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たぬきの嫁入り  作者: 藍色 紺
第4章 穴に入り狸を得よ
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38話 ぽこと大屋根山の主①

 床がうっすら青白く発光し、足元がぼんやり照らされる空間を、六名で走る。

 地面から生える氷柱に身を隠し、安全が確認できたら次の氷柱へと移動するのを繰り返す。


 ノームの集団は振り切っても、すぐに次の集団が押し寄せた。

 前から後ろから、左から右から。

 ヤツらのカンテラを見るのが嫌になるほどの数を倒しながら前へ進む。


 食事用のフォークやナイフならまだいい、肉屋が使うような刃渡りの長い包丁や、農業用の大きなフォークで刺されたら、致命傷になる可能性がある。


 治癒術が期待できない中、怪我はできるだけ避けたい。

 しかし、武器が使えるのが俺と暗殺者の二名では、埒が明かない。


「これ、道分かってるのか⁉」


「まさか!」


 盾役の疑問に短く答えた。


 根拠も理論もなく、ただの勘で前へ進む。

 留まって、四方を囲まれるのだけは避けたい。


「畜生! なんでノームがこんなにいるんだ⁉」


 通常なら一つの坑道に数匹で住み着くだけだ。確かに不思議だが、十年前にも同じようにノームの群れが大屋根山に沸いた。

 あの時は、いつの間にかノームはいなくなったように思う。正直、ノームだけでなく、その後の経過はよく知らない。

 兎に角、あれっきり聞いたことがない。

 つまり、ノームは異常発生してるってわけだ。


 ノーム釣りをしていたときには、入れ食い状態を喜んでいたが、今となっては、その数が恨めしい。


「危ない!」


 突然足元に沸いた光に驚く。

 ノームの顔に、石礫が命中し、出刃包丁を振りかぶっていたノームが卒倒した。


 ぽこのスリングショットか!


「助かった!」


「お任せください!」


 ぽこの声を聞いたら、気合が入る。


 考え込んでいる場合じゃあない。

 何をしてでも、こいつらを生きて地上に戻さにゃあならん!



 次の氷柱へ、またその次へ。

 ふと、聞こえるのが、自分たちの荒い息遣いだけだと気付く。


 ノームはどこに?


 いつから、ノームたちのけたたましい声が消えた?

 ぽこがやっつけたノームを最後に、聞いていない。


 暗闇の四方をぐるりと観察するが、どこにもノームの気配はない。

 俺の様子に、盾役と魔術師も辺りを探り始めた。


 索敵能力に優れた暗殺者が、氷柱に張り付き、手で俺たちを招く。

 氷柱の影に隠れれば、より一層静寂が覆いかぶさってくる。


 ぽこが息を呑む音がして、視線の先を見れば、青白く発光する地面に、氷の結晶が伸びてきていた。


 あいつだ!

 記憶が鮮明に蘇った。


 ぽこの頭に耳が生え、スカートの裾から尻尾が垂れ下がった。

 恐怖のため、化け術を維持できなくなったらしい。


 そっとフードを被せて、黙っていろと合図を送る。

 ぽこは、瞼を伏せて、理解したと示した。


 鳥肌が立つ。

 氷柱と氷柱の間から、影が落ち、柱の向こう側に巨大な何かがやってきたことを告げた。


 先刻まで地面に咲いていた氷の華は、一面霜に覆われて見えなくなった。

 天井にぶら下がっていたはずの氷柱と、地面に生えている氷柱の両方が、何者かにぶつかり、砕ける。


 若手四人の目は、恐怖に見開かれ、閉じられない。

 歯の根が合わないのか、小刻みに歯が鳴る音がする。


 それは重い身体を引きずるように歩き、吐く息の冷気がダイヤモンドダストとなって舞う。


 ちょうど俺たちが隠れる氷柱の真後ろを通ったとき、真上から何かが降ってきて、凍り付いた地面に当たって砕けた。


 破片のいくつかで元ノームだろうとわかる。

 隠れていたがつもりだろうが、巨大な何者かに見つかったのだろう。


 巨大なそれは、砕け散ったノームに一瞬気を取られたが、また、身体を引きずりながら歩き出した。


 通り過ぎていくだけで、体感温度が全く違う。


 僅かばかり、心の余裕ができる。


 砕け散ったノームは、ここにアレが迫っていると知っていたはずだ。

 もしかして、近くに逃げ場所があったのか?


 ぽこが、服の裾を引っ張った。

 大きな瞳が、壁の一点を見つめている。


 そこには、ノームサイズの穴があった。


 あれか。


 ノームなら余裕で入られるが、巨大なアレには見つからない大きさだ。


 ぽこに頷くのを見て、暗殺者が他三人に穴の存在を視線で伝えた。


 だが、既にノームが中にいるかもしれん。

 使わないに越したことはない。

 中がどうなっているのかもわからないのだし。


 あいつは、もう行っただろうか?


 首をひねって、影が消えた方を見た。

 目の前に、巨大な目玉だけが見えた。

 大きすぎて、最初、それが目玉だと理解できなかった。


 あの目だ!

 学者と生態観察に来たときに、巨大な二足歩行の魔獣と目があった。

 あいつだ!


 息を吸うことすらできない。

 圧倒的な存在

 またこいつに出会うことになるとは!


 木枯らしのような風が吹いた。


「息を吸ってる!」


「ブリザードブレスが来るぞ!」


 治癒士の大声で、一斉に穴へ向かって走り出す。


 最後に俺が飛び込んだ。足の先を、凍てつく冷気が吹きすさぶ。


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