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何に対しての謝罪だったのか今もわからない。もしかしたら記憶はないけど、私が自分の母親かもしれないと思ったのかもしれない。それに対しての謝罪だったのかもしれないと思うと、胸が少し熱くなった。
現実的な夏の暑さと胸の暑さはまた違った暑さのようだ。今すぐ全裸になってしまいたいほどのうだる暑さはこれ以上いらないが、この胸の暑さは――いくらもらってもおつりがくる。涙は出るのに。苦しいのに。何も口にしていないのに、何も射していないのに、薬効が出現している。
これも彼が語った夢の登場人物が言ったように、私が母親だからだろうか。
歩きなれた無舗装の砂利道を進むと、幾段にも連なった地蔵が見えてくる。この暑さで色褪せてしまっただろう小さな靴や洋服の類が、地蔵に身に付けられていたり、供えられていたり。
流産で娘を亡くしたときに周作が呟いた言葉を思い出す。彼と手を繋いでここに訪れたときのことだ。彼はこの水子供養のお地蔵様を見てこう言った。
「きっと優しいお地蔵さんが殺したんじゃないかな」
幼い息子の口からそんな言葉が出たことに驚きを隠せずにいた。
私自身、妊娠中に一度だけアルコールを口にしたことがあり、それを負い目に感じていた。妊娠中はよく職場に迷惑をかけた。体調が悪くなれば帰らせてくれるよい上司に巡り会えたが、私の尻ぬぐいは上司の部下たちの仕事だった。陰口を耳にするのは慣れていたが、どうにも私にぎりぎり何か聞こえそうな距離と声量で言ってくるあたりに嫌味を感じた。彼女たちに悪意はなく、偶々聞こえてきてしまっただけという可能性だってあった。でも、私の耳に届いてしまった。重要なのは可能性ではなく、事実。知ってしまったこと。その夜耐えきれなくなって、アルコールに手が伸びていた。
どこの誰かもわからない父親。我が子の置かれるだろう未来が想像できていながら、ましてや身をもってその環境を経験していながら、産むと決めたのは私自身だろうに、一瞬であろうと、そのときの覚悟が消えた私に、母親の資格はない。それでも、母親の肩書は消えない。私がいなくなれば、娘どころか息子さえも守り切れない。
気づけば、私はお地蔵様の前で泣いていた。私と右手を繋いでいた息子が無垢な表情で見上げている。
「俺、全部知ってるよ」
その言葉に私は彼の頭を撫でた気がする。優しくなでたかったのにそれはもうぐしゃぐしゃに。
樹木の葉っぱに揺られてそよ風が吹いてくる。それはとても涼しいと呼べるものではなかったが、このうだる暑さの中で私の腕に鳥肌が立つ。
胸が熱い。
確信した。この子はきっと、誰かの痛みを見透かしている。誰かの不浄や理不尽に流れた涙で開く花。世の中の、誰かの悲しみを養分に育つ花。水や太陽光を必要とせず、綺麗なままで何十年何百年とこの先、生き続ける花そのもの。
人を美しいと思ったのが初めてかのように、その日私はまた、周作と出逢った。




