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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第六章

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エンティナ領編ー25




 「――あら、あの数千人の兵士たちを退けただけあってなかなかやるじゃない」

 


 足を囚われ身動き出来なくなったセレナを見て、メフィストは目を細め何故か嬉しそうに微笑んでいた。



 「どうやら勝負あったみたいだな」


 「勝負? ……そうかしら? まだ雌雄は決してないと思うけど」


 「負け惜しみを。セレナ様は返して頂きます」


 「あら、負け惜しみなんかじゃないわ。宝石はまだこの娘の体内にあるもの。あともう少し、もう少しで彼女は私のコレクションの一つになるわ」



 「そんな事させるわけないだろ。直ぐにでも宝石を取り除いてやる」



 「あなたたちにそれが出来るかしら」



「いくら剣聖と言ったって動きを封じてしまえばどうとでもなる」



 「本当にそうかしら?」



 「なんだと」



 「私の可愛い、可愛いお人形さん。あなたは空を駆ける自由な小鳥。あなたを縛るその汚らわしい土の呪縛、今すぐその鎖を断ち切って」



 それまで必死に地面から逃れようと藻掻いていたセレナだったが、囁く様なメフィストの言葉に頷くと持っていた剣を空に向かって振り上げた。



 「この程度の魔法でこの娘の動きを封じれるなんて思ったら大間違い」


 「っ! ラック様! セレナ様の、セレナの剣を早くっ!」



 「――少し遅かったわね」



 ラフィテアが彼女の剣を奪おうと駆けだし手を伸ばした瞬間、セレナの剣は鮮黄色に包まれ無数の線となって地面に降り注いだ。



 「……嘘だろ」



 そこには目を疑うような光景が広がっていた。



 鉱石の様に硬く固まっていたはず地面、セレナの動きを封じ、並みの剣で斬ろうものなら一発で折れてしまいそうな強固な牢獄、それを彼女はあの細身の剣を一振りする度に易々と抉り取り、巻き上がった大地は細かい粒子となって宙を舞っていった。



 彼女を止めようにも目に見えぬほどの斬撃はサイクロンの様に渦巻き周囲に一切人を寄せ付けず、見る見るうちに彼女の足が露になっていく。



 時間にして数十秒。



小さな小石がパラパラと音を立て降り注ぐクレーターの真ん中で、セレナは一人何事も無かったの様細身の剣を構え立っていた。



 「だから言ったでしょ。勝負はまだついていないって。さぁ、次はどうやってわたしを楽しませてくれるのかしら」



 くそっ。


 決して油断していたわけじゃない。


 まさかあの状況から平然と難を逃れるとは思ってもみなかった。


 勝利を目前に勝ちを逃した代償は余りにも大きい。


 どうする。


 もう同じ作戦は通用しないだろう。


それにラフィテアは左腕を負傷し、シエルも既に満身創痍。

 


 どうする、どうする。




 メフィストの言葉が本当ならセレナを助ける事が出来るチャンスはあと一回あるかどうか。


 だが、あの剣を掻い潜ってセレナを止めることが果たして今の俺たちに出来るのか。




 「……領主様、この老いぼれの願いの為に、ここまで力を貸していただき誠にありがとうございます」



 「渡りに船だ。気にするな」


 「わたしは何としてでもセレナ様を助けなければなりません。でなければ、でなければロメオ様に一生顔向けできません」


 「……シエル様」


 「領主様、図々しい事と十分承知しておりますが、どうか、セレナ様を救って頂きたい。この老いぼれの最後の願い、どうか、どうか」


 「わかってる。セレナを助けたいってのは、俺も同じ気持ちだ。だけど……」

 

 それ以上は言葉が出てこなかった。


 「よかった。その言葉を聞けてこのシエル安堵しました。……領主様、セレナ様はこの老いぼれが必ず止めて見せます」


 「止めるって簡単に言うが――」



「わかっております、それがいかに困難かということを。だからこそわたしも命を賭けるのです」

 

 「シエル様!」


「命を賭してでも必ずやセレナ様を止めて見せます。ですから、どうか、どうかセレナ様をよろしくお願い致します」



 「シエル様、なにを仰っているのです!」



 「なに、ただの遺言ですよ」



 「っ! 冗談でも言っていい事と悪いことがあります!」



 「冗談ではありませんよ、ラフィテア。至って真面目な爺の最後の願いです。領主様、セレナ様を、このエンティナをよろしくお願いいたします」


 「……あぁ、分かった。約束しよう」


 「ありがとうございます。これで心置きなくやれるというものです」


 「シエル様!」


 「ラフィテア、落ち着くのです。何もわたしは自ら死のうとしている訳ではありません」


 「なら――」


 「ただ、命を賭けなければセレナ様をお助けすことができない、そう判断したにすぎません。あなたも分かっているでしょう?」



 「だからと言って」



 「……では参りましょうか」



 視線を落とすラフィテアの肩に優しく手を置き、そしてセレナの前に覚悟を決め立った男の瞳はどこか慈しむようなとても優しい目をしていた。





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