表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/62

リザレクション

 神位生命蘇生儀式魔法『リザレクション』、簡潔に言えば蘇生魔法。

 それは不可能だというのは、もはや常識だというくらいには浸透していた。


 魂が抜けて、治癒の枠組みでは綺麗な死体にすることしかできない。

 そう、だれもが教わるはずだった。


「魂を、どうするつもりですか?」


 何か治癒魔法と別枠の魔法なのだろうか、とも思ったが、俺と聖女様の儀式魔法というのだから、治癒かバフか、どちらかだろう。そしてその二つであれば治癒だろうことはほぼ確定。

 ならばどうするのか、と思ったが、その疑問を根底から覆す言葉が聖女様から飛び出た。



「それは七神教の撒いた事実無根の作り話ですよ」



「......デマということですか?」


 その言葉に一瞬、俺は耳を疑った。

 そしてそれを否定できないことに、今になって気づいた。

 確かに、俺は魂を見ることはできない。見たこともない。

 ただ、誰にもできないと言われていたし、俺も不可能だと思っていた。

 事実、俺が死体を以前治癒したときには、元には戻らなかった。綺麗な死体だった。

 だけど、それは魂のせいではなかったとしたら。もしかしたら、治癒魔法で人体蘇生という神業を行えるとしたら。


「そうです。誰も人を蘇らせる魔法なんて使えない。そう教会は言いふらしました。真実がどうであれ」


「真実が、どうであれ、ですか」


 つまりだ、出来るかどうかはわからないけど、使えないと言った。

 それはなぜか。


「もし使える人が現れると、最悪戦争になりますよ。聖女様は、分かっていてそれを?」


 そう、人を蘇らせる力を求めてだったり、単純な不死の軍隊を手に入れたと思ったり。

 後者に関しては、儀式と言っている時点で乱発できないから叶わぬ夢であることは簡単に推測できる。だが、それを求めるのが人間というものだ。


「そうですね。だから、その力を私たち七神教が持てば、大陸制覇も夢ではない。それも誰も血を流さず、単純な外交の交渉材料として使うだけでできてしまう」


 聖女様はごろん、と階段の外側、斜面になっているところに移動して寝転んだ。

 確かに、理論上は可能だ。それは認めざるを得ない。



「嘘ですね」



 だが、その言葉を俺はぶった切った。


「......どうしてですか?」


「私の知る聖女様は、そんな野心を抱く人じゃあないって、会って数日の俺でもわかりますよ」


「......よく、見ていたのですね」


 聖女様は寝転んだままこちらに体を向けてきた。

 俺はその隣の段差に腰かける。


「それで、本当の理由は」


 暫しの静寂。夜の静けさも相まって、時が止まったようだった。

 だが、それもすぐに、聖女様の言葉によって打ち消される。




「――――父に、会いたいからです」


 聖女様はそう、口にした。





「子供のころに殺されて、顔すら覚えていない。会ってみたいと思って当然でしょう。あきらめかけているときに、都合よく可能性が転がり込んできたのですから」


 聖女様は、昔を思い出し語る。

 その可能性に、手を伸ばしたい気持ちがわからないとは言えない。

 それがもし可能なら、挑戦してみたいと思っている自分がいるから。

 だが、それを理性が抑制する。

 お前にそれは必要なのか、そしてお前がそれをすることで、いくつもの命が失われると、分かっているのかと。


「それで平和が崩れるとしても、それでも聖女様はその魔法に手を伸ばしますか?」


 だからこそ、俺はここで覚悟を問う質問を投げかける。

 聖女様が、どんな結論を出すのか。

 正直、他人に自分の決断を委ねるのは好かない。けど、その気持ちを聞いてみたいと、本能が体を突き動かした。


「――――すみません、忘れて下さ「そうですね。平和を崩すのは駄目ですね。」


 俺の言葉を遮って、聖女様は答えを出した。

 聖女様は立ち上がる。そして月をまた見上げ――――呟くように「でも」と前置きを入れた。


「でも、密かに実験をして、失敗をしたらそれまで。成功したら――――それでもそこまで。父以外を蘇生する気も、必要もないですから。それなら平和は、崩れないでしょう」


 そう、口にした。

 それは――――


「可能性があるから、やるんですね」


「はい。もちろんです」


 俺は、そこで止まってしまった。

 実をいえば、そこで止まってほしかった、みんなのためだと、その思想を放棄してほしかった。

 けれど、それほどに、怪我人にあれだけ必死になれる聖女様が天秤にかけて、そして傾いてしまうほどに、蘇生魔法に対しての思いが強かった。


 父以外を蘇生する必要はない、なんて簡単に言ってはいるが、蘇生した時点で、聖女様の父親が生きていればいずれ蘇生魔法は日の目を浴びるだろう。

 そして起きるのは良くて暗殺、悪ければ世界戦争。火種になるのは間違いなかった。


「ほら、夜は冷えますし、明日からは大変です。内容も内容なので結論はまた今度でいいですから、早く部屋に戻るんですよ」


「――――はい」


 聖女様は治療院に入っていった。

 俺は、その場で空を眺めながら考えた。

 考えに考えて、透き通った空と正反対にぐちゃぐちゃの心を抱えて――――

 ――――結局のところ、結論は出なかった。


次回1/31夕方更新予定です。気長に待っていただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ