クレディ
正直、あれほどケルヴィンに言った後、いつも一緒に行動していたクレディに助けを求めるのはいかがなものか、と数瞬悩んだ。
だが、聖女様含め、命が助かるためなら手段も選ばない。それがたとえどれほど確率が低かろうが。
それが今回は、功を奏した、ということだろう。
「私は、あんたを許したわけじゃない。ケルヴィンを犯罪者にしたのはあんたのせいだと今でも思ってる」
感情を抑えた、抑揚の少ない声でクレディは俺に向かう。
「それに関しては、時間がなかったんだ。でも後悔はしていない。いつかそうなると、そうしないとと思っていたから」
クレディには、そう言うしかなかった。
が、クレディはやれやれ、といった風にため息をついた。
「わかってる。だからその話は、あとできっちり聞かせてもらうから」
「......あぁ、分かったよ」
正直、話せることはもうない気がする。
何が起きたかを見ていた彼女に事実だけを話しても仕方がないし、それにそんなことを聞いているわけではないこともわかっている。
けど、それ以外なんて、どう説明しようが相手の同意を得られないことも、同時にわかっている。
けれどそれは、未来の俺に任せるとする。
「それよりも、今は――――」
「そうね。そいつらを――――殺すのね」
クレディは杖を構えた。
魔力が迸ったかと思うと、その瞬間、彼女の周りに火の槍が、今度は九本現れた。
「これがあんたのおかげだったなんて、思ってもみなかった――――」
小さく、呟く。
彼女は自分の周りに浮くその火の槍を見つめた。
それは、ロードがいなくなった瞬間から出来なくなっていたもの。
三本出すので精一杯だったこれも、いともたやすくできるようになっていた。
そして今、ようやく気付いた。
これは、自分自身の力ではなかったことを。
これが、人に与えられた、仮初の力だった、ということを。
もう、遅い。
力を失い、喪失感が体を蝕んでいた。けれど、それは元に戻っただけだった。元は、そんな力なんて持っていなかったんだ。
鍛錬していなかったから、当たり前だ。
なのに私は、鍛錬しなくても強い、天才だと思い込んでいた。
パーティーに入るまでは、そんなことはなかったのに。
パーティーに入るまでは、努力しないと何もできなかったのに。
「何度も魔物に、そして人に殺されかけて、ようやく思い知るなんて」
もう、遅すぎた。
いつもは攻撃を食らってなんていないと豪語していた。
けれどあれは、受けた瞬間に治されていたからだった。
だから、ロードがいなくなった瞬間に、魔物の攻撃が、私たちの命を脅かした。
「けれどそれは裏返せば」
もう、遅すぎた、んだろう。
この歪だった関係に、この与えられた力に気付くのは。
けれど、気付けただけ、手遅れなんてことはきっとないんだろう。
気付けずに、死ぬよりは。
結局、追放したのは、間違いだったんだろう。
実際に、ロードがいなくなったパーティーは大怪我ばかり。治療費もかさんで、もう貯金はなくなった。
なら、裏を返してやる。
「ロードがいる今だけは、私は誰にも負けない」
彼のバフがあれば、想いのままに魔法を使える。
彼の治癒があれば、昔のパーティーのように、死ぬことなんてない。
彼が、ロードがいる今だけは、私は――――
「私は、今だけは最強の魔法使いだ!」
踊るように、火の槍は複雑な軌道を描いて飛んだ。
次回1/27夜予定です。




