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萌し。
耳に触れる砂利のざらつき。
一定の間隔で地面に着地する音。
反響。
雨の匂いがした。
皮膚に雨粒が触れたわけではないのに、雨が降っているとわかった。いつからこんなに鼻が利くようになったのか。大好きなあの子の欲している言葉はからっきし汲み取れないのに、雨の匂い、気圧の変化、台風の予兆、地震の前触れ、晴天、曇天、秋晴れ、湿度、空気が乾燥しきった冬の朝、ヒートテックを脱ぐとバチバチしそうな――そういうものには敏感なようだった。
朝、布団の上。まどろみの中、目を瞑ったままで予想する空模様。カーテンの光の通し具合。答え合わせをしようとカーテンを開けるが、最初から答えを知っていた。チートだ、と揶揄されるくらいエイムが正確なストリーマーになった気分で、毎朝口元を綻ばせた。これが、幼少の頃からの日課だった。
今日もまた、瞼の裏で予想した。雨音――雨の匂い――ここはきっと屋外なのだろう。雨音の響き具合から屋外ではあるが、洞窟のようなところなのだろう。苔の様な湿った匂いが頬に触れている。地面の感触から伝わる。
また一つ、雨粒が落ちた。
その響きは、公衆トイレの戸を閉め、鍵をかけたときに響く音と似ていた。薄いトイレの戸に響くあの音。誰もいないトイレに反響するあの音。あの音を聞くたびに安堵を感じたものだ。ここは自分の居場所、幼少から過ごしてきた故郷を庭と呼ぶ江戸っ子にでもなったような感覚を抱いた。最後に駅の公衆トイレに入ったのはいつだったろうか。
瞼は閉じられている。まどろみの中、記憶を錯綜する。「あ、昨日か」そう思い至ったとき、昨日の光景が少しずつ露になっていった。




