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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第六章

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エンティナ領編ー23






 セレナの斬撃は白の閃光と呼ばれるだけあって、鋭くそして驚くほど早い。


 彼女が剣を構え抜き放つ初速度は音速を超え、その為斬撃速度に音がついて来れず剣を振るい終わってからコンマ数秒後にシュッという風の切れる音が遅れて聞こえてくる程である。

 

 当然、瞬きなどしていては彼女の剣を受けることなど出来はしない。


 とは言え、セレナの剣自体はその一撃一撃が軽く、男の俺ならば短刀でもどうにか受けきることが出来る。


 ……問題はどうやってあの音速の斬撃を躱し、彼女の懐に潜り込むかだ。


 

 武器を構え低い体勢から刹那にしてセレナの間合いに飛び込んだ俺は右手の短刀を素早く一回転させると鎧の繋ぎ目を狙って正確にそして素早く振り上げた。


彼女はすっと上体を起こし難無くそれを避けて見せると、そのまま身じろぎせず俺の首を狙い細身の剣を振り下ろした。


彼女の剣の動きを見てからこちらが動いていては到底受けることなど出来はしない。


剣の向き、体の流れ、手首そして筋肉動き、視線、殺気、そのすべてを一瞬で感じ取り、行動に転じなければならない。



 思考というよりも反射。


 これも数多の戦闘を経験した者だからこそ成せる技。


考えるよりも前に彼女の一刀を左の短刀で素早く受け流すと、そのままカウンター気味に彼女の首筋を狙い短刀を振り上げる。


 シュッ!


 風を切る音がやけに大きく耳元に響いた。



 ――手ごたえは、ない。



 刃の先にセレナの姿はなく、彼女は数歩下がった場所で何事も無かったようにすました顔で立っていた。



 本来戦闘は苦手、ましてや正攻法など以ての外だ。


 だが、この状況じゃそうも言ってはいられない。


 一度でダメなら、何度でもやるだけだ。


体勢を整えもう一度仕掛けようと武器を構え直すと、背後から二人が歩み寄ってきた。

 

「領主様、わたし共も加勢致します」


 「シエル、ラフィテア。


二人共、頼む。


一瞬だけでいい、彼女の動きを止めてくれ」



 二人は目の前に立つセレナを見つめると、俺の言葉にただ黙って頷いた。



 「……セレナ、あなたは必ずわたしが助けます」


 ラフィテアは誓いを立てるように折れた剣にそっと口づけを交わし大事そうにしまい込むと、代わりにもう一本の予備武器を取り出し覚悟を決めた表情でセレナに向けて剣を構えてみせた。

 


 「セレナ様。あなた様が幼き頃わたしが剣を指南したこと、随分と昔の様に思えてなりません。……剣聖となりわたしの剣などセレナ様には遠く及びませんが、あなた様を救うためこのシエロ、命を賭けてこの剣を振るいましょうぞ」

 


 「必ず、セレナを助けるぞ」


 「「はっ!」」



 「――いいわね。やっと盛り上がってきたじゃない。折角みんなやる気になってくれたみたいだし、この娘にも少し頑張ってもらおうかしら」 


 「頑張ってもらうだと?」


 「そう、私から貴方たちへのプレゼント」



 メフィストはおもむろに立ち上がると突然乾いた空に指を鳴らし、セレナにこう命令してみせた。


 「私の大事な大事なお人形さん。私のお願い聞いてくれるかしら? そこにいる可哀想な人間たちを今すぐそれはもう惨たらしいまでに切り刻んで欲しいの。細かく、細かくね。ねぇ、出来るかしら?」


 「なにを――」


 そう口にしようとした次の瞬間、セレナの剣が俺の頭部を捉えていた。



  完全に油断していた。



  一切向こうから仕掛けてこないセレナに対して、この先もそうだと勝手に思い込んでいたのだ。



くっ!



メフィストの言葉に気を取られていた俺は目前に迫る剣を前に逃れようのない死を覚悟した。


 

 セレナの閃光はその鋭さ故、切られたことさえ相手に感じさせない。


 痛みを感じることなく死に至る剣技。


 

 目の前の剣撃を最後に俺の視界は暗転した。



 

――その暗闇は永遠に照らされることのない終焉かと思われたが、しかし、どういうわけか彼女の剣が俺に届くことはなかった。



 思わず瞑ってしまった目をそっと開けると、そこにはシエルの剣がほんの数センチの所で激しく火花を上げていた。





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