盗賊の決断、俺の決断
「俺たちが出会ったのは裏路地だった。金がなくて、死にそうだった時に、今のボスに拾ってもらった」
そう言って、彼は――――きっとこの集団のリーダーであろう男が前に出る。
熱が入ったのか、武器も持たずに俺に接近する。
「ボスは言ってくれた。『一部が富を独占する国は、世界は、間違っていると思わないかい?』とな」
そのボス、というのがきっとこの集団――――組織のボスなんだろう。
にしては、勧誘活動をボスが行うというのはそれだけ特殊な集団なんだろうか。
「俺は答えたんだ。『間違っているさ。でも、変えようのない現実だ』って。でも、ボスはそれを否定したんだ」
接近する足は止まらず、彼はついに俺の目の前に来た。
正直彼が毒物を持っていたらその時点で終わりだ。一応程度のバフも自分にかけたのはいいものの、本当にこれで守り切れるかはわからない。
「『この世界は変えられる。俺たちの手で』と、手を差し伸べてくれたんだ」
この昔話はいつまで聞かされるんだろうか。
そう思ってむっとした顔をしていたら、聞き飽きた俺の様子を見てリーダーによって話が転換された。
「つまりだ。俺たちは、世界を変えるために、まず国から変えるのさ」
「具体的に、何をして」
俺が詳しく聞いていく様子を見て、兵士が裏切りを疑う素振りを見せる。
しかしそれを無視して、俺は話の続きを促した。
「まずは富を独占している貴族を殺した。それを貧しい村に配った。あとは裏とつながっている貴族を殺して、その利益をまた配った。これからも同じさ。裕福な貴族を狙っては、それを持つべき人に分け与える。つまり俺たちは盗賊じゃあない、義賊なんだよ」
義賊、つまり正義のもとに活動をする盗賊、と言ったところか。
確かに、活動自体はそうだと言えそうだ。
「それで、何の罪を許せと?」
俺は本題に入る。
アミリアさんを拘束した理由を説明しないことには、こちらも考えられない。と言えば、彼らは「それもそうか」と納得を示す。
「俺たちの許してほしい罪ってのは、さっき言った貴族を殺した罪さ。どうもお偉いさんは自分可愛さにすぐに指名手配を出しやがった。それを取り下げさせてくれ」
どうやら、彼らの要求は同じようで、頷いているものがほとんどだった。
「家族と会えないんだ」
「嫁が」
小声でつぶやく人がちらほら。どうやら家族に内緒で活動していたりとかもあったらしい。
「ちなみに、そこに隠れている二人も同じか?」
「......ばれていたのか、そうだ、要求は同じだ」
そう言って、洞窟入口に隠れていた二人も前に出てきた。
とはいえ、洞窟に素通りさせてくれるほど、彼らと洞窟の距離は遠くない。
だが、作戦の準備は整った。
俺は一斉にバフを使用した。身体強化をはじめとする、いつもの強化フルセット。
対象は味方の兵士のみ。
そして自分自身にもバフを再使用した。
それが、合図だった。
俺は、『バフをかける』合図を出してから我一番に洞窟へと駆けだした。
その瞬間、盗賊の彼らには確実に動揺が広がっていた。
そしてその瞬間。
「やっぱりか!」
リーダー格はやはり腰に武器の短剣を持っていたようだ。
それを即時に抜くと、手慣れた動作で俺の胸へと突き刺す。
「今回ばかりは助かった......!」
バフを貫通し、一直線に俺の急所目指して放たれた短剣は鎧のように分厚い服に阻まれ、傷一つつけることが出来なかった。
「クソっ」
そう悪態をつくリーダーをよそに、俺は探知魔法を使用。
やはり、隠れていた二人で最後、洞窟にはもう誰もいない。
俺はその己には貧弱なバフを頼りに間を抜けていく。
追いかけてくるリーダーに、通すまい、と盗賊たちの間をすり抜け、俺は洞窟の中に侵入。
――――突入する、作戦はこう――――
少し遡り、会議を行っているとき。
「簡単、俺がバフをかけたのを合図に、一斉攻撃を仕掛ける」
「でも、洞窟内に残っていれば、アミリア様の御身が......」
総隊長が不安を口にする。
その指摘はもっともだ。
「だから、俺が協力する振りをして、おびき寄せる。ここにいる全員の罪だな、とか、何なら隠れているそこのやつら、なんて言ってやれば全員出てくる」
「確かにそれなら、でも、そう簡単にいくでしょうか?」
「あっちは爆発物の使い方から慣れていないだろう。きっと慣れてはいないさ。俺が突入したらすぐに向こうも戦闘態勢を取るだろう」
そう、あの場面で爆発物を使う理由はなかった。
使った結果、爆発物があるという警戒を抱かせたが、場所が割れて兵士が集まってしまった。
つまり、とりあえず使え、と判断した、慣れていない人達だと考えて良いということだ。
まぁ、この作戦で一番危険なのは俺だ。相手をおびき寄せる交渉役で、作戦開始の合図役で、一番槍。責任重大だが、俺の判断で誰かが危険にさらされるよりは良い。
結果としては俺がすぐに死んだら瞬く間に破綻するだろう作戦だった。だが、俺は俺の体が危険に冒されようと、作戦は成功すると判断した。
「即席だし、相手も馬鹿じゃあない。きっとすぐにばれるだろう。けど、これが一番状況解決に向いている」
罪を許す、許さないという選択肢から抜け出せる上に、迅速にアミリアさんを助けに行ける。
「そうですね。そうしましょう」
そこで総隊長の判断も下りた。
――――そして突入の時。
一人の交渉役が突入する。
それを見て、総隊長は息を吸い込んだ。
「かかれえええぇぇぇぇぇ!!!」
総隊長がそれを合図に大声を出した。
それを聞いた兵士は、普通では考えられないほどのバフを受け、盗賊と結果の見えた戦いを始めた。
次回更新2/5深夜投稿。
少々お待ちください。




