祈り
その式は何事もなく進行し、日を超えたあたりで教皇様、大聖女様、そして俺と護衛はその場を去った。
特に偉い人とかに話しかけられることが少なかったのは本当によかった。
まぁ、始まってしまってからは緊張する余裕もなかったから始まる前より楽だったかもしれない。
「はぁ、疲れた......」
結局その後、俺は俺に与えられたらしい部屋まで言われるがままついて行き、その後部屋のベッドにすぐに入る形となった。
以前のギルド所属だったころのような肉体的疲労ならまだ魔法で回復する余地があったけど、こういった精神的な疲労はどうすることもできない。どころか魔力が減ってさらに悪化する可能性もある。
つまり、さっさと寝て回復するくらいしかもう手はないわけだ。
俺はそう自分に言い訳をしながら、深まった夜で一人、ベッドの中で眠りにつくのだった。
「あぁ、良く寝た」
起床した。窓の外を見るとだんだん日が昇ってくるくらいの時間......きっと五時とか、そこらへんだろう、と俺の感覚がそう告げていた。まぁそれを確かめる術は持ち合わせていないが。
俺は昨日そのまま着て寝てしまった礼服を脱いで、それを一応綺麗に畳むと、すぐに用意されていた軽めの神官服へと着替える。
一瞬、いつものローブを羽織ろうかと悩んだが、聖者という宗教での重役を任された人が、教会内で神官服を着ないのもまずいだろうと、その考えを捨てていた。
神官服はやはり、礼服と違って着やすい。
服を重ねるようなものでもなく、中にインナーを着ていても大丈夫なくらいの余裕がある。
「あぁ、そうだ、インナー着替えてないな」
一応、汗とか吸い込んでいるだろうからと一度着た神官服を脱いでから、さらにインナーを脱いだ。
どうやら、胸に傷がない辺り、昨日の刃は胸のインナーまで届いていなかったようだ。
と、俺はいったん下着もすべて脱いで、一度畳む。すっぽんぽんだが、別に暑くも寒くもなかった。
どこかで洗濯をしたいな、という考えを持ちながら、俺は新しいインナーを取り出した。
「失礼します、ロードさ......」
そこで、考えうる中で最悪の形で聞きなれた声――――アミリアさんの声が聞こえる。
俺は今全裸だ。仮にも結婚を許されたとはいえ、まだそれは......
「おはようございます、ちょっと待ってくださいね」
よく考えたら、俺が試練の間にもう見られてた。
そう考えると少し羞恥心も引いてきた。
意識がなかったとはいえ、向こうはもう見慣れてるだろうし。
「は、はい!」
しかしまるで初めて見たような、そんな声の荒げ方でアミリアさんは部屋の外へと出た。
どうしてだろうか。
そして下着を着て、一度脱いだ神官服をもう一度着た。
俺の手際の悪さがありありと出ている。
そう思えば、治癒魔法もそんな面が出ていた、と思いだす。
今までの魔法使用は魔力ごり押しでしていた。どんな傷が、どんな風に、という様子から相手を推測することは身に着けたが、魔力を効率的に使う方法、効率的に大多数を癒す方法は学んだことも、身に着けようと思ったこともない。
それなら、丁度良いしどこかで習えないだろうか。
「ロードさん、も、もう大丈夫ですか?」
外からアミリアさんの声が聞こえる。
そういえば、さっきは裸だったから外で待っていてもらったんだった。――――忘れてたとか、そんなことは決してない。
「はい、大丈夫ですよ」
俺はすぐに答えを返す。するとドアが慎重に開き、真っ赤な顔のアミリアさんが顔をのぞかせた。
可愛い、とつい思ってしまう。
最初は外見はタイプではないと、一般的には好まれる外見だと思っていた。
だが、今となっては全てが愛おしく――――いや、ここら辺でやめておこう。
「どうされたんですか? こんな早朝に」
「あぁ、そうですそうです、昨日、大聖女様から伝言を預かりまして」
どうやら向こうも考え事をしていたようで、俺が声をかけるとはっ、と意識が戻ってきたようだった。
にしても、大聖女様から?
「えぇっと......「昨日のあれを含めて教えますから、祈りを捧げてから私の部屋に来てくださいね」だそうです。昨日のあれって、何かあったんですか?」
「いや......実はよくわかっていないんですよ」
昨日のあれとは、まぁ想像すればすぐにわかる、あの教皇様に放たれた矢を防いだものだろう。
俺の見たことがない力。あれを教えてもらえる、ということだろうが、全く理解ができない。
が、この機に一緒に治癒とバフについても学んでおこう。
「そうですか。まぁとりあえず、祈りを捧げに行きましょう」
「祈り......ですか」
そういえば全くやったことないな。
これも一緒にこの機に学んでおこう。
「はい、行きましょう」
俺はアミリアさんと共に、部屋を出て祈りのための部屋へと移動するのだった。
次回更新深夜です。少々お待ちください。




