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幸運値に極振りしてしまった俺がくしゃみをしたら魔王を倒していた件  作者: 雪下月華
第六章

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エンティナ領編ー21





 「くっ」



 セレナ・ベータグラムはラフィテアの攻撃からメフィストを守るように剣を振り上げ退けると体勢を崩した彼女を追撃しようとはせず、まるで何事もなかったかのように剣を鞘にすっと収めた。


 

ラフィテアは予期せぬ反撃に一瞬身動きすることが出来なかったが、咄嗟に二人との距離をとると地面に突き刺さった剣を拾い上げメフィストを鋭い目つきで睨みつけた。



 「セレナ様!」


 「どうやら、耳長の知り合いはあの女に操られておるようじゃな」


 「そんな……。神の加護を受けているセレナ様が精神魔法で操られるなどありえません」


 「じゃが、精神干渉魔法特有のあのまるで人形の様に生気のない虚ろな瞳。そして殺気なく無意識にあの女を守るように振るった剣。……十中八九間違いなじゃろ」


 「セレナっ!」



 ラフィテアの悲痛な叫びにもセレナは一切反応せず、彼女の声は全く届いてはいないようだった。



 「おい、メフィスト、貴様たちの目的は何なんだ! 今すぐセレナを操っている魔法を解除するんだ」


 「残念だけど、それは出来ない相談ね。苦労してやっとここまで言う事を聞くようになったんですもの」


 「苦労だと?」


 「そっ。この街の兵士たちは全員まとめて一度に支配出来たのだけれどこの娘はずっと抵抗していたわ。人間がわたしの魔法に耐えたのなんて初めての事じゃないかしら」

 


 エンティナ兵を支配。


 彼らはやはりそういう事だったのか。



 「薬を使って意識を刈り取り、ようやくわたしの言う事を聞いてくれているわ。でも薬が切れたら魔法の効果もきっと失われてしまう」



 「なら、お前を倒して時間が経てば、セレナは元に戻るって事か」



 「そういう事。でも、そうはならない様にコレを用意したの」

 


 そう言うとメフィストは己の口の中に手を深く押し入れると、胃袋からビー玉サイズの赤い宝石を取り出し薄光に当て満足そうに眺めて見せた。



「この娘はまだ完全じゃないの。でもコレさえ飲めば命尽きるまで一生わたしの奴隷になる」



 メフィストは嬉々としてセレナの顎に手を当てると、なすが儘の彼女の顔を上げ大きく口を開けさせると小さな宝石をポトリっと落とした。



 「この宝石はわたしの魔力を注ぎ込み血肉を使い体内で生成した物。随分と時間がかかったのだけれど、こうしてちゃんと完成して良かったわ」



 「メフィスト! お前、自分が何をしているのか分かっているのか!」



 「もちろんよ。彼女がこの宝石を取り込むまで30分といった所かしら。ねぇ、あなたたちすごくドキドキすると思わない? あと少しでこの娘は完全に私の物になるのよ」



 「そのような事、このわたしが絶対にさせません!」



 「いいわねぇ。その怒りと焦りに満ちた表情、とっても素敵。でも、あなたたちに彼女が止められるかしら」



 「くっ!」



 以前の俺ならいざ知らず、今の俺に彼女と渡り合えるだけの力があるのか?


 まして彼女を殺さずに動きを封じ、呑み込んだあの赤い宝石を取り出さなければならない。



 さらに、相手は彼女一人だけじゃない。



 「――ドワ娘。精神魔法を解除する方法はないのか?」

 

 「あるにはあるぞ」


 「どんな方法だ」


 「魔法には魔法じゃ。精神干渉魔法は一種の呪いのようなもの。要はあの女の行使した魔法を解除すればよいだけじゃ」


 「なら――」


 「じゃが、戦闘中に行うのはまず不可能。さらにその魔法自体非常に高度な物。

そこらにいる者が易々と行使できるものではない。それに――」


 「それに?」



 「あやつが飲ませたあの石。アレが何なのかはわらわにも分からぬが、もしアレが魔法以外であの娘を支配するものだとしたら、多分わらわ達に治すすべはない」



 「……つまりはこの場であの石を吐き出させるしか方法はないって事か」



 「まぁ、要はそういう事じゃな」




 やれやれ、数千人の兵士を相手にするよりも更に難易度の高いクエストが用意されているとはな。



 エンティナ兵がいなくなってマグレディーの守りが手薄になったんじゃない。


 オバロ・ベータグラムは鉄壁の守りを手に入れたんだ。




 王国が誇る剣聖が一人“白い閃光”



 彼女がこの地を守る限り、この牙城はそう簡単には崩せない。








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