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「普通に流れていったな」
スマートフォンを便器の中に沈め、水を流してやるとスマートフォンは流れていった。
「流したけど……」そう言うと、女子高生は、よくできました、とでも思ったのか思ってないのかはわからないが、少し口元を綻ばせたように見えた。「じゃあ行きましょうか」どこに? そう突っ込もうとしたが、彼女は寄りかかっていた個室の壁から背を放し、立ち上がった。それを目で追うだけだった。
乱れた服装を適当に直し、彼女は躊躇なく鍵を開け、戸を開けた。小便器の前には男性が一人いたが、彼とは顔が合うはずもないので気づかれなかったようだ。そのまま二人でトイレを出た。
「あのさ、財布おいて来ちゃったんだけど……」
「心配しないでください。私が持ってますので」
彼女は構わず駅構内を歩いていく。目的地が分かっているせいか、足取りは軽かった。ICカードで改札を抜けることに慣れていたせいか、券売機で切符を買う光景は久しく見ていない。吐き出された二枚の切符の内、一枚を彼女は手渡した。改札を抜ける。彼女の背中を追った。
彼女の背中が無防備に見えた。