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たぬきの嫁入り  作者: 藍色 紺
第3章 近づいて離れて
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23話 ぽこと岩鳴り山①

 墓参りを済ませ、クエスト屋に顔を出す。


「ベテランさん、いらっしゃい」


 クエスト屋の受付がにこやかに迎えてくれる。

 インマーグは田舎だから、クエスト屋と言っても、所長と受付の二人しか職員はいない。

 彼女が、クエスト屋の雰囲気を解放的にしていると言っていい。

 実は二人は親子だが、強面のじじいが奥に座って睨みを利かしているから、いい具合にバランスが取れている。


「ちょうどよかった。仕事が入ってますよ」


 クエスト屋の受付が、指を口に当てて、声量を抑えるようにジェスチャーした。


この間、四人で囲んだ応接セットの長椅子に、まるで骸骨のように痩せた老人が座っていた。

 薄い汚れた外套を着て、脚の間についた杖をつき、その上に顎を乗せて居眠りしている。

 規則正しいリズムで鼻提灯が出ては引っ込む。


 ローテーブルの上には、書かれたばかりのクエスト受注証が置かれていた。


クエスト内容 : 雪ヶ岳連峰、岩鳴り山の生態調査補助、及び、調査員の護衛と資材の運搬

達成報酬 : 金貨一枚

達成条件 : 生態調査完了、及び調査員の無事

追加報酬 : 調査中に倒した調査対象外の動植物の持ち帰り可


 雪ヶ岳連峰? 大量にカンテラが出たのも雪ヶ岳連峰じゃなかったか?

 俺にとっていわくつきの場所だが、山に囲まれたインマーグでは、特定の魔獣討伐や、生態調査は、日常的に行われる。


「調査対象は何か聞いてるか?」


「調査対象?」


 クエスト屋受付にした質問で、依頼主が目を覚ました。鼻提灯が弾ける音が渇いた部屋に響いた。


「調査対象は、鮭じゃ」


「岩鳴り山の川で、鮭となると秋川?」


 秋川は、岩鳴り山から出でて、海まで続いている。その名の通り、秋になれば鮭が遡上して、人も獣も自然の恩恵に預かれる。


「話が早くて助かるのぅ」


「ベテランさんに任せておけば安心ですよ~」


「そのようだ」


「一口に川と言っても、どの辺りを調査するつもりだい? 場所によっちゃ回り込まにゃならんし、難所も多い」


「行けばわかる」


 気付かれないように深呼吸する。

 新人冒険者たちの多くは、血気盛ん過ぎるのを管理すればいいのだが、この手の学者は言葉が足らないことが多く、意図を汲むのに苦労することが多い。


「あぁ~、生態調査するってことは、あれだろ? なにか影響が確認されてるんだろう? そいつから教えて貰えませんかね」


「ふむ! 見込みのある男だ! いいだろう。熊だ。君」


「熊ねぇ」


 ちらっとクエスト屋受付を見て、視線で翻訳を頼む。


「秋頃から、ハイインマーグ村の近くで熊が目撃されているんですよ。今のところ、村に入ってきてはいません」


 ハイインマーグは、岩鳴り山の台地にある小さな村だ。


「山から熊が降りて来るってことは、食べもんを探してるってことか。それで、秋の主食の一つである鮭を調査するってことになったんだな」


「そうじゃ、遡上した鮭の数は、例年と変わらんと報告が来ておる」


「ははん。だから、もうすぐ冬だってのに、はるばるインマーグまでいらっしゃったってわけですね」


 顎鬚を撫でながら、熊が鮭を獲るポイントを考える。いくつか候補を脳内で上げて、その内、調査が困難な場所を外して提案する。


「よし、今から出発じゃ」


「今からですかい?」


 聞き返してしまうのは、もう昼に近いから。

 普通なら、今から調査に必要な道具を調達して、上手くいって明日の朝出発だ。


 説明しようと、口を開こうとしたとき、クエスト屋の扉が開いた。


「カマラ先生、注文を受けた資材が整いましたよーっと!」


 調子のいい声で入ってきたのは、ジョアンだった。

 後ろから、ぽこまでついて来る。


「ぽこちゃん! 今回の仕事は、荷物持ちの出番よ」


 クエスト屋受付から呼ばれて、ぽこは「ひゃい⁉」と目を大きくした。

 ここのところ連続でぽこに仕事を振れなかったことを、クエスト屋受付も気にしていたようだ。


「お前さんが資材を集めたのかい?」


 ジョアンを観察してしまう。


「村をうろうろしてたときに、歩けなくなったカマラ先生を見つけてさぁ。俺がおぶってここまで連れてきたの」


 学者が上機嫌で外に出て行き、発注したという資材をチェックし始めた。


「あれこれ物入りだって話だから、儲けさせてもらったよ」


 へこんだ腹を叩けば、小太鼓のような音が響いた。


「木の葉じゃないだろうな?」


「ははっ。どうだかね」


「使えなけりゃ、ぽこが苦労するぞ」


 ジョアンが挑戦的に片方の眉を上げた。


 あぁ、そうかい。クエストでぽこが困るのも計算の内ってわけだ。


「皮算用にならんといいな?」


「言ってくれるじゃん」


 睨み合う俺たちの向こうから、ぽこが資材の多さに驚く声が聞こえてきた。


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