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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第六章

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エンティナ領編ー29





 「メフィスト、どうやらこの勝負、俺たちの勝ちみたいだな」



 「どうやらそうみたいね。まだこの舞台の幕は降りないらしいわ。……でも、まぁそれもいいわね。だって、楽しみは後にとっておいた方がいいもの」



 「何をごちゃごちゃ言ってる。約束通り、お前の正体を聞かせてもらおうか」



 「それを聞いてあなたはどうするのかしら? もし、わたしがあなたの崇拝する女神様だったら、あなたはわたしを許してくれるのかしら」


 「お前が女神だろうが神だろうが、許す気はない」


 「なら聞いてもその答えに価値はないわ。……でも、そうね。わたしの直感が教えてくれている。あなたに教えたらもっともっとわたしを喜ばせてくれるって」


 「何を馬鹿な事を」


 「……いいわ。あなたにだけ、特別に教えて、あ、げ、る」


 メフィストは腰まである長い髪を靡かせ立ち上がると、重力に逆らうようにやおら地面に降り立った。



「改めまして、オルメヴィーラの領主様。私の名前はメフィスト・フェレス。


魔王ヴェンディダート様にお仕えする第六天魔の一人。


魔族、と言えばあなた方にもわかるかしら。


ふふふっ、以後お見知りおきを」



――魔族


 そうか、やはりこいつが魔族。


 道理で手強いわけだ。



 ……それに魔王に仕える第六天魔といっていたか。


 名称からして、どうやら俺は相当の大物を引き当てたらしい。



 やれやれ、運がいいんだか悪いんだか。


 

 「それで、その第六天魔とやらの魔族様のお前がここで何をしている」


 「ふふっ、気になる? そう気になるの。でも、ダメよ。これ以上は教えてあげられないの」


 「だろうな」


 「でも、そうね。一つ良いことを教えてあげるわ」


 「随分と気前がいいな」


 「そう、わたしってとても気前がいいの」


 「それで、お前の言う良い事ってのはなんなんだ」


 「それはね、わたしの目的と言っていいのかしら。この地でのお仕事はすべて終わったわ」


 「仕事だと?」


 「そう。とってもとっても大事なお仕事。だからもうこの場所に用はないの」


 「その仕事内容を教えてくれると助かるんだけどな」


 「駄目よ。欲張りさんは早死にするの。ねぇ、オルメヴィーラの領主様。あなた、まだここで死にたくはないでしょう?」


  メフィストのその妖艶な中に潜む恐怖に満ちた微笑に、俺の背筋は凍り付いていた。


 「そんなに警戒しなくてもいいわ。あなたはわたしの舞台に必要な役者。ここで殺したら折角の演劇が台無しだもの」


 「……お前たち魔族は何を考えている。何が目的なんだ」


 「魔族の目的? そうね、わたしの口から教えてもいいのだけれど、でもそれはあなたたち人間族もよく知っていることだと思うけれど」


 「人間族が知っている? どういことだ!」


「はい、質問はそこまで」


「おい、まだ――」


メフィストは唇に人差し指を充てるとニコッと笑い、それから俺の後方を指さしてみせた。



 「彼女、お目覚めみたいよ」



 メフィストの呪縛から解き放たれ、麻痺から回復したセレナはラフィテアに肩を借りようやく立ち上がると、愛用の剣を握りしめ自分の置かれた状況を必死になって把握しようとしていた。



「おい、セレナ! 無理をするな。まだ動けるような状態じゃないんだ」



 「――うっ、ごほっ、くっ、オ、オルメヴィーラ公、ラフィテアに、それに貴様はメフィストッ! なぜ、私はここにいる。


それにこの怪我。


身体が鉛の様に重い」



 「セレナ様!」


 「……ラフィテア。何が、なにがあったのです」


 「そ、それは……」


 「そう、あなた何も覚えていないのね。ふふっ、良かったわね」


 「メフィスト、貴様何を言っている。オルメヴィーラの領主、一体なにが――」


 そう口にしようとした彼女の言葉はそこでピタリと止まってしまった。


 「シ、シエル……」


 ラフィテアに支えられ、それでも今にも崩れ落ちそうなセレナ。


そんな彼女が目にしたのは夥しい血の海の中、激しく傷付き変わり果てたシエルの姿であった。

 

 「――何があった。ラフィテア、教えてくれ!」


 「くっ……」


 「な、なぜ黙っている。


オルメヴィーラ公、教えてくれ、何が、何があったというのだ。……貴様か、メフィスト、貴様がやったのかっ!」



 「……はっはっはっ、あっははははぁっ!」



 「な、なにがそんなに可笑しい!」


 「だって、最高じゃない。ねぇ、そうでしょ? これが笑わずになんていられないわ」


 「な、何だとっ!」


 「わたしが、そこに伏した人間を殺した? ふふふっ、そうね、そうだったらよかったわね。……でも違うわ。その人間を殺したのはあなた、あなたよ。わたしの可愛いお人形さん」


 「な、何を馬鹿な事を」


 「あなた、自分の手や剣にべっとりと付いたその生暖かい血に気づかないの? あなたの身体はあの男の血で赤く染められているのに」


 セレナはそこで初めて手や腕、剣に付着した大量の赤い血に気づいた。



 「そ、そんな、嘘、嘘、嘘、嘘だっ!」



 「嘘じゃないわ。あの男の全身に付いた傷、斬った本人ならわかるでしょ? あなたほどの剣の使い手なら自分の付けた傷くらいわね」


 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 「セレナ様、落ち着いてください。シエル様はまだ死んではおりません。それにセレナ様はあの女に操られていたのです。どうか気を確かに」


 「し、しかし、私がシエルを――」


 「セレナ様」


 「セレナ・ベータグラム! シエルは操られたお前を助けるためにその身を犠牲にした! それしかお前を救う術がなかったからだ」


 「そ、そんな……」


「シエルはお前の為に命を賭けた。お前を信じこの地の未来を託したんだ。だからセレナ、シエルに報いる為にも前を向け。


お前は剣聖なんだろ!」


「――くっ!」



 「……メフィスト、お前たち魔族がここで何をしようとしてかは知らないが、そんな事はどうでもいい。けど、お前だけはどうしても許さない!」


 「許さないとどうするのかしら?」



 「お前を殺す」



 「今のあなたにはそれは出来ないわ。そうね、たとえここにいる全員が束になっても不可能だわ。それにさっきも言ったでしょ? あなたはわたしの大事な駒。まだ死んでもらっては困るの」



 そう言うとメフィストは突然背中から大きな翼を広げ、二度三度大きく羽ばたきあっという間に上空へと舞っていった。



 「なっ、逃げるのか!」



 「逃げる? わたしが? どうして? もう、この地にいる必要がなくなっただけ」


 「メフィスト! あの男は、オバロ・ベータグラムはどうした!? エンティナの領主もお前が操っているのか!」


 「あぁ、あの男。あの男は違うわ。わたしはただ彼の中に抑圧されていた願望、欲望を解放してあげただけ。わたしは彼の背中を押したに過ぎないわ」



 欲望を解放?


 じゃ、なにか、この状況はエンティナ領主の望んでいた事なのか?


 「他に何かあるかしら? なければわたしもう行くわ」


 「メフィスト、貴様降りてこい! わたしと、この剣聖セレナ・ベータグラムと勝負しろ!」


 「いやよ、手負いの人間を殺しても面白くないじゃない。大丈夫よ、安心して。いつの日かあなたもちゃんと私の手で殺してあげるから」



 「くっ」


 「それまでその命大事にしてね」


 「メフィストォォォ!」



 「じゃ、またどこかお会いしましょう、オルメヴィーラの領主様」



 メフィストはそう別れを口にすると、振り返ることなく俺たちの視界から消え去っていった。






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