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たぬきの嫁入り  作者: 藍色 紺
第3章 近づいて離れて
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16話 ぽこの閑暇

 クエスト屋で報酬を受け取り、帰路に着く。


 あぁ、くそっ疲れたなぁ。


 今日受け持った引率は、久しぶりに盾役として働かされた。

 雪ヶ岳連邦の麓辺りにアイスラビットの群れが出て、それを討伐する仕事だったのだが、引率したパーティーの盾役が、全くの腑抜けだったのだ。


 盾役ってのは、兎に角びびっていては話にならない。大声を上げながら、一人で群れに突っ込み、治癒士の治癒魔術を頼りに、ひたすら敵を引き付け続ける。怪我してなんぼの仕事だ。

 それがあの盾役は、俺の後ろに隠れて、攻撃ばかりしていた。


 これも新人冒険者にはよくあることだ。憧れとできることには差異があったりするもんだが、身をもって体験するしかない。


 久しぶりの全身鎧で一日中戦い、疲れ切っている。

 一度に引き付けていい魔獣の数はどのくらいか、新人たちの戦意や集中力は続いているのか、アクシデントで治癒魔術が遅れるなら、手持ちの薬で自己治癒させなければならない。それも、やり過ぎれば、新人たちのモチベーション低下に繋がってしまうから、匙加減が大事になる。


 アイスラビットは、雪と共に現れる魔獣で、角の生えたうさぎ型をしている。襲ってくるまでは、可愛いし無害な印象があるが、繫殖力が強く、群れが大きくなれば、辺りの村を襲う。


 疲労困憊の上、一年ぶりの雪と寒さだ。

腕と足が鉛のように重たい。頭は鈍痛がする。街を抜けるまで堪えていたが、林まで来ると、我慢できずに両手をだらりと下げ、脚は引きずりかけている。

 クエスト屋で報酬を受け取り、解散するまでは、引率兼お手本として、しゃんとしているのだが、人目がなけりゃ、こんなもんだ。


 曲道を抜けたら、目の前に我が家が見えた。いつもなら、真っ暗だが、今日は灯りが灯っている。

 かみさんがいればなぁなんて、呟いたのは、ついこの間だ。


 ぽこがいてくれる――。


 うまいもんを連想し、口中に涎が堪る。自然と脚が早まった。


 俺の目の前を、何か小動物が横切った。



  ❄



 今朝も、ぽこは張り切ってクエスト屋に俺と一緒に行った。

 アイスラビット討伐の話を聞いた後、今日の新人パーティーは、荷運び人を雇いたくないとはっきり断った。


「ベテランさんの上、荷運び人まで雇ってられるか」


 こういう話はままある。

 俺を雇わない新人も珍しくはない。


「ぽこを雇えば、アイスラビットを沢山持って帰られますよ」


「悪いが、あんたみたいなひ弱そうな荷運び人はごめんだ」


 こういう日が続いている。

 一度目は、家が磨き上げられていたし、二度目は一人で薬草摘みに行った。三度目の今回は、ぽこは何をしていただろうか。

 ぽこにはまだ何も言えていないが、働きっぷりに感謝し、もう少し肩の力を抜けと言いたいところだ。



 納屋で鎧を脱ぎながら、川で湯あみをするか否か、疲労具合の兼ね合いに悩んでいたら、ぽこがやって来た。


「旦那様おかえりなさい! 部屋にお湯の用意をしてありますよ」


「ん? あぁ」


 禄に返事もできず、小さな背中を追って部屋に入れば、温かい空気に包まれた。

 食いもんの匂いに、湯気の肌触り。


 湯が張られた桶が置かれ、ぽこは湯の中から手ぬぐいを取り出して絞って寄越した。その手が真っ赤で、受け取った手ぬぐいは熱いくらいだ。

 広げて、顔を拭うと、肺の底から疲労を凝縮したような呻き声が出た。

 顔を拭き終わり、しばしぼんやりしてから上着を脱ぎ、身体を拭う。

 ぽこは、料理をしながら、湯が汚れれば新しい湯をくれた。

 洗濯された服を着れば、昨日まで破れていた膝に継ぎ布が当てられて補修されている。


 塩漬け肉のスープに、蒸かした芋が出されて食べ、暖炉の前でたぬき姿のぽこを膝の上に乗せて毛を手で梳いてやる。

うとうとすれば、二階へ上がるように声がかかった。


 特に何も話さぬまま、ぽこの有難みに感謝してしまう。


「ぽこ、おいで」


 絞り出す声に、一階にいるぽこが反応し、二階へ上がって、たぬき姿でベッドに横たわった俺の枕元にジャンプしてきた。

 優しく抱き寄せると、柔らかい冬毛がほこほことし、さっき食べたスープの匂いがする。


「あったけぇ」


 頭から尻尾の先まで撫でまわす。どこを撫でても気持ちいい。


「旦那様? ぽこを湯たんぽ代わりにしてやいませんか? ぽこは、もっと嫁的なのがいいです」


 腕の中から文句が聞こえるが、もう眠くて仕方ない。


「俺が抱くのは……ぽこだ……けだ……」


 背中に腕が回されるのを感じながら、眠りに落ちた。


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