぐに除名いたしました。


しかし噂によると、まだこのプレイヤーの愚行は続いているようです。


ここまで大きな世界観のゲームですので様々な調整やバグ処理など、とても忙しいということは重々承知しておりますが、どうぞ早急な対応をお願い致します。



Radia Riser より


________________



VRMMO『キングスレイバース』


このゲームを友達から勧めてもらったのは数ヶ月前だったと思う。


私はほとんどゲームをやらない。

最初は女性がゲームをやるのは変なんじゃないかという偏見が私の中にあったのだ。


でも最近では女性でもゲームをやって、それを実況しながら配信しているなんて人もいる。


このゲームでは自分のリアルな姿ではなく、ゲーム内で作られたアバターで動画配信することができ、それで稼いでる人もいるようだ。


私は受験やら部活のストレスもあってか、ようやく友達の勧めでプレイすることにした。

ずっと勧めてくれている女友達にも悪く思ったというのが正直なところであったけど、ちょっとでもリアルのストレスを解消できればと決意したわけである。



早速ゲームにログインすると、とても不思議な感覚に襲われた。


「暑い……まさか気候も再現してるの?」


私は呟きつつ、額を拭うモーションをとるがゲーム内では何の意味もない。

ベッドの上に寝そべっているリアルな私の体は今頃汗だくだろう……なんて考えたら自然にゲーム内の体が動いたのだ。


友達に待ち合わせ場所として指定されたのは、このゲームの世界で言うところの、いわゆる"始まりの町"というところだそう。


町の中央には巨大な団円形に模った巨大な噴水があり、確かに待ち合わせであればわかりやすい。


私は噴水の水を除くように見た。

本物の水のようで透き通っており綺麗だ。


「わー。すごい」


鏡のように自分のアバターが写り込み、思わず感嘆の声を上げた。


金色の長い髪にスレンダーな体型で、なぜか自分のリアル世界の容姿に近い気がする。

服は安っぽいファンタジーにありがちな布の服、腰には殺傷能力皆無の棒剣が差しているだけで装備は貧弱だ。


「まさか私が金髪だなんて」


噴水の水に写った自分の顔を横や縦に動かしながら笑みを溢す。

髪なんて一回も染めたことは無かった。

周りからは常に"優等生"として見られ、それが本当の自分の姿なのだと思っていたのだ。


あらためて町の中を見回す。

レンガ作りの決して大きくはない家屋が立ち並ぶが数は多くない。

人もちらほらと歩いており、多分みんな赤の他人のプレイヤーなのだろう。

やはり始まりの町というだけあってか町自体は小さく、プレイヤーもあまりいないようだ。


約束の時間まで、もう少し……というところで、何やら私の存在に気づいた2人の男性プレイヤーがこちらに近づいてきた。


「やぁ、こんにちわ」


「待ち合わせ?」


あまりにも突然な出来事に私は声が出なかった。


「その格好からして初心者だよね!」


「よかったら進め方とか教えるよ」


ニコニコとしたアバターの表情に少し違和感を感じつつ、私は彼らの"装備"に視線を走らせる。

1人は高級そうな白い鎧の剣士風で、もう1人は魔術師なのかローブと大きな杖を持っていた。

明らかに初心者ではない。


私は勇気を出して口を開いた。


「す、すいません。友達と待ち合わせしてるので……」


「えー。そうなの?」


「ちょっとくらい時間あるでしょ」


今まで生きてきて、こんなナンパじみた体験をしたことは一度も無い。

私がリアルで住んでいる町は地方で、酷く言えば村に近いほど人口が少ない。

そんな場所でナンパなんてあるはずがないのだ。


「こ、困ります……」


私が俯きながら後ずさると、男性プレイヤー2人の背後から声がした。


「こらぁ!あたしの連れに手を出すな!」


振り向く2人の男性プレイヤーに混じって私もその声の主を見た。


野太い声であったが見ると女性プレイヤーだ。

丸々と太った体型に安っぽい布の服、というのは私と変わらない。

ただ腰に差した銀色のレイピアだけは高そうだ。


「な、なんだよ」


「悪かったよ!」


ムスりとして2人の男性プレイヤーは名残惜しそうに去っていった。


怒った表情をしていた女性プレイヤーは、私を見るなり一転して笑顔になる。


「お待たせー。ごめんね」


「もしかして"京子"?」


「ああ、こっちでは本名で呼んだらダメよ。あたしは"レモンママ"ってプレイヤーネームだからそう呼んで」


「レモンママ?」


その名前は一体どこからきたのか。

京子は私の学校の同級生で幼馴染だが、"レモンママ"という名前に結びつく情報は今までの付き合いでは思い当たらない。


「あなたは?プレイヤーネームはどんなのしたの?」


「え、"レナ"だけど」


「本名じゃねぇか」


京子……もといレモンママは呆れた表情をした。


「ここはゲームなんだから、自分のリアルネームじゃないほうがいいわ。身バレしたら大変だからね。それにせっかくセカンドライフ送れるのになんで同じにせなあかんのよ」


「はぁ……」


レモンママの言うことはもっともではあるが、彼女の発言と彼女のアバターの容姿にギャップを感じた。


「でもあなたも、なんでそんな変な格好にしたのよ」


それは丸々と太った体型の決して可愛くもない彼女のアバターのことを言っていた。

どうも近寄り難い雰囲気を醸し出している。


「これは、さっきみたいな"ナンパ対策"なのよ」


「ナンパ対策?」


「そう。この姿は実際のアバターとは異なるの。ゲーム内で手に入る"偽りの手鏡"ってアイテムがあって、それで容姿が変えられるのよ」


「へー」


「このゲームはリアルの容姿を基準として、そこからアバターが作られるからリアルが美女ならアバターも自ずと美女になる。あたしもそうだったからさ」


私はリアルの京子を想像してみる。

"美女"……だったかな?


「レナもリアルが綺麗だからアバターも美人になってるってわけ。もしかしたら配信者として活動したら人気出るかもよ」


「私はそんなのはいいわ。目立ちたくないもん。でも、そのアイテムで容姿変化させたら、ずっとそのままなの?」


「まさか。これはログアウトするか鏡型のアイテムが割れるかで解けちゃうのよ」


「それだと、なんか使うの勿体無いね」


「まぁ確かに課金したら高いし、すごく手に入りづらいアイテムだからホイホイと使えないわね。私は町を歩く時間が長い時だけ使ってるわ。さっきみたいなのに絡まれるの嫌だからさ」


「ふーん」


レモンママの家は結構なお金持ちだ。

何度も家に遊びに行ったことがあるが、海外の御屋敷かというくらいの広さ。

親は2人とも大学教授とかだったと思う。

そんなレモンママからしたらゲームにはポンポン課金を抵抗なくできてしまうのだろう。

貧乏性な私には到底できそうにない。


「とにかく気晴らしに冒険に出かけてみましょ。リアルのストレスを解消しないとね!」


「うん、そうだね」


「まずは冒険者ギルドに行ってみましょうか。簡単なクエストならモンスターも弱いし、言うなればピクニックみたいなものよ」


"モンスター"と聞いて一瞬ドキッとしたが、ベテランプレイヤーのレモンママがいれば大丈夫だろう。


こうして私、"レナ"の冒険が始まるわけだが、初のプレイで早くも、ちょっとした事件に巻き込まれることになるとは……。


この時の私はまだ知るよしもない。

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