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2,妻との出会い

 隆史は小さな頃から平凡な子供だった。身長も体重も。その見た目は勿論、中身から性格に至るまで全てが平均点を大きく上回ることも、下回ることもない。相対的な考察をするならば平均とは決して侮蔑的な要素を含んではいないが、絶対評価に当てはめた途端に彼は無個性となり、凡庸、無味乾燥といった揶揄にまで変貌するのである。にも関わらず、彼の友達は非常に独自性のあるユニークな面々が揃っていたのだから、益々を持ってその凡庸ぶりに拍車をかけたのは言うまでもない。


 彼らはみな、小学校からの同級生だった。

 ゴリラのように腕力が強く、不良グループにまで倦厭されていた、いじめっ子。やたらと口が達者な二枚目。ドカベンのような体躯をした金持ちに、ヤクザの息子。その中に平凡を絵に描いたような隆史が混ざり、その交友関係は四十歳を過ぎた今もなお続いていた。


 隆史は平均点な偏差値の高校と大学を出たが、氷河期とも言われた就職難のなか、一流のカーディーラーに入社できたのは非常に幸運なことだと思っていた。生真面目な性格で派手な成果をあげることは無い反面、ミスがなく何でもソツなくこなす仕事ぶりは、とりわけ上司から評価される一方で、部下からは蔑まれた。


 女性関係も、これまた至って普通の遍歴を辿るのが、生まれながらに平坦な道をコツコツと歩む彼に相応しい所業とも言えたが、隆史はどこかで自らのアイデンティティに不満を抱いている節があった。それは、何か突出した成功や身に余る失敗を体験したいといった、半ば自虐にも似た思惑だったのかも知れないが、入社から三年の月日が経過して仕事も落ち着いてきた頃合いだったことも彼の背を後押ししたに違いない。


「なあ、同窓会しないか?」


 週末、地元の居酒屋で飲んでいる時に腕力ゴリラが言った。見た目とは裏腹に一滴も酒を飲まない彼の提案に、他の仲間たちから歓声が上がる。


「良いじゃん、やろーぜ」

 と、フリーターの二枚目が言う。


「中学は多すぎるから小学校でどう?」

 金持ち肥満が提案すると、ヤクザ息子が同意した。

「じゃあ決定、案内状とか適当に宜しくな」


 ゴリラが隆史に視線を送り謎の乾杯が済むと、その話は終了とばかりに別の話題に移っていった。そう、昔から何かの段取りやセッティングは全て隆史任せなのである。しかし、それは決して彼を使いっ走りにしようとか、面倒を押し付けようなどと、そんな話ではないから余計にタチが悪い。友人が五人も集まればそれぞれの役割分担が自然発生し、小学生からの付き合いともあいなれば、それは既に強固な法律とも言える拘束力を生み、更にはその役割にプライドのようなものまで芽生えていたのである。


「了解、少しはお前らも手伝えよな」


 と、隆史は言ってみたものの、心中ではまるで期待など抱く余地はなく、与えられた責務をどう段取りするかにシフトしていた。そして、その半年後には還暦を迎えた担任の教師まで参加し、大いに盛り上がった同窓会は開催されたのである。


 終わってみれば案内状を作る手間や、会場の手配、当日の受付から司会進行にいたるまで滞りなく完璧にこなし、皆が久しぶりの再開に歓喜に沸いたイベントを開催できたことに隆史は満足していた。そして、そこで再開した須田香里奈との出会いこそ、隆史の平凡な人生を激変する荊棘の道、あるいは、地獄の未来への案内状であった。


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