カルボナーラ
人によっては腐の香りを感じるかもしれない
頂いたお題は【カルボナーラ】【後輩】です。
「カルボナーラだぁ。おいしそうだよぉ」
食べ物を目の前にした人間が言うにはありきたりな言葉ではあるだろう。それも、その人間が号泣していなければの話だが。
そう、今目の前には出来立てのカルボナーラを前にフォークを握って大の成人男性が大号泣をしている。あまりの泣きっぷりに湖でも出来そうな勢いである。
「おい、泣いてないで早く食えよ。せっかく作ってやったのに。つか、涙が溢れてしょっぱくなるんじゃねえの」
「作ってくれてありがとうございます……丸一日何も食ってなくて助かります」
号泣していた男も少しは落ち着いてきたのか、先ほどよりはハッキリとした物言いで、先輩の男に礼を言う。
「だろうな、仕事急に当欠して連絡がつかねえし。様子見に来たらこれだしよ」
先輩の言うようにこの泣いていた男は急に仕事をすっぽかしたのだ。普段そのようなことはしないこの男。口では冷たくだるげに言っているがこの先輩はこの泣いていたこの男。もとい後輩を心配してきたのである。
そこそこ、この2人は仲良くしていて頻繁にお互いの家を行き来する中であり、家の中で倒れていやしないかと先輩は持っていた合鍵を持ってこの部屋入ったのだが、服は脱ぎっぱなし、部屋の灯りはついていないその部屋の角で膝を抱えて虚ろな目で後輩が泣いていたのである。
先輩が部屋に来たことで少しは落ち着いて来たのか一旦は泣き止んでいたのだが、カルボナーラが出てきた瞬間また泣き始めたのである。
情緒不安定がすぎて若干のホラーである。
「で、なんだカルボナーラ好きだっただろう。何だパスタの気分じゃなかったか?」
「いや、そんなことは全然なくて……本当に美味しそうでありがとうございます」
「じゃあ、なんで飯できて泣くんだよ。どうした」
「オレ、彼女と別れたんですよ」
「は?」
あまりの話題の突拍子のなさに思わず先輩は柄悪く返す。
それで仕事を休むのは少し同情出来なくはないし。泣いていたのは分かるがなぜカルボナーラを見てぶり返すのか。
「初めて食べ彼女の手料理がカルボナーラだったんです」
「どっかのラブソングかよ」
「友達の彼女の連れでしたね」
「ドンピシャじゃねえか」
なるほど、泣いた理由は判明した。
「あー、うまく言ってたんじゃねえのか? 昨日だってデートに行くって言ってたじゃねえか」
「行きました、夜景のキレイなちょっとだけリッチなお店で」
「いい雰囲気のところじゃねえか」
「いい雰囲気でした。いい雰囲気のまま、明日仕事だけどイチャイチャしようかと思ってました」
「盛り上がってっじゃねえか」
「でも、帰りに振られました。盛り上がってたのオレだけでした」
どうやら、上がるだけ上がって崖から突き落とされたらしい。
「いや、なんでだよ。飯も奢ったんだろ?」
「奢りましたけど、それはいいんですけど。その他に好きな人がいるって言われて。しかも、もう半同棲状態らしくて」
「不純恋歌じゃねえか」
「いや、ほんとに……」
そう言って後輩は半熟卵をフォークでつつき始める。
「彼女が……元カノが作ったやつにはなかったか」
「何だ嫌なのか」
「いや、嬉しいですお得な気分です。それに麺にめっちゃチーズ絡んでくる」
「最後にさけるチーズ割いて入れてるんだよ」
「これを今日からのオレのカルボナーラの味にします」
「何だよそれ」
何か吹っ切れたの目元は赤いが後輩は勢いよくパスタをすする。
あっという間になくなっていくカルボナーラ。
「今日は飲むか」
「のみまふ」
「じゃあ、早くコンビニいくぞ」
「まってくらはい」
明日も仕事だがたまには飲んだくれる平日の夜があってもいいだろう。
今日目一杯、発散してまた明日からしっかり歩いていけいいさ。