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たぬきの嫁入り  作者: 藍色 紺
序章 手を差し伸べるのなら最後まで
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4話 ぽこと初仕事②

 街の北側にはお椀型の山があり、なだらかな裾野に林がある。インマーグの街を抜けて、林に入り、切り開かれた林道を山へ向かうと、北の洞窟にたどり着いた。


 そこだけ不自然に盛り上がった岩肌に裂け目が開いている。


「お、階段になってるぞ」


 リーダー男が驚くのも無理はない。洞窟にスライム退治に来て、道が整備されているだけでなく、階段まである。とは言っても、倒木で階段状にしただけの代物だ。


「氷室として利用されているからな」


「氷室?」


「あー。うちの村にもあったな。真夏でも結構涼しいからさ、いろんな物を保存できるの」


 治癒士の女の説明に、俺以外が感心する。

 たぬき娘は、小さな鼻をひくつかせた。背中には大きな布を器用に折り畳んで、リュックのようにした荷を担いでいる。

 林の中で拾った枝や松かさが大量に入っていて重いはずだが、苦なく歩いているから、案外、本当に力持ちなのかもしれない。


「じゃあ、この洞穴は安全ってわけか。つまんねぇ」


 リーダー男が、地面を蹴って洞穴へ一気に降りた。喘ぎ声の後に、激しく咳き込む音が洞穴をこだまする。


「大丈夫⁉」


 治癒士が階段を駆け下りようとして、攻撃役の女がそれを留めた。


 なかなか賢い。二次災害を出さぬために慎重に行動するのは大切な資質だ。


「ベテランさん。どういうこと?」


「さてね」


 眼光鋭く睨んでくるのをかわして、階段を下りると、リーダー男が咳き込んだ理由はすぐにわかった。

 俺のすぐ後をたぬき娘が降りて来たが、鼻と口は既にマフラーのようなもんで覆ってある。上で既に異変に気付いていたのだろう。そういえば、鼻をひくつかせていた。


 たぬき娘の後、遅れて新人の二人も降りてきて、すぐに鼻を塞いだ。


「臭い」

「凄い匂いね」


 洞窟の奥から、魚が腐ったような匂いがする。


「今年は腐敗が進んじまったようだな」


 しゃがみこみ、たぬき娘のリュックから木の枝を取り出し、先に松かさをつけていく。接着には粘土を使う。

 俺の手元を確認したたぬき娘が、真似始めた。


 押しかけ女房なんて突拍子もないことを言い出すが、新人たちよりも慎重だし、よく動く。

 酒が入って油断していたとしても、俺を起こさずに一階で料理できたことからも、手際がいいのだろう。


「腐敗って?」


「ここにはスライムが大量に湧くが、あいつらは寒さに弱くてね。ほら、ここ最近朝晩は冷え込んだだろう」


 真夏に氷室の役割をする洞穴は、もっと冷える。


「死んだのが、昼の温かさで腐ったってわけさね」


「全滅してたりして」


 リーダー男が、洞穴の奥へ首を突っ込んだ。


「まだいるわー」


 いるわーいるわーいるわーと、洞穴へ反響する。


 えづきながら、顔をこっちへ向ける。


「ぐっすらいる」


 リーダー男を真似して、攻撃役の女と治癒士の女が続いた。


「本当だ。壁にびっしり! でもさ、寒さに弱いなら、放っておけばよくない?」


 始まる前に嫌になるほどいるらしい。仕事量に俺までうんざりしちまう。


「冬は森の生き物の餌が減るからな。スライムは他の魔獣の餌になるのさ。街の近くまで魔獣が降りてくるのはまずいだろ」


 街の安全を守り、氷室として利用するために、この時期の駆除は必須だ。俺が一人で請け負うこともあるが、何日もかかっちまう。新人がいれば、引率する方が効率がいい。


「ところで、ベテランさん、さっきから何してンの?」


 林を抜ける間に拾わせた大量の枝と松かさで作った簡易松明に、魔術道具の指輪で火をつける。開いた松かさはよく燃える。


「こう使うのさ」


 立ち上がって、すぐ近くの壁に張り付いていた半透明のスライムへぶっ刺す。

 炎が消える音がし、煙が上がる。スライムは力を失って、壁から剥がれ落ちた。


「簡単だな」


 スライムは低級の魔獣で、火にめっぽう弱い。コツさえ知っていれば、拍子抜けするほど楽に倒せる。


 たぬき娘が簡易松明を作り、俺が種火用のちゃんとした松明から松かさへ火を移す。火のついた簡易松明でスライムを倒すのは新人たち三人の役割だ。


「面白いように退治できるな!」

「うわっ! 何か液体が飛んで来た!」

「治癒魔術を!」

「まだヒリヒリするわー」

「一撃でいけるときと、そうでないときがあるな」

「見てみて! 色が違うのがいる」

「どれどれ? 本当だ」


 奥から騒がしい声が響いてくる。楽しんでいるようで何よりだ。


「楽しそうですね」


 たぬき娘のつぶやきに、喉が鳴った。

 やはり子供だ。


「混じるか? ん?」


 簡易松明もあるし、治癒士もいるから、安全だろう。


 たぬき娘は、手を動かしながら、首を振った。


「私が言ったのは、ベテランさんのことです」

「俺が楽しそう?」


「笑っていますよ」


 そうか。笑ってたか。


 何が楽しいのやら、たぬき娘は笑顔で作業を続ける。ゆらゆら揺らす頭の動きにつられて、ふわふわの髪が揺れる。



「結構奥行があるんスね」


 スリルはないが、それなりに楽しいらしいリーダー男が、奥から話しかけてきた。


「今、全体のどのくらいだ?」


 手持ちの簡易松明の材料は残り少ない。


「そうっスね。残り五分の一ってとこっス」


例年より多いようだが、どうにか足りそうだ。


「松明は使えるか?」


 料理してたくらいだから、たぬき娘は火を使えるのだろう。念のため聞くと、たぬき娘は頷いた。


「どこ行くの?」


「次は、穴を掘らにゃいかん」


 簡易松明を取りに来たリーダー男を捕まえて、男二人で地上に出る。

 クエスト屋から借り出した大きなシャベルで、すぐそこの林に大きな穴を掘った。

 文句も言わずに指示に従ってくれるから、楽でいい。

 後先考えないところはあるが、素直で働き者らしい。


「あの穴、何に使うんスか?」


 階段を降りれば、全員が階段下に集まっていた。


「スライム退治は終わったわよ。あっけなかったわね」

「これを持って帰ればいいのなら、割のいい仕事かも」


 清々しい表情の新人三人に、首を振って否定する。


「ここのスライム退治は、全部で三行程。今は、その一つ目が終わったとこだ」


 抗議の声が上がるが、そのまま続ける。


「次が腐ったヤツを土に埋めること」


「さっきの穴は、それか!」


「最後に、新鮮なスライムを運び出す」


「ちょっと待って。腐ったのを埋めるのは、スライム退治じゃないわ」

「危険はないのだし、街の人がすれば?」


 文句を言われるのには慣れている。


「クエスト証を見てみろ」


 リーダー男が取り出したクエスト証には、スライム退治の文字の後に、『北の洞窟内のスライム清掃』とあった。

 再び、三人は抗議の声を上げた。


 やはり読んでなかったか。

 有名な冒険者になるのには二つのタイプがいる。一つは全てを跳ね返すような腕っぷしと幸運に恵まれたヤツ。二つ目は、強くて慎重なヤツだ。

 有名な冒険者になるヤツであっても、誰しもが最初は慎重さを欠いている。


「ロンメル国には、国軍がある。領主は自前で騎士団を持っている。両方が、有事のための戦力だ。その上で、公共事業としてクエスト屋があるのは、俺たち冒険者の仕事の大半が、人助けってことだ」


 引率の仕事をする関係で、この手の話は澱みなくできる。

 新人冒険者は、血気盛んで夢見がちだ。


「この手の仕事を積みながら、迷宮のクエストが出るのを待つか、大型魔獣が現れるのを待つ。運良く手柄を立てれば、お前さん等が思ってるような迷宮や大型魔獣討伐のクエストが優先的に割り当てられるようになるぞ」


 だから、目の前の仕事を頑張れよと励ますのも忘れない。


 質の悪い冒険者は、スライム退治を引き受けて、大型魔獣を引き寄せるのに使うのもいるが、人命優先のクエスト屋はわざと危険を引き寄せるパーティーを許さない。そもそもクエスト屋の所長になるヤツは、元冒険者で経験豊富だ。不正はほとんどが見抜かれてしまうのが現状だ。


「だぁぁっ! くそ! 面倒くせぇけど、やっちまおう」


 リーダー男の一言で、新人たちが動き始めた。


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