涙の理由なんて忘れるくらいに
「どうして泣いてるの?」
そう聞いてみても、返ってくるのはか細い泣き声だけだった。アキラは、どうしたものかと思案しながら、目の前で泣いているユキネの顔を見つめていた。涙でぐしゃぐしゃになっているユキネの顔を、それでも美しいと思いながら。
「わかんない……っ」
少し間を置いて、ユキネが口を開いた。
「わからないって、なにが?」
「わかんない……。私、どうしちゃったんだろう。どうしてこんなに涙が出てくるのか、わかんないの……」
「そっか……。思う存分、泣けばいいよ。きっと、疲れちゃったんだよ。ほら、おいで」
そう言って、アキラはユキネの手を取り、ユキネの体を抱き寄せた。ユキネの体が、アキラの腕の中にすっぽりと収まる。アキラの胸に顔を埋めて、ユキネはなおも涙を流し続ける。
「ごめん……」
ポツリと、ユキネがそう呟いた。その声はとても弱々しかった。
「どうして謝るの?」
「だって……、迷惑じゃない? 私、こんな……、私、弱くて、すぐ泣いちゃうし、アキラは、私にすごく優しくしてくれるのに、私、アキラに何も返せてない……」
「そんなことないよ」
ユキネの言葉を、アキラは力強く否定した。
「ユキネが一緒にいてくれるだけで、俺は幸せだし、迷惑だなんて思わないよ。ユキネが苦しいのも、つらいのも、悲しいのも、全部、受け止めるから、大丈夫」
アキラの言葉に、ユキネは、どう返せばいいのかと、言葉が出なかった。
「そんな顔しなくていいんだよ」
そう言って、アキラはユキネの頬を伝う涙を指で拭った。
「……アキラは、優しいね」
弱々しい声で、ユキネはどうにか言葉を紡ぐ。
「ユキネのことが大事だから、優しくするんだよ」
「……本当に、私の事、大事に思ってくれてる? 本当に、迷惑じゃない?」
「本当だよ。迷惑なんかじゃない」
ユキネの問いに、アキラは力強く返す。
「……ありがと。私も、アキラが側にいてくれたら、幸せ」
「お礼なんていらないよ。俺は、俺のやりたいようにやってるだけなんだから」
そんな風に言いながら、アキラは明るく笑っていた。そんなアキラの笑顔を見つめて、ユキネは、胸の内が熱くなるのを感じた。
「……アキラ」
「なに?」
「……大好き」
呟いて、ユキネは微笑んだ。
「……俺も、ユキネのこと、大好きだよ」
少し間を置いて、アキラが言葉を返す。
ユキネは、とても幸せそうに、笑みを深くした。アキラは、少し照れくさそうに、頬を赤らめる。幸せで、胸がいっぱいになるのを感じながら。
そうして、二人は、幸せでいっぱいになりながら、しばしの間、見つめ合っていた。