表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラフネの造花  作者: 面映唯
37/60

14

 いくら考えたところで自分以外の人間が考えていたことなどわからないのがこの世界のみそだ。それは死人もそうだし、そこら辺を歩いている人もそう。結局のところ、彼らの見ている景色は自分の目を通して見ることはできない。なのに、人は他人と分かり合おうとする。分かり合おうとする行為を美徳としている。本当の意味で分かり合えたとき、何か合図でもくれたらいいのに。例えばそう、こうやって人気のない公園のベンチの上に寝そべり空を見上げている今。都会の空でも星は見えないこともないんだな、と思った今。仕事に行って、家に帰って、偶に遊んで、と、普通の日常を生きていては絶対に抱かないであろう感覚を抱いたとき、人は誰かと分かり合えたと定義出来たら――いやもっと、明確に鈴でも鳴らしてくれたらいいのに。鈴じゃなくてもいい。クイズ番組で耳にする音。メッセージアプリの通知音。誰でもいい。電話がかかってくればいい。もっと何か、明確に、誰にでもわかるように、今見ている夜空に浮かぶ星が、拓朗の視界に落ちてくるような――。


 拓朗は体を起こす。


 たまたま視界に入った人影。コンビニのレジ袋をぶら下げ、口元から白い煙が吐き出され、顔付近を覆う。そのレジ袋と煙に誘われるように、拓朗は公園を後にしていた。


 スマホを持っていたらきっと動画でも撮ったのだろう。その動画にゴシップ誌みたいなタイトルをつけ、動画サイトに、SNSに、投稿する。視聴者のコメントを見ながら優越感に浸る。きっと、拓朗ならそうするだろう。そうしただろう。だが、なぜか、アパートに戻ってもスマートフォンは見当たらなかった。よくあることだ。買った覚えのない洋服がクローゼットにあったり、知らない番号が連絡先にあったり、いつの間にかキャッシュカードにデビットカードが付帯していたり、パラレルワールドを横に歩いているかのような、気づいたらここは、そんな不思議な世界だった。


 何があっても不思議じゃない。人影の後ろを尾行しているうちに、そいつの家にまでたどり着いた。すでに酔っぱらっているのか、尾行に気づかない哀れなそいつの背中を、どん、と押してみる。「なにすんだ!」至極当然の反応だ。地面に寝そべった男。服の上からもわかるビール腹に妙に視線が行く。その男は拓朗に掴みかかろうとしている。掴みかかられたらお終いだ。担ぎ上げられて、道路沿いにある、用水路の柵の向こうに投げられそうな気がする。なぜだかそんな気がした。用水路に落ちたらよじ登って出ればいいだけなのに。なぜだか落ちた後の用水路から見る景色が想像できなかった。だから拓朗はポケットに手を突っ込んだ。きっと何かが入っている気がしたからだ。眠りについた後はいつもそうだった。ポケットの中身が変わっている。勿論、何も入っていないときもあった。でも、この四次元ポケットみたいな拓朗のポケットには、いつもその状況に最適なものが入っていた。簡単だね。馬鹿でもわかる。だって、ポケットに入っていたものを使うだけなんだから。それを使用することで、最適な未来が訪れるとわかっているのだから。


 窪田の姉が父親を殺した未来があるのだとしたら、こんな感じだろう。拓朗は無自覚のまま、手にしたカッターナイフで忌まわしき父親の息の根を止める。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ