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ある秋の朝

お題は【秋】【ニット】

別名義で支部にも掲載しております。

寒くなったり暑くなったりを繰り返すこの時期。

毎年、衣替えの時期を迷い結果的に真冬になってから冬物を急いで出すを繰り返している私は、せっかくの休み今年は早めに支度をしようと重い腰を上げた。

まずは表に出している夏物達をクリアボックスに閉じ込めていく。さよなら夏。

そういえば今年はひぐらしの鳴き声を聞いた記憶が無いなと思った。

今年の夏は仕事に追われて、季節を感じる要素と言えば茹だるような暑さとじめりとした空気ぐらいだった。

うん、私の人生には今トキメキと余裕が足りていないなと思考がドライブを始めた。

気づけばYouTubeで推しを眺めてインスタントなトキメキを摂取していた。

これでいいのか、いや良くない。この休みの自堕落を脱却して潤いのある新しい季節を迎えねば。

インスタントだが確かな潤いを与えてくれる推しとは一旦空の彼方へ行ってもらおう。

携帯を閉じ、机の上に鎮座させる。しばしそこで眠っておくれ。そして、私の怠惰へと向き合おう。

詰めっぱなしで放置していたクリアボックスをいそいそと押し入れへ埋葬する。改めてさようなら夏。また来年。

そして、新たな季節を迎える供物を発掘する。

すっごいギチギチに詰まっている。バイオハザードの起きた電車内だ。雑すぎるぞ過去の自分。

生地も分厚いものだったりするのでシワが深刻で無いことを祈ろう。

なんとなく恭しく箱を開いてみる。うん大丈夫だ微かに柔軟剤の香りがする。押し入れの香りには侵食されてなさそう。

ただいくつかは案の定シワが酷かったり、なぜ来年も着ようと思ったと言うぐらい毛玉だらけの物があるので、洗うもの、すぐ着れるもの、処分するものと仕分けをする必要がありそうだ。

それこそ、採掘をするかのように次々と服を掘り起こしてく。

「あっ」

思わず声が出た。数ある服の中でも明らかにオーバーサイズのニットセーター。

左右非対称の柄で少しチャラげな印象のニット、明らかに私の趣味では無い異彩を放つ。

忘れていた。というか処分の手を逃れていたのか。

いや、逃れていたんじゃなくてしなかったのだろう。

私のことだからなんとなくその時は捨てられなかったのだ、欠片の思い出として、いやらもしかしたら取りに来るかもしれないと謎の理由を付けて。

取りに来れるはずも無いのに、その場のノリと勢いで追い出して速攻引越しをしたのだから。

なんとなく広げてみて抱きしめてみた。

うん、自宅の匂いしかしない。ウッドの匂い、もちろん微かに混ざるシトラスの匂いもしない。

なんとなく、袖をリボン結びにしてみる。

「何してんだろ」

ちょっと、変な笑いが込み上げてきた。

何度も何度も結んでみる。ボールのようになるまでそれを繰り返した。狙いを済ましてゴミ箱に投げ入れた。

予定より早く携帯を手に取る。即座に旧友への連絡を入れてみた。

予想通り眠そうな声ではあるけれど、もしもしと声が聞こえてくる。

「ねぇ、買い物いかない?」

「うーん、急だねぇどうして」

「なんとなく? てか、せっかく出し新しい服買ったりなんかオシャレなニットでも買おうかな?的な?」

「なにそれ、毛玉すぐ着くからっていつも買わないじゃん」

「私の趣味ってことにしてみようと思って」

なにそれ変なのと友人は笑う。

「いいよ、いこうかお昼食べてそのままって感じ?」

「そんな感じで」

こう言う時の友人は察しがいいのかいつも付き合ってくれる。ありがたい。

「せっかくだからさ、芋スイーツ食いつくそうよ。秋を食い尽くすの」

「太るよー、私最近やばいんだけど」

「その分、ウィンドウショッピングで歩いたらモーマンタイよ。くらい尽くして飾り尽くすの、新しい秋で」

「詩人だねー」

「でしょ」

衣替えはきっと明日の私がなんとかするだろう。今日は目一杯、季節を感じる日に変更だ。沢山の秋を見つけに行こう。

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