商人の嗅覚
俺は建物を出て、屋台が多く建てられている通りに入る。
さっき食べた焼き鳥は普通に美味しかったから、もう一度行くか。
さっきまでは少し寂しかった通りを歩く。
もう道の端は屋台で埋め尽くされ、道は少し歩きにくいくらいに混んでいた。
やっぱりさっきは俺が早すぎたようだ。
辺りの屋台を見ながら俺は少し歩いていた。が、貧乏性なのが出てしまったのか、俺の好みに合わなかっただけなのか、結局何も買うことなくさっきの屋台についてしまった。
「お、さっきの!」
「こんばんわ」
近づいただけで、屋台のおっちゃんは気づいていた。。流石、と言うべきなんだろうか。
偶然なのかはわからないが、彼の屋台には並ぶ人はほとんどいなかった。
まぁ、周りのところのほうがお祭り感がある出し物だから、もうこの状態はずっとだと思ったほうが良いだろう。
全く、美味しいのに残念だ。
「焼き鳥を三本」
「あいよ、銅貨六枚だ!」
「これで」
俺は銀貨を一枚手渡した。すると焼き鳥の前に「ほらよ」と銅貨四枚を手渡された。
品物の前におつりを渡してくれるのは地味に助かる。品物で手がふさがってから渡されるとちょっとめんどくさいからな。
「ほれ、焼き鳥三本だ! 頑張れよ、新たな聖者様!」
「なっ」
クソっ、やられた。
周囲を見回す。
屋台の人間はぎらついた目でこちらを見ていて、数秒前まで歩いていた人は立ち止まってじっと、こちらを興味深そうに見ていた。
どうやら気付いていたのは焼き鳥のおっちゃんだけらしい。
どうせならこのまま黙っていてくれたら、なんて思ったが、やっぱりおっちゃんも商人だ。
思いだすのはあのセリフ。
――――これでうちの屋台も箔が付くってもんよ、聖者様のお墨付き、ってなぁ!
つまり、俺は都合の良い客寄せに使われた、ということだ。
焼き鳥一本の値段の対価では釣り合わないぞ! なんて抗議をしてももう遅いだろう。
それより先に――――
「――――逃げる」
俺はすぐにその場から全速力で走り抜けた。
道行く人の間と間を通り抜け、一度部屋の中へと入る。
するとどうやら教皇様と大聖女様が外に出るところだったらしい。
数人の護衛と一緒に行くようだ。
「ロードよ、これからお披露目会を行うぞ」
急なその言葉を聞いて、俺の脳内は真っ白になった。
「は、はい?」
とりあえず説明を、と思ったころには、もう教皇様と大聖女様は歩き始めていた。
そして結局詳しい説明をしてもらえないまま「こっちに」と言われるがまま、護衛の人と共に移動をするのだった。
次回2/9日午前投稿。少々お待ちください。




