3
駅の反対側のコンビニの店員は、大学生でもなかったし、美人でもなかった。この街に住んで以来、初めて立ち寄ったが、なかなかに人の懐に入り込んでくるのが上手い中年女性であった。「兄ちゃん、さては浮気してるね?」とレジに立つや否や、秋好に声を掛けてきた。
煙草だけを買うつもりだったため、手に商品を持っていなかった。まるでおばちゃんと話しに来たみたいじゃないかとさえ思う。
「よくわかりましたね。ついさっき浮気したんですよ。大した理由もなく人は浮気するんだなあって思っていたところです」秋好は「十三番を二つ」と呟く。
「人が何かするのに大した理由なんかないよ。考えてから動く奴にろくな奴はいないね」中年女性は背後の棚に手を伸ばしていた。「あんた平和なんか祈ったことないだろ。でも平和がいいってみんな思ってる。理由は後からついてくるもんだし、そもそもそんなの理由じゃないね」煙草が二つ、ピッピッ、とスキャンされる。
「ちょっと何言ってるかわかんないです」秋好はクレジットカードを画面に翳した。
「そんなもんわかんなくていいんだよ。理由なんかないんだから。ただあんたは喫煙所の外でなーんも考えずに煙草咥えてりゃいいんだよ」
「はい?」
「ダブルピースじゃないかい」
「はい?」
二度も聞き返してしまった。彼女の言っている意味に困惑していると、「あそこの灰皿の横に女の子が立ってるだろ」と中年女性は顎をしゃくった。秋好は振り返る。「ありゃ、あんたに浮気された女だね」
「いや、全然違いますよ。誰ですかあ? あの人、見たこともないわ」潔白であるはずなのになぜか白々しい喋り方になってしまう。
「あんたが見たことないと思ってるだけで、あの子は見たことがあるんだよ。いいからさっさと行って一緒に煙草吸ってやれ」
「なんで俺が」
「当然だろう、浮気したんだから。元カノの面倒は元彼のあんたが見るのが責任ってもんだろう」
「いや、待ってください。そもそも俺が浮気したのは彼氏彼女とか以前に人間ではなくて、コンビニ……」
「うるさい男だねえ。男の言い訳なんて見苦しくて聞きたかないよ。こうなるかもしれないとわかっていながら浮気したんだろ? ばれたら潔く認めて世話ぐらい焼きな」
「いや、ほんとに、ちょっと冷静になってください。今、俺と、あなたの、発言に食い違いが生じていて……」秋好はゆっくり、ジェスチャーを使いながら説明したが。
「いいからいけ!」中年女性が腕を振る。
もうなんなんだ。浮気したのがコンビニだったとはいえ、コンビニでも浮気はよくないのかもしれない――いや、いいだろ! 俺がどこのコンビニに行ったって!
渋々、秋好はレジを離れる。まず、誰なんだよその女は。レジのおばちゃんと仲いいの? 仲いいならおばちゃんが話してあげれば……。
「おい! ダブルピース置いてくな!」背後から声がし、さっきのくだりを理解した。




