気付いたころには
暗い、暗い道を通る。
アミリアさんの魔力は探知魔法で探せるが、道は反応しないために正規ルートがどれかわからない。
だから時間もないが、あてずっぽうをするしかなかった。
目をならす。
これはバフに頼らずともできる。
暗闇の中で十秒ほど、目を閉じる。
そして目を開けるだけであら不思議。ある程度見えるのだ。
「これで――――」
流石に、あの人たちが光源なしに行けるような場所だろう。松明の燃えカスも、魔法を使える様子もなかった。
俺は魔力の指す方へどんどんと突き進む。
まっすぐに、道なりに。
そしてようやく。
「見つけた!」
「――――ロードさん!? どうしてここに!」
あぁ、やっと聞けた、と心が一気に落ち着きを見せた。
どうやら乱暴されることなく、無事に牢につながれていた――――という表現もおかしいか。だが、怪我をした様子もなかった。まぁ怪我をしても自分で治癒するだろうけど。
「アミリアさん。ずっと俺の側にいてください」
「......えっ?」
心からの言葉をかける。
――――試練の時から、もう気付いていた。
アミリアさんが好きなのだと。
この数日で惚れるなんて、我ながらちょろい、とも思った。だが数日にしては、俺の中では密度が濃すぎた。十分すぎる経験をした。
俺はもう、アミリアさんがどこかに行くことが考えられないくらいに、日常にいてほしいと、そう願っている。
――――だから、もう危険な目には合わせない。絶対に、離れたりはしない。
すぐに俺は身体能力をバフで一気に増加。
「うらあああぁぁぁぁああ!!!」
俺は牢を握ると、そのまま左右に無理やり力を籠める。
鍵をあの盗賊たちからとることを失念していた。凡ミスもいいところだ。
「うらあああぁぁぁぁあああ!!!」
しかし、貧弱な肉体に貧弱なバフをかけたところで、その牢はびくともしなかった。
だが、俺はその程度で、諦められるわけがなかった。
すぐそこに、手が届く所にいるというのに、俺が助けなくてどうするんだ。
「うるああああぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」
さらに力が強くなる。
筋肉が千切れ、再生する。
いつの間にか、体のリミッターは壊れているようだ。
バシュ、バチンと血が噴き出し肉が弾ける音が洞窟内に響く。が、すぐに肉体は修復される。
そしてようやく、牢の鉄棒が歪んだ。
「うらああああああああ!!!!」
最後の雄たけびだというように声を上げ、俺は無理やり腕を開いた。
するとバキッ、と軽い音を立てて鉄の棒は折れた。
やった、と息を吐いた俺のもとに、牢から出たアミリアさんが。
俺は肉体を治癒する。
痛みが引き、激痛が走っていた肉体も元通りだ。
「ロードさん」
アミリアさんは、小さな声を漏らす。
「アミリアさん。愛しています」
静寂――――
そして、どちらからともなく、動いた。
「んっ――――」
唇と唇を接触させる――――キス。
それはわずか数秒のことだっただろう。
だが、それは二人にとって、とても重要な数秒間だった。
唇が離れる。
二人は見つめあいながら――――その余韻に心を震わせた。
「この責任、取ってもらいますからね?」
「――――取れる責任なら、いくらでも」
俺はすぐにアミリアさんを抱え上げる。
そしてバフをかけると、いつもの、貧弱な体で来た道を戻り、洞窟を脱出するのだった。
これをやりたかったが故の、これまでの前ぶりだった。
長かった、長かった。(最終回ではないです)
一応、十万字を目指して書いていますので、あと五分の二。
と言ってみれば結構な量残っているのに最終回みたいなことをしてしまいました。
次回は2/5日夕方予定。まだまだこの物語は続いていきます。いつか終わりの時を迎えるまで、そしてその先も。三者三様の想いを胸に、楽しんでいただければ幸いです。




