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たぬきの嫁入り  作者: 藍色 紺
第2章 ふたり暮らし
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9話 ぽこと武器選び

 納屋から仕事用の服を取って来て着替えていると、ぽこが不思議そうに首を傾げた。


「どうして人間は着替えるの?」


 言葉の意味を理解するのに、暫し時間がかかった。


 そういえば、ぽこは、スライム退治のときも、普段着だった。そもそも荷運び人ではないから、冒険者らしくない装備なのも不思議ではない。

 実際は、たぬきが人間に化けているだけで、ぽこに服の概念がないのは当たり前だ。


「用途で使い分けてるのさ。たぬきでいう冬毛と夏毛みたいなもんだな」


「つまり、仕事用とそれ以外の二種類ですね」


「俺ぁ、洒落もんじゃないからな。使えりゃ何でもいいのさ」


 鎧の内側に着る服を、仕事なら鎧なしでも着る。何しろ、酷い汚れ仕事のことがあるんでね。


 納屋に行って、鎧やブーツを身体にあててみせると、ぽこは「なるほど」と手を打った。


「長袖、長首の上服は露出を減らす為で、ズボンの裾が細いのはブーツを履く為なんですねぇ」


「そうだ。昨日みたいに戦闘はなくて、やたら汚れることがわかってりゃ、重い鎧を装備する気にはならんな」


このへんは家を持ってる特権だ。旅が基本の冒険者なら、荷物はいつも全て持つ。そこに、荷物持ちの意義があるというものだ。


「ぽこも、使い分けた方がいいですか?」


 改めてぽこの服を見れば、袖の短い上着と短いスカートの上に、カーディガンを着ているだけで、いかにも寒そうだ。


「そうさね。仕事のときには、ズボンがいいかもしれん」


 ぽこが、頬を膨らませれば、煙と共にスカートの下に脚の形を拾ったズボンが現れた。


「寒くないか?」


 ぽこは困ったように巾着を叩いた。空気が抜けて、ぺたんこになってしまう。


「木の葉が切れてしまったので、防寒着までは無理でした」


 なるほど。化け術には木の葉が基本なのか。


 壁に掛けたままの防寒具から、一番温かいのをぽこに渡す。


「使うといい」


 ぽこは、大喜びで袖を通したが、俺とぽこでは体格差がありすぎる。

 袖をまくって埋もれた手を、どうにか出し、嬉しそうに俺を見上げる。


「ふわふわでとっても温かいです! 何の毛ですか?」


「羊の毛皮だ」


「羊!」


たぬきに羊の毛皮を着せようだなんて、我ながら馬鹿なことを考えたものだ。


「ベッドに暖炉、羊の毛皮と、人間の生活は温かくっていいですね。化け術で出した服は基本的に木の葉の性質しかなくって」


「あの風呂敷は?」


「あれは秘伝の術なんです! 凄いですよね!」


 襟元を合わせ、顔を羊毛にうずめるぽこを見ていると、羊皮の防寒具が、本当に俺の物だったのか疑わしくなるほど、よく似合っている。


 一つ咳払いして、続きを話す。


「今日は、薬草摘みに行くつもりだ。お前さんは、木の葉を補充するといい」


 インマーグには、緑屋敷という魔術研究所の出先機関があり、薬草を買い取って貰える。

 暇な時間でできるいい収入源だ。


「クエストじゃないんですか?」


「そうさね。今日は新人も来てないようだしな」


 インマーグに来る新人パーティーは、大抵が前日入りして、翌朝クエスト屋に来るから、引率の仕事が入るかどうかは、予想がつくことが多い。


「旦那様は、私が仕事について行くのを駄目って言いませんね?」


「自分の身は自分で守れるんだろう?」


 確か、昨日そう言っていたはずだ。俺の周りの女性は、基本的に冒険者だ。冒険者になる者には男女の区別は殆どない。

 自分の面倒をみられない者は死ぬしかない。皆痛い思いをして、引き際を学ぶ。


 魔獣は自然の一部で、同じく一部でしかない我々は、自然を駆逐することはできない。


 俺にとっては当たり前の返事に、ぽこは目を丸くして、大きく頷いた。


「そうです! 私だってできます!」


 あまりのはしゃぎっぷりに、意地の悪いことを思いついてしまった。


「だがなぁ、先日、狼に囲まれていたのは誰だったかね?」


「おっ狼だけは駄目なんです!」


 慌てるぽこに、大笑いしてしまう。


「だがね、いざという時のために攻撃手段はあった方が安心だ」


 納屋に置いてある武器を端からぽこに見せていく。


「どれも古いが、それなりの手入れはしてあるつもりだ」


 小ぶりな剣を持ち上げ、手渡そうとすると、ぽこは首を横に振った。

 力持ちだから、斧もいけるかと思ったが、丈がぽこの胸まであって断念する。


「お前さんはチビだからな」


 弓を張ろうとしたら、ぽこが何か細長い布を見つけてきた。


「これ! これはどうですか?」


 羊毛を編んだ手製のスリングを見て、知らず知らず目を細めてしまう。

かつての仲間の初期装備には、思い出が多い。


「よし、試してみるか」


 スリングは、遠心力を利用して石などを投げる武器だ。単純な構造で、特別訓練もいらないのに、攻撃力はある。


 納屋から出て、すぐの木に、ナイフで×印を入れて、離れる。

 ぽこは、二度何も入れずにスリングを振り回した後、足元の石を試し打ちした。


 空を切るスリングの音の後、鈍い音がして、命中した。


「ほぉ。いいコントロールしてるな」


 顎鬚を撫でながら、感心すると、ぽこは小さくガッツポーズした。


「スリングは、里の兄たちと一緒によくやりましたから!」


 スリング遊びをするたぬきは想像できないが、まぁ、いいだろう。


「さて、じゃあ、出かけるか」


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