そう来るか!!
「ありがとうレリーナ。これから俺は新しい俺として生まれ変わり、まったく違う人生を生きていこうと思う。それじゃ」
「ちょっと待ってください!! 私を置いて行こうとしないでくださいよ。それに私の話の影響受けすぎじゃないですか? ヘーシンさんにここまで響くとはさすがに予想外ですよ」
「細かいこと気にするなよ。いいじゃないか。俺は生まれ変わったんだか」
清々しい気持ちがあふれ出して止まらない。いつまでも迷惑ばかりかけていた愚かな俺ではないのだ。待てよ、今の俺ならあいつらに会いに言っても構わないんじゃ? むしろ歓迎される可能性すらある。
「生まれ変わったついでにちょっとあいつらの様子を見に行くとするか。行こうぜレリーナ」
「さっきまでの繰り返しをまたさせる気ですか? 生まれ変わった(笑)じゃないですか。また同じ過ちを犯す気のようですね。悪いことは言いませんからやめておきましょう」
「この状態の俺ですらだめだというのか?」
「いえ、その状態とか以前にヘーシンさんだからダメなんですよね」
心底あきれた顔で俺の方を見てくるレリーナはもう諦めたと言わんばかりにため息をついた。
態度からして俺はまたやってしまったようだ。生まれ変わったところで俺は俺のままってことなのか。人生上手くいかないもんだな。
「わかった。今日は諦めて、町へ帰る。それでいいんだろう?」
「やっとわかってくれましたか? ですが、私を一人置いて帰るのはよくないと思うんですがそれはどうでしょう?」
「えーと、キャプションベーのやつらに紹介してやろうか? 俺ならダメでもレリーナならパーティに入れてくれるかもしれないぞ? それなら、一人じゃないし、危険もなくなると思うんだが」
でも俺が追放されたのにレリーナは歓迎されたりしたら……考えるだけで泣きそうになってきた。
「嫌ですよ。私はパーティを組む予定はありませんから」
「なんだ? そんなにソロ冒険者として活動していきたいのかよ。ソロなんていろいろと不便なことばかりだろ?」
「そうかもしれませんが、私は現状をとても気に入ってるんです。もちろんパーティを組んで活動している方に比べてみれば昇格も思いでしょうし、強敵に挑むのも難しいのは事実です。それでも私はソロであることにこだわりたいんです」
俺にはよくわからんが、レリーナなりのポリシーがあるんだろう。ここまで言われて、パーティに入ったほうがいいなんて言えないな。
「そうか。でもそれなら、なんで俺と一緒に行動してるんだ? これまではソロだったんだろ。このくらいの状況なんて日常茶飯事じゃないのか?」
「何を言ってるんですか!? レッドファングロードなんて普通に冒険者として活動していたら一生出会うことのないほどの大物ですよ。それこそAランクパーティがいくつも集まって狩るようなモンスターですからね!!」
そういえばお姉さんにも一人で行くなんてって、大分しぶられたっけ。でもそんなクエストを普通に張り出してるほうも悪いと思うんだよな。俺みたいなモンスターの強さに頓着ないやつが受注しちゃうじゃないか。
「まあ、レッドファングロードはそこそこ強かったな。つい本気のパンチをお見舞いしてしまったし、おかげで明日は筋肉痛だろうな。しばらく使ってなかった筋肉をフルパワーで使っちゃったからな」
「筋肉がどうのこうののレベルの攻撃ではありませんでしたよあれは。近くで見た私だから言えることですがあれは、隕石の落下にも勝るほどの衝撃だったと思っています」
「流石にそれは言いすぎだろ。俺も普通の人間だぞ。そんな威力のパンチが打てるわけないだろ」
「……そうですね。ヘーシンさんは普通の人間ですもんね」
何か腑に落ちない様子だが、俺はれっきとした人間なのだ。いたって普通の両親から生まれ、田舎の村で育っただけのな。
「ヘーシンさんの強さの秘密はおいおい明らかにしていけばいいでしょう。それよりも私のソロで活動する最大に理由を聞いてくださいよ」
理由? さっきのこだわりがどうちゃらってやつか。まだ話の途中だったっけ?
「それで? なんでなんだ?」
「それはもちろん。かっこいいからですよ。伝説の英雄が一人で強敵を薙ぎ払い、倒していく様にあこがれて私は冒険者になったんです。いつか私もそんな英雄と呼ばれる冒険者になりたいです。さきほどの戦闘でまさにヘーシンさんは私のあこがれを体現したような存在でした。なので、私を弟子にしてください」
「は? 話が飛んで行ってないかそれ? 一人で英雄を目指して頑張るんじゃないのか?」
「もちろんそうでしたよ。でも最近自分の強さに限界を感じていて、気分転換に採取クエストに来たらヘーシンさんに出会ったというわけです。もはや、神様が私にヘーシンさんの弟子になれって言っているようなものじゃないですか!!」
いや、そうはならないだろ。
いきなり弟子とか言われても困るとしか言いようがない。つい昨日パーティを追い出されたばかりなのに……あまりの急展開に俺自身がついていけていない。
「だから、危ないからとか理由をつけて一緒に行動してたんだな」
「実際、危なかったじゃないですか? 私はレッドファングロードどころかレッドファングの群れに襲われても死んじゃいますよ。まあ、いいきっかけではあったかなと思っていますが」
なんてこった。レリーナの行動はまさか計算されていたというのか。恐ろしい子だ。