心配なんだよな
「まさかモロヘイヤにあんな風に思われてたとわな。俺はあいつらの成長の邪魔をしないよう戦闘には参加しないで後ろで指示を出すことに専念してたのに。一体これから何をしていけばいいんだか……」
酒場から追い出された俺はまだまだ賑わいの衰えることのない町をひとり寂しく歩いていた。
今まではあいつらと一緒に楽しく過ごしていたのに、ひとりになってみるとこうも寂しいもんなんだな。逆に言えば俺はもう自重して行くことはないということじゃないか。もう二年間まともに戦ってないし、明日は勘を取り戻しにちょっくらクエストでも受けてみるか。そうと決まれば今日は宿に帰って寝よう。待てよ、宿と言ったらあいつらと同じじゃないか!! 奇遇だなとか言って普通に宿で出くわしたりしたら、流石にやべぇよ。ほとぼりが覚めたころに戻る作戦なんだから。
俺は急いで、長い間お世話になった宿に向かった。
「あ、おかえりなさいヘーシンさん。今日はお一人ですか? 珍しいですね」
宿屋の若き看板娘であるピコちゃんがいつものように出迎えてくれる。今日で俺はこの子ともさよならしないといけないのか。ほんと寂しいな。でも、戻ってこられないわけじゃない。きっと俺は帰ってくるよ。
「ごめん、ピコちゃん。深いわけがあって今日から俺は違う宿に行けなくちゃ行けなくなったんだ。長期宿泊の契約をしていた部屋の解約をお願いできるか?」
「え? 出て行っちゃうんですか?」
ピコちゃんが悲しそうな顔で俺のことを見てくる。
「そんな顔しないでくれ、ちょっとの間あいつらとは別行動することになっただけだから。きっとまた部屋を借り戻って来るよ」
「本当ですか? ……わかりました」
そういうと、ピコちゃんは解約の手続きを行ってくれた。
二年間お世話になった宿とお別れだ。ここしか泊まったことないから別の宿がまったくわからないんだがそれはどうしようか? まあ、適当に歩いてたら宿くらいあるか。
「ヘーシンさん、きっと戻ってきてくださいね。待ってますから」
「ああ、約束だ」
俺は新たな宿を探して旅立つのだった。
適当に歩いていたら、宿を見つけたので今日はそこに泊まることにし、早めに眠りについた。
「……待ってくれ、まだその時じゃなかったんだ!! ……うん? あ、なんだ夢か。そうだよな、俺はもう昨日追い出されてるんだから」
夢ですら、あいつらからパーティ追放を言い渡されるなんてな。まったくいやな朝だ。今日はまだまだこれからだってのに……よし!! 気分を切り替えて頑張ろ。
「結構、この宿いい感じだな。朝飯もうまかったし、当面はここを拠点に活動するか」
ピコちゃん浮気性の俺を許してくれ。
まずは、冒険者ギルドでクエストを探してこなくちゃな。あいつらと出くわしたら気まずいが、あちらから話しかけてくることなんてないだろうし、俺も話すことなんてない。気が付かないふりでもしよう。
冒険者ギルドについた俺は勘を取り戻すのに手ごろなクエストを探しに、クエストボードの前へと向かった。
「今日はどんなクエストを受けようかしら? ねぇモロヘイヤ、足手まといもいないことだしちょっと難易度あげちゃってもいいんじゃない?」
「そうだね、連携も取りやすくなったことだし、今の僕たちがどこまで通用するか試すのもいいかもしれないな」
「おうおう、俺のサポートがあれば無敵だぜ。どんなクエストでも問題なしだ!!」
うん? 聞き覚えのある声がこちらに近づいてきているような……。
危険を察知した俺はすぐにクエストボードから離れ、机の陰に隠れた。
「これなんてどうかしら?」
「なになに、Aランククエストのレッドドラゴン討伐だって!? ポンピンそれはちょっと攻めすぎじゃね
?」
「なに? ビビってるの? カボンス」
「そういうわけじゃないぞ。うん、俺たちなら問題ないだろ」
「そうだね。僕たちの実力を試すには申し分ない相手だとおもうな。今日はこのクエストにしようか、でも危険だと判断したら撤退することも頭に入れておいてくれよ」
あいつら、レッドドラゴンなんて討伐する気か? まだ実力が足りてない気もするが大丈夫だろうか? いやいや、なんであいつらの心配なんてしてるんだ。昨日こっぴどくパーティを追い出されたばかりじゃないか……いや、心配だ。俺も周辺でクエストを受けて、軽く様子見でもしようかな。
俺はあいつらがレッドドラゴン討伐クエストを受注し、ギルドから出て行ったのを確認した後、同じエリアに住むレッドファングロードのクエストを持ち、受付へと持って行った。
「これを頼む」
「あら? ヘーシンさん。もうキャプションベーの皆さんならクエストを受注して出ていきましたよ?」
「いいんだ、今日からしばらく俺は別行動することになったから」
「そうなんですか? ではわかりました……え!? なんでこんなクエスト一人で受注しようとしてるんですか? レッドファングロードなんてAランクパーティが複数で討伐するようなモンスターですよ。本部から要請がきたので仕方なくボードのほうに張り出していましたが……無茶です!!」
あれ、こいつそんな強いのかよ。エリアだけしか見てなかった。不覚。
「大丈夫だから、俺強いんだ」
「そういう問題じゃありません。とにかく無謀です。考え直してください」
こりゃ説得に時間がかかりそうだ。急がないと、あいつらに追いつけなくなっていしまう。
結果、絶対に無茶をしないことを条件にクエストを受注することができた。
よし、俺も急いで向かうぞ!!