油断せずにいこう
俺は油断なく、構えレッドファングロードの攻撃にそなえる。
負ける気などさらさらしないが、ブランクのことを考えたときに、なめてかかっていい相手ではないことは俺にも理解できている。こいつの放つオーラからしてこの二年間で我らがパーティが相手してきたモンスターとは比べものにならないほどの強敵だ。全力で相手してやろう。
「ほら、どっからでもかかって来いよ」
右足を一歩後ろに下げ、体を斜めにすることによりためを作った。
これで全力のパンチをお見舞いしてやることができる。どこまでの威力が出るかは今の俺には未知数だが、間違いなく効果のある攻撃になるはずだ。初手はこれで迎え撃つ!!
「ガァルルァァァ!!!」
耳をつんざくような雄たけびを上げたレッドファングロードは鋭い牙で噛みつくように俺に向かって突撃してきた。先ほどまでの雑魚とは比べる余地もないほどに動きが速い。
しかし、俺の目にはしっかりとその姿がうつっていた。
「おらーーーー!!」
ドゴォォン!!! バキバキバキバキ!!!
「は? 流石にやばいだろこれは……」
俺の繰り出したパンチはレッドファングロードを粉々に浮き飛ばしていた。それどころか、俺のパンチの直線状にあった木が幅10メートル程で薙ぎ払われ、見える範囲ではどこまで続いているのか確認ができなかった。
「前はここまでの威力は出ていなかったはずだ……やばい、これ誰かいたりしたら、絶対に巻き込んでる。お願いします!! どうか誰もいませんでしたように」
ほかの冒険者たちが来て騒ぎになる前にさっさとここを離れておこう。うん、俺はただレッドファングロードを倒しただけで、これについては何も知らないし、何も見ていない。そういうことにしておこう。どうせ、誰も見ていないんだから。
「あわわわぁぁぁーーーーー!!!」
え? 俺は突然聞こえてきた声に驚き、そちらのほうを見た。すると、腰をぬかして座り込んでいる茶髪女の子を発見した。
おいおい、ばっちり見られてるじゃないか。どうする? 一体どこから見られていたんだ?
「どうしました? ここすごいことになってますけど何が起きたんですか?」
ひとまず、何も知らない体で話しかけてみることにした。
「な、何を言ってるんですか? あなたがやったじゃありませんか!! 私も巻き込まれてここで死ぬんだと覚悟すらしていたんですから!!」
なんてこった言い訳ができないレベルでしっかり目撃されているみたいだ。
「いやあ、これには深い訳があって……俺もまさかここまで大惨事になるとは思ってなかったんだよ。だって二年間もまともに戦闘してなかったんだからな。知らぬ間に成長してしまってたってことだよ」
「嘘です!! そんな適当な嘘では私はごまかせませんよ。レッドファングの群れを一人で狩っている時から見ていましたが、とても素人の身のこなしには見えませんでした。途中でビックリして気絶してましたが……」
最初から見られてたってことか、俺の隠されし実力がこんな感じで日の目を見ることになるとは……最初はあいつらに見せつけてやりたかったな。
「そうだ!! 俺のこと知らないか? つい昨日Aランクパーティに昇格したキャプションべーのヘーシンって言うんだが」
「すいません。私も冒険者をしていますが、キャプションベーなんてパーティは聞いたことありません。もしかしてレギルスの冒険者ではないんですか?」
レギルス? ああ、隣の町のことか。通りで俺のことを知らないわけだ。なんせ昨日はほぼ全員の冒険者たちが勢ぞろいで俺たちのことを祝ってくれてたもんな。
「俺は、ベルルンの冒険者だ。まだAランクパーティに昇格したばかりだから、ほかの町まで名前は広がっていなかったんだな。それで君の名前は?」
「あ、はい、私はレリーナと言います。レガルスのBランク冒険者です。ここには鉱石の採集クエストで来ました」
Bランクだったのか。それにパーティの仲間たちの姿が見えないが、はぐれてしまったのだろうか?
「仲間とははぐれたのか?」
「いえ、私はソロで活動していますので、パーティメンバーはいません」
女の子でソロ冒険者って言うのは珍しいな。大体どこのパーティでも女の子ってだけで引く手あまたのはずなのに。
それによく見たら、ずいぶん軽装だな。動きやすい服装なのはわかるが採集クエストに来ているようには見えない。
「どうしてないも持ってないんだ? 鉱石を採りにきたんだろ?」
「ああ、それはアイテムボックスっていうスキルを持ってますから必要なものは収納して持ち歩いているんです。すごい便利なんですよ」
「え? アイテムボックス持ちなのか!? ずいぶん珍しいスキルを持ってるじゃないか」
「はい!! このスキルのおかげでソロ冒険者として活動できていますから。今回は報酬がよかったので採集クエストをしていますが本来は討伐クエストにも行ってるんですよ」
すごい子だ。Bランクなのだからそれなりに強いモンスターと戦っているはずだ。それなのにソロで活動しているということはかなりの実力が伴っているということだ。
「それじゃ、採集クエスト頑張ってくれ」
「待ってくださいよ。あんな強いモンスターがいるなんて知らなかったんです。危険なので私も同行させてもらえませんか?」
「はい?」