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たぬきの嫁入り  作者: 藍色 紺
第4章 穴に入り狸を得よ
36/44

36話 ぽこと氷窟④

 目を開けると、最初に見えたのは薄暗い中、握りこぶし程度の大きさの光だった。

 そこから雪がパラパラと落ちてきて、ようやく状況を把握する。


 大屋根山の氷窟に入り、ノームの坑道崩しにあった。

 そのせいで、雪崩が起き、地表に空いた穴に落ちたのだ。


 ということは、あの光は地表の出口か。

 よくあんな高さから落ちて、死ななかったものだ。


 ‼


「ぽこ!」


 勢いよく上体を起こし、辺りを見回す。

 すぐ脇に倒れていたぽこを見つけて、にじり寄り、全身を確かめる。

 左太ももに、折れた木の枝が刺さっている。


 喉に苦いもんがこみ上げてくるのを、奥歯を噛んで耐える。

 腰の道具入れから、丸薬を取り出して、歯で割り、一欠片分だけ取った。


「ぽこ、ぽこ」


 震える声で呼びかけるが、ぽこの意識はない。

 唇に手をかざし、呼吸の有無を確かめる。


 よかった。息はある。


 一欠片の丸薬を噛み、粉々に砕いてから、僅かな水と一緒に、口移しで飲ませる。

 上下する喉元を見てから、ぽこの太ももに集中した。


 丸薬の治療効果が効いている内に、枝を引き抜かなきゃな。


 ぽこの身体を横たわらせて、大きく張った腰に身体を寄せて固定する。

 枝を掴んで、大きく深呼吸した。


 でかい血管を傷つけていなけりゃいいが。


 治療薬で傷は治せるが、失った血は戻せない。

 万一に備えて、少しでも早く回復させるために先に服用させたが、どのくらい出血するかはわからない。


 枝を引き抜こうと力を込めると、ぽこが痛みに呻いた。


 一気にやるぞ!


 腹をくくって、太ももに食い込んだ枝を引き抜いた。


 洞窟内に、ぽこの悲鳴が響く。


 懸念していた大きな出血はなかった。

 傷口から溢れる出血を、綺麗な布で押さえながら、治癒を見るのももどかしい。

 液体の治癒薬をぶっかけたいが、丸薬の強い効き目を知っているだけに、併用は避けたい。

 少しずつ傷口が治っていくのを見守り、最後に星型の傷跡が残った。


 腹の底から長い息が出る。

 その場で尻をついて座り込み、頭から顎を撫でおろした。


 見えない身体の内側の損傷も気になるが、治療薬が効いてくれるだろう。


 起こして声が聴きたい。

 いつものように、俺を呼んで欲しい。


 身勝手な希望を抑える。


 落下と怪我のダメージは、治癒薬だけでは拭い去れないはずだ。

 自然に起きるまでそっとしておき、身体が自然に癒えるのを待つべきだ。


 頭ではわかっていても、身体が自然に動いてしまう。


 横たわったぽこの額に額をつける。

 冷たい額が死を連想させた。


 ぽこがうっすら目を開けた。


 優しくて温かな瞳を至近距離で見つめる。


 何と声をかければいいのかわからない内に、ぽこはまた目を閉じた。



 雪崩に巻き込まれる前に、確かにこの胸に抱き寄せたのに――。

 自然の前に、命が零れ落ちるのは、何と容易いことか。


 己の無力さに吐き気がし、これではいかんと頭を振った。


 それでも、ぽこは助かった。

 助かったのだから、何が何でも、ここから脱出せねばならない。

 意識を切り替える。


 散り散りになっていた、闘志をかき集めて、周りを見た。


「あいつらは?」


 若手四人を探す。


「ここにいるゼぇ」


 魔術師の声が上がり、無事を確かめると、次に雪の中から腕が飛び出した。

 駆け寄って、生き埋めになった盾役を掘り起こす。


 空気を求めて喘ぎ、雪の上で大の字になって寝ているが大丈夫そうだ。


 次に見つかったのが治癒士、脚が妙な方向へ曲がっていて、声を出せぬほど苦しんでいる。


「治癒薬を飲ませる前に、骨を元の位置に戻すぞ」


 魔術師が、治癒士が舌を噛まないように木の枝を噛ませて、腕を羽交い絞めにする。

 盾役と声を掛け合って、一気に骨の位置を戻す。


 苦悶の声が響き渡り、治癒に当たる俺たちも焦る。

 治癒士を失うというのは、こういうことだ。意識がある内は自分自身に治癒魔術をかけることもできるが、こうなっては苦痛が伴う。


「暫く安静にさせておけ」


 盾役が腰に付けていた治癒薬を飲ませ、そのまま雪の上に横たえておく。


「もう一人はどこだ?」


「ここだ」


 声が妙なところから聞こえる。


「上だよ」


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