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たぬきの嫁入り  作者: 藍色 紺
第3章 近づいて離れて
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19話 ぽこの事情②

 朝一番から、予想外の来客に時間を取られ、折角の朝食を味わうことなく、流し込む羽目になった。


「おっさんが食えない分は、俺が頂くから」


 ちゃっかり食卓についているジョアンを無視して、ぽこが自分の分だけ食べ始める。


 つい先刻、今日の俺の仕事が、昨日の冒険者たちとの続きだと知り、参加できないぽこは頬を膨らませたところだ。


「ぽこぉ。俺の分の飯は?」


「働かざる者食うべからず。招かれざる客お断り」


 ぴしゃりと言い放たれ、ジョアンは情けない声を挙げた。


「そんなぁ。この後、畑作りを手伝うからさ。いいだろ?」


 なかなかいい手をついて来る。

 一から畑を作るのは、骨の折れる大仕事だ。

 冬はそこまで来ており、時間をかけるわけにもいかないのなら、人手があるのは助かる。


 畑仕事を手伝う提案を断られないと分かっているのだろう。お願いする呈は取っているが、ジョアンの表情には余裕が見られる。


 ぽこも同意見だったらしい。僅かな沈黙の後に俺を見た。


「旦那様はどう思いますか?」


「構わないが、用が済んだら出て行けよ」


 今日使う解体用ナイフを腰にぶら下げながら返事する。

 ようやくジョアンにも食事が出された。


「夕方には帰る。今日は汚れ仕事だ」


 正直、ジョアンみたいな軽薄なヤツとぽこを二人にしておくのは、心配だが、仕方ない。

 ぽこだって大人なのだし、大丈夫だろう。


 大丈夫って、何が?


 内なる声が看過できずに、絞り出すように言葉を続ける。


「あ~、ぽこ。今日仕事休もうか?」


 いっそ己らしくない台詞に、顔が熱い。

 ぽこは、にっこり笑ってガッツポーズをした。


「大丈夫ですよ。ジョアンなら追い返しておきますね」


 元気なのはいいが、その細腕で追い返せるとは思えない。


 家を出る寸前で、ジョアンに指を突き付ける。


「いいか? ここは俺の縄張りだ。ぽこに妙なことするなよ」


「たぬきがフェアに勝負すると思う?」


 にやけ顔のジョアンを見て、苛立ちを抑えるのに苦労する。


「何でもありのルールで、俺と勝負したいか?」


 低く抑えた声を聞いて、ジョアンの顔からにやけ顔が消えた。



  ❄



 本日の仕事は、大量のアイスラビットの皮はぎと解体だ。

主力は昨日の冒険者四人だが、やり方を教えて手伝うことになってしまった。


 自信をなくしたあいつらに、クエストの単価を上げる方法として、俺が教えた方法だから、仕方がないのだが、間が悪い。


 ぽこと一緒にできる仕事ならよかったのだが。


 どうも、今日は気分が晴れない。

もやる気持ちを打ち消すために、アイスラビットの後ろ足の関節を音を立てて外す。


「休憩のお茶ですよー」


 クエスト屋の受付が、裏に出てきて声をかけてくる。


 クエスト屋の裏手には、作業場があることが多い。

 解体もやるし、汚れた戦利品を洗うこともある。

 どちらも、少しでも利益を上げたい初心者か、クエスト屋の仕事だが、インマーグの作業場は、俺のもう一つの職場と言っていいほど、よく使っている。


 解体の仕事中に、こんな接待を受けるのは珍しいが、そうとは知らぬ新人たちは大喜びで血だらけの手を洗いに行った。


「俺はいらん」


 クエスト屋の受付へ視線を向けるのももどかしく、次の一匹に取り掛かる。


「ベテランさんの分はもう終わりそうですね。いつもより早くないですか?」


 言われて見てみれば、五等分したアイスラビットの数は、残すところ七羽だった。


「本当だ。凄ぇ」

「終わったら、手伝ってください」


 口々にねだってくるが、甘やかすのと新人引率は別だ。


「断る。今日は早く帰りたいんでね」


 もう十分教えたし、どのみち、後は数を捌いて慣れるしかない。

 新人たちの抗議の声を聞きながら、手早く解体していく。


 俺の仕事ぶりを知っているクエスト屋には、何か聞かれるかと思ったが、何も言われなかった。


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