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予想外

ぐっすり寝てました、申し訳ないです。

 先に進んで森の手前。

 そこで一行は装備の最終確認をしていた。

 俺は先に謝罪をしていた。


「私事を持ち込んで申し訳ないです、聖女様。これから、作戦を開始しましょう」


 詰め所に行っていた人たちが戻ってきていた。本当に私事を巻き込んだせいで作戦が失敗したらと思うと汗が止まらない。

 しかし聖女様が「大丈夫ですよ。間に合います」とぼそり。そして声高に、宣言するように言った。


「はい、分かりました。すぐにでも始めましょう」


 聖女様が一歩、前に出る。

 その一歩だけで、空気が引き締まるようだ。

 流石は、いつも顔を見せない聖女様。希少性が高いというと物のように扱っていそうなものだが、それだけ聖女様という天の上のような人というイメージが強いんだろう。


「皆さん、これから街に、そして国に害を与える敵を倒しに行きます! 七神様のご加護があらんことを!」


 その瞬間、聖女様がバフを使用した。俺もエフェクトを隠してバフを使用しておく。

 と、その瞬間に光があふれる。

 ん? とそこで違和感を感じた。が、いったん頭の奥に追いやった。


「これが、聖女様のお力......!」


「さっきよりも、強い力を感じる......!」


 集まった者たちが口々に言葉を漏らした。

 どうやら、俺よりもバフが苦手だというのは嘘だったようだ。

 そう思い、聖女様、何謙遜してたんですか、と顔を見る。


 よく見ると、表情こそ崩れてはいないものの、その目は揺れ動いていた。


「聖女様?」


「行きましょう! いざ戦いの地へ!」


 その瞬間、作戦が開始した。




「聖女様、なんでそんなに動揺してるんですか?」



「......はぁ、あなたはいつもいつも、妙に鋭いんですね」


 そう、ため息をついた。

 が、何故動揺しているかは話してはくれなかった。

 だが、もう作戦は開始され、二人っきりとなったから今だからこそ聖女スタイルが終わっていつもの口調に戻っているのだろうか。そうだとすれば聖女とは大変なものだ。

 と、話が終わったのなら、と状況を知るために魔法を使いながら耳を澄ませる。

 森の奥で聞こえる戦闘音は、その激しさを誇張するように鋭く、甲高く響いている。

 金属がぶつかり合う音が聞こえたから、どこかで人間と戦えていると信じたい。


 というのも、魔物の中には特定部位が極端に硬質に変化している場合がある。獣の場合だと爪や牙だろう。上位にもなると毛の一本一本が金属のようになっているという話まである。


 と、話が逸れた。

 もうすぐ、どこかの戦闘が終了するだろう。怪我をしていてもしていなくても、一度帰還して情報を伝えてくれるとありがたいんだが......


 そう思っていた頃、森の奥から四人の人が接近してきた。


「お待たせしました聖女様、聖者様。魔物を討伐したので、その報告に」


「助かります。魔物の死体のほうは?」


「あぁ、マジックバッグを持っていますので。こちらに出してよろしいですか?」


「えぇ、構いません」


 やり取りは進んでいく。

 マジックバックとは、よく言えば容量が拡張された、見た目のわりにいろいろはいる便利バッグだ。

 悪く言えば魔力を常時消費する、魔法使いに持たせると魔法が十分に打てなくなるくせに前衛に持たせると破損と魔力枯渇で体調不良を引き起こす、使い勝手の悪いアイテムだ。

 が、どうやらマジックバッグを持つ人というのがパーティー内で確立しているようで、戦闘にも支障はなさそうだった。


「ロードさん、死体を見て何か気づいたこととかはありますか?」


 小声で、聖女様は聞いてくる。

 まぁ、特に、いつもと変わらず――――?


 そこで、違和感を抱いた。

 それを確かめるために、あちらこちらと探してみる。が、あるものが見つからなかった。


「呪印がない」


 その一言は、聖女様を、そしてその場にいた他の人達をも凍り付かせるようだった。


「いや、けど強化されている......?」


 その矛盾点に、俺は頭を悩ませる。

 それもそうだろう。怪我人が増えているのは魔物が強くなっていたから。

 そして奇襲を受けた人たちには呪印があった。

 単純に考えたら、魔物に呪印で強制的な強化がもたらされたと考えていいだろう。

 二つが別件だという考え方もできるが、その線はほかに比べれば薄いだろう。


「聖者様。一つ、書物で見たことがあるのですが......」


 聖女様から、声がかかる。


「呪術師の使う呪術の対象は、熟練したものであればその対象を生物に限定しない、というものがありました」


 なるほど、そう言うことか。

 聖女様の言いたいことは、つまり――――


「つまり、土地の魔力がかき集められた結果、そこに生きる魔物が強くなった、ということですね」


「その可能性は、大きいかと」


 そう、結論付けた。


「それでは、皆さんはこれから戦闘を回避し、刻まれた呪印を探してください。おそらくは、魔素の動く先に」


 そして四人のパーティーは森へとまた入っていった。

 そういえば、俺が街の外に出てから感じていた違和感も、それなら納得だ。

 ここは、魔素――――魔力の元――――が薄いんだ。それこそ、人が怪我をするレベルまで強化されるのはありえないほどに。


「わかりました、すぐに」


 こういった呪印をはじめとする、座標を固定した魔法はその範囲指定が円状、もっと言えば球状となっていることが多い。

 単純に、中心部分から半径これだけの範囲にこうしろ、と魔法を使用するからだ。

 だからまぁ、ここを仮に球の境目だと考えれば、あと一つ、境目を見つければあとは辿っていくだけで中心部に着く。


 つまり、呪印の発見は時間の問題、ということ。

 それから、懸念事項とすれば......


「どちらかと言うと、聖女様と俺だけがここに残っていることのほうが問題かもしれませんね」


「それはそうですよね、バフが自分にかかったときだけあんなに弱いだなんて、お世辞じゃなかったのかと驚きました」


 くすり、とこらえた笑いを聖女様は漏らした。

 これに関しては、本当に無理なんだよな......何が原因なのか。さっぱりだ。

 聖女様のほうを見る。未だ笑いをこらえている様子だった。





「聖女様、敵です」


 俺は声をかけた。

 周囲を警戒していたところ、三人、武装しながらこちらに近寄っているのを見つけた。

 下手ながらも探知魔法を覚えていてよかったと、そう思った瞬間だった。

 探知魔法は、その名の通り何かを探る魔法。

 今回は人の持つ魔力を対象に索敵。三名が体全身に張り巡らせながら近寄ってきた、というわけだ。

 そうすると、俺にはどう映るか。その体の挙動一つ一つが、俺にははっきりと近くできるのだ。

 ちなみに今回俺が雇った人は全パーティーが四人構成。つまり誰かが欠けなければ三人になんてならないわけだ。


 と同時に、人間の敵が戦っていないということは魔物の部位が硬質化しているということだ。

 一時的、永久的かはわからないが。まぁ、そっちはそっちで勝ってくれと祈るばかりである。バフは切れないだろうから、あとは技量だけ。となると、どこかのケルヴィンよりも信頼できる。


「わかりました」


 この八方ふさがりの状況でも案外、落ち着いた様子で聖女様は杖を構えた。

 が、その手は震えていた。

 こういうときも、聖女スタイルを貫かねばならないらしい。


「そこにいる三人、出てきなさい」


 すると、草むらを分けるようにして三人、男が現れた。


「聖女様と男一人か。やれるな」


「殺さないとダメか? あとで楽しみたいんだけど、クヒヒッ」


「余裕があるし、いいんじゃねぇか? ボス」


 三人の男は、余裕を見せながらもこちらに接近してきた。

 助けを呼ぼうか、と思ったが、兵士は来られない、気付けない。門に見張りはおらず、街に入ってくる人を対象に詰め所の近くから見ているだけだからだ。

 となると単純な人数不利。

 しかも戦闘にはめっぽう向いていない。


「これが、絶体絶命、ってやつか」


 ぼそりと、そうつぶやくしかなかった。

 誰か、近くにいないだろうか。

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